17.
「別世界…ですか?」
「せやねん。元の世界で旅行中…っちゅうか旅行前の飛行機っちゅう乗物に乗ってる時に事故にあってな。気がついたら一人でここにおって、そこをレイレイに助けられてん」
ほんませめて帰りの飛行機にしてくれてたら良かったのに…久々の旅行で20万も奮発したのになぁ…全部パァって、20万かけて来たのがこの世界で日々鍛錬とかほんま泣けるで
「右も左もわからへんかったけど、レイレイ連れとったらなんや知らんうちにリドルリアの竜騎士見習いになっとったんよ」
「…それは、大変でしたね」
「まぁ…レイレイに会えたんが奇跡やなぁ。じゃなきゃ行き倒れてたやろし…」
レイレイさまさまやで。…せやけど、今思うとなんであの時レイレイはあんなとこにおったんやろか?この世界の常識をある程度わかった今でこそわかるけど、本来幼竜のレイレイは城の中でも竜舎の奥で厳重に守られてたはずやのに、会った時の一匹でウロウロしとった状態自体がおかしいし……そう言うたら
「さっき“鈴木さん”あたしに会ったん運命とか言っとったし、隠密にあたしを助ける為とかって…言っとったやん。あれ何?」
ずっと“鈴木さん”のちょっとした言葉が小骨が喉に引っかかっとるみたいに頭に残っとったんやけど、白龍様の話を聞いたらさらにわけわからんようになった。あたしがこの世界に来たんは3ヶ月前、千年も眠りについとる人があたしが来た事を知る術はないやろうし……もしかしてレイレイとなんや関係があんのかも知れへん。
「白龍様は眠りにつかれる前に私に予言を残されたのです」
「……予言?」
「はい。「名を封印し、赤き語り部の助けに応えよ」と」
「…え、千年前に?」
いやいや…確かにレイレイは赤い竜で、他の竜から語部とかって言われとったけども…
“鈴木さん”はあたしから視線を外して部屋の窓へと視線を向けた。
「…白龍様が眠られてから、一人この宮でその時をずっと待ち続けました。…予言の遂行の為に赤の語り部の存在を求める自分と予言よりも白龍様の目覚めを望む自分との葛藤の日々でした」
…このでっかい宮に独りぼっちで、いつになるかもわからん予言っちゅうやつを待ち続ける。
「千年待ち続け、今日…レイジルより連絡を受けた時、私は歓喜に震えました。ようやく予言の時がきた…と。そして雅様に出会ったのです」
窓から視線をあたしに戻してめっちゃええ笑顔をこっちに向けてきてくれるんは嬉しいねんけど、さっきとはちゃう罪悪感が…“鈴木さん”の存在なんて今日まで1ミリも知らんかったけどさ、なんやろめっちゃ待たせて大遅刻した気分や。
…せ、千年の遅刻て謝ったら許してくれるレベルなんやろか?
「な、長い間…お待たせしまして…」
ほんまにその待ち人があたしかどうかも不明やけど…
「………竜姫である雅様が戻られた事で、やっとこの世界を元の状態に戻すことが出来ます」
ん?なんや聞き捨てならん言葉が聞こえてんけど?
思い出すんはリドルリアの竜舎で竜達の会話で、やつらが言ってた竜姫と同じやつならさ…さっき思い込み自爆っていう恥ずかしい技を繰り出したんやけど?
あれをまた経験せなあかんと思うとよぅ聞き返されへんねんけど?
「……竜姫って天宮におるんとちゃうかったっけ?」
「おや…もぅ竜姫をご存知でしたか」
思い出したくない恥ずかしい自爆の記憶と一緒に封印してたのに…
「リドルリアの竜達に聞いたわ…」
「……そうですか」
多分あたしの返事がなんかひっかかったんやろうなぁ、“鈴木さん”は右手を顎に添えて、その腕を左手で支えながらなんや考えてるみたいや。
考える人みたいなわざとらしい姿でも違和感あらへんどころか絵になるってやっぱ美形って凄いよなぁ。
そんなん考えて“鈴木さん”を観察しとったら、考えがまとまったんか考える人のポーズを止めてまたゆっくりテーブルに手を戻しはった。
ほんで一呼吸して口を開いた
「………あの天宮にいる竜姫は偽者でしょう」
……自爆どころか、どえらい爆弾落としよったんですけど!