19.
「竜姫様が姿を消されてから……この世界のバランスが少しずつ狂い始めました。初めは長雨ぐらいのちょっとした異常気象でしたが…それからどんどん天災の規模は大きくなっていきました。その異常気象の影響によって地上でも食料不足となり、どんどん人間からも余裕が無くなってゆき、大規模な戦争が各地で起こりました」
口挟まれへんから黙って聞いとるけど、めちゃ重いやん…この話。
「そしてそんな混沌とした世界が100年を過ぎ、世界崩壊のカウントダウンが始まりかけた地上では姿を隠して統治していたはずの七竜帝がその存在をあらわし、その力によって竜がこの世界を目に見えて治めるようになりました」
「…え?竜って…昔からおったんとちゃうの?」
「同じ世界に存在はしていましたが、完全に人とは住む世界が違ったのですよ。竜姫様がおられた頃の人々は竜がこの世界に存在する事は知っていたでしょうが、実際に見た事などなかったでしょうし、この世界を竜が統治している事などは全く知らなかったと思います」
「へぇ。今ではあんなに熱狂的に竜を称えとるのになぁ…」
昨日見た地鳴りがするほどの歓声を思い出した。どう見ても神様みたいな扱いされとったしな
「それはそうでしょう。100年も続いた混沌の時代を終わらせたのは七竜帝でしたから…彼等は世界崩壊を防いだ英雄とされています。それからは七竜帝達は竜を人々と関わらせ、世界の統治を行なっているのです。ですので人々は七竜帝を神のように崇めているのでしょう」
「ほぇ~、なんや色々歴史があんねんなぁ…」
ただ、今の話を聞いてる分には特になんか問題があるとは思われへんねんけど…リドルリアだってめちゃ平和で人は笑っとたしな…
「…今の話やとなんで七竜帝が暴発すんのかわからんねんけど?」
「七竜帝の力は…それぞれが地上を治める為、神から預かった力だと言われています。本来地上の生物が扱える物では無い神の力を扱う事によって、七竜帝の体にはその反動の力が貯蓄され、その力が……七竜帝を蝕む原因と聞きました」
「……なんなんその反動の力て」
「私もこの話を白龍様よりお聞きしただけで……詳しい事はわかりません。そして本来竜姫様によって行われるはずの反動の力の解放を今は何らかの形で白龍様が抑えておられるのだと思います」
…う〜ん。なんや戦争とか七竜帝の力とか…おっきい話ばっかされたんやけど
「…結局竜姫はどこいったん?」
根本的な問題解決はそこやと思うねん。
「どっかいってもた竜姫を戻したら全部解決する話とちゃうん?」
って………あれ?
「その通りです。竜姫様さえ戻って頂ければ、この世界は再び何物に怯える事なき平和を手に入れるでしょう……雅様」
「……うん?」
…難しい話聞きすぎて忘れとったけどさ
「……あたし竜姫と違うよ?」
「話を理解して頂けたましたら、力を調べてみましょう」
「いや…ちょお待って…」
普通の竜でもめっさ怖いのに…そんな狂気に飲まれかかってる竜を相手にするとか、自殺の領域やと思うんやけど?
「すぐに済みます」
…すぐ済むとか時間とかそういう問題ちゃうねん。
「せやけど…あたし…人間やって」
「確かめればわかる事です」
いややぁぁぁ!!やりたない!!
取りあえず全てを断固拒否の姿勢でおったら、“鈴木さん”が大きな溜息を一個吐いた。
「……ではレイジルは目覚める事は無いでしょうね」
…ん?何や聞き捨てならん言葉が聞こえたような…
「…それどう言う事?」
「ここからは私の想像ですが、レイジルの語部の力は、なんらかの竜姫の力の継承を担っているはず……ですので竜姫に目覚められては困る者によって眠りにつかされたのです」
「それってレイレイ、危険なんやないの!?」
「大丈夫です。いくら七竜帝の力といえども、神からの盟約を持つ者の命までとる事は出来ません」
「……絶対に安全ていう保障はどこにあんの?」
…なんでこんな確信がある言い方が出来るんや
「…知るものは極僅かですが、今世界で眠りについている語部はレイジルを合わせて6体居ます。レイジルのように外部の力によって眠らされたものもいれば、自ら力の封印の為眠りについた者もいます。そのどの個体も命に別状はありません」
「…6体もおんの」
寝とんの白龍だけとちゃうやん…。
「……白龍様を含め、彼等はみな竜姫の帰還を待ち今も眠っている者たちです」
「………」
「雅様……どうか、お力を」
ずっるいなぁ…。『みやびしゃん』ってレイレイの声が頭に浮かんでは消えてくし…
「もし…もしやでっ!!その…力調べて……あたしが竜姫やのぅても……知らんでっ」
「はい。大丈夫です」
…何が大丈夫やねん。あたしが竜姫って確信しとるから大丈夫なんか…間違っててもええっちゅう大丈夫なんか……わからん。
「………ほな、試すだけ………試してみよ…か」
あぁ…やばい事に足どころか首までどっぷり浸かっとる気がする。