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竜姫  作者: 月下部 桜馬
1章 白龍の眠り
15/33

15.

 この状況の変化にちょっとついていけてへん自分がおんねんけど…


 「どうしました?」

 「いや……あの」


 まず場所があかん……宮て凄いやん!もぅ感覚が城やで。さっきから豪華絢爛な装飾が視覚の暴力みたいに威圧してくるしや………床の絨毯なんてふっかふかやで!!

 体育館で式典に使われるようなでっかい壷も瑞々しい花で溢れてるしやな…(壷の大きさが一緒なだけで、一目見て値段は比べたらあかんてわかる…)

 …目の前のテーブルに並べられとんのはイギリスのアフタヌーンティーかって突っ込みたくなるような3段重ねのティースタンドに、それはもう彩色が素晴らしいティーカップ…暑かったし、喉は乾いてんねん…せやけどあかん、食器が全部あたしの目にはお金のマークがちらついて、手も出されへん…。割ったらいくらすんねん…コレ。

 

 「どうぞお飲み下さい」

 「……はぁ、頂きます」


 ニコニコ進める美形くんに気不味くて言うたはええけど、無理やろ。そらあんたはこの豪華絢爛な世界に一秒たりとも違和感を感じさせへん佇まいと顔をされてますけど、一般ぴーぽーにこの扱いは逆に拷問に近いで……


 ティーカップを持つ手がカタカタ震えんのはしゃーないやん。……緊張で味なんかよぅわからへん……喉の乾きが癒されるはずがなんか別の意味でカラッカラやで…


 「………」

 「………」


 目の前の美形くんは優雅に目を伏せてお茶を飲んで、スコーンなんか口にしてる姿はまるで絵姿や。………会話する気配は今の所全く無い。思わず半目で睨んでもたんは疲れてるからやで…あたしの眼力が思いの他功をそうしたのか、美形くんの視線があたしに向けられた。


 「……お口に合いませんか?」

 「いや…そうやないんですけど…」


 今は食事を楽しむ時間なんかもしれんけど、これ以上テーブルの物に手をつける勇気はあらへん。本音言うたら今すぐどっかの普通の宿にでも連れてってもろて、あたしを解放してくれたら「ありがとぉ」ってすっきりすんねんけどなぁ。もぅ今日一日起こった事であたしのライフポイントはゼロどころかマイナスやし…疲労困憊や。今すぐ布団で寝たい。

 あたしの手が動かないのを見届けたら、美形くんが話はじめた。


 「………突然びっくりされたでしょうね」

 「?」


 …あたしの思考回路は閉店準備を始めとるから、美形くんが言うてるんが「あたしが異世界に来た事」を言うてるんか、「さっき襲われた事」を言うてるんか判断がつかへん


 っていうか、この美形くんはあたしの事をどこまで知ってんねんやろ?レイレイと知り合いなんはわかったけど



 ……あたしが違う世界から突然やってきたとかって知ってんねんやろか?

 

 「………そう、やねぇ」


 ビバ!日本人特有、誤摩化し!



 ……嫌な事に気付いてもた。

 もしかしてもしかせんでも…よう考えたら身一つで着いて来たあたしの生殺与奪は全部美形くんの手の中なんとちゃうん?


 「………」

 「?」


 「カシャン」と美形くんがカップを皿に戻す音が響くほど静まりかえった部屋の中で、あたしはへらへらと笑うしかできひん。


 …下手な返答してさっきの青い光があたしに向けられたらど、どないしよ。お願いですから…閉店してもてる脳みそにど、どうか難かしい質問とかせんといて下さい。


 「………みやび様。さきほど私を「はぃぃぃぃ!さっき美形くんの事睨んでしもてすみません!!!」」

 「………」

 「絵になる姿に嫉妬しただけなんですぅぅぅ!!」


 美形くんが発した声に被せて叫ぶように謝った。もちろん椅子から立ち上がって最敬礼の45度で頭も下げる。



 謝ったもん勝ちである。


 「みっ雅様!!突然何をなさいますか!!」


 ……逆ギレで返された。


 「私などに頭を下げるなど………」


 いやいや…そもそもあんたが誰かも知ら〜ん!最初が宿の襲撃やったから自己紹介とか一切あらへんし、なんや砂漠で死ぬかも思たらティータイムて……どないやねん!しかも美形くんあたしの事マサやのうて、みやびって呼んだって事は向こうはあたしの事知ってるんやん!


 「…『私』がどなたか存じませんし、せやからとにかくお名前から伺ってよろしいか?」


 逆ギレに腹立って、言葉の端々が尖った声になったんはしゃーない思う


 「…申し訳ありません。あの状況だったとは言え名乗りを忘れるとは…」


 美形くんは怒鳴ったり青い顔したり…忙しい人やで…。


 「いや…あの…命助けてもろたんで…そんな気にせんで下さい」


 ……めちゃ青い顔して謝られたらこっちの罪悪感がハンパないんや……視線も下向いてもたし。


 「雅様…ありがとうございます。私は、白龍はくりゅう様の下僕で****と申します」


 ……やっぱ名前が聞き取られへんねんけど、異世界翻訳の都合なんやろか?


 「……ごめんなさい。お名前が聞き取られへんかったんですけど」

 「?」


 せやね〜!ちゃんと自己紹介してくれたのにこの近距離で聞き取られへんって失礼すぎるし…でも口から出てもた言葉は取り消されへんし……


 「度々申し訳ありません。相手に気付かれぬ様に隠密に雅様を助けるため、今は名が白龍様によって封じられているから聞き取る事が出来ないんでした」


 …そっちの都合やったんかいっ!ってか美形くんけっこうウッカリさんやんかっ!!


 「……しかし、呼んで頂く名が無いのは不便ですね」


 いや…別に頭の中ではずっと美形くんやったから、今更困らんし


 「先程私に向かって仰っていた……“ビケイ、クン”でしたか?あれを仮名にどうでしょう?」

 「ちょっとまったぁぁ!!」

 

 あかん…それはあかん!いくらあたしが頭の中で呼んでるからって現実のあだ名はあかんよ。美形が自分に“ビケイ”て……ナルシスト満開やん


 「ダメですか?…名のように聞こえたのですが……何か意味でも?」

 「え〜っと………その…ほら!あれやん!!彼等とかの不特定多数を指す言葉と同じ!そんなんで呼ばれたら……嫌とちゃう?」


 …不特定多数を指す言葉なんは間違ってへん。たとえ限定されていようとも…


 「そうですか……では、名を頂けませんか?」

 「は?」

 「レイジルは“レイレイ”と名を頂いておりましたね。私にも…名を頂けませんか?」

 

 「いや…レイレイは愛称であって…」なんてちっちゃい声で返しても、期待の込められた視線はあたしをまっすぐ見つめとって……



 …どうすんねん。レイレイみたいな元の名からの愛称ならまだしも、一から相手に名付けるって………若干顔色が悪くなったあたしを見て美形くんが苦笑してきた


 「名の封印を解くまでの仮名ですから、今からお話をするのに少し使うだけの名ですのでお願い出来ませんか?」


 …仮名。せやな………別に赤ん坊の名付け親になるわけやないんやし。リアル美形くん呼びはあたしも嫌や……せやけどこの世界の普通の名前である横文字の名前なんて思い浮かばへんねんけど。



 …青い髪やから…青嵐せいらん………あかん、自分の厨二病さらけ出しとるみたいである意味、美形くんより恥ずかしい。


 頭に思い浮かぶ名前がどれも厨二ちっくなんはなんでや〜!!!!


 それ以外に思いついた名が“太郎たろう”だけやなんて……青髪の美形を太郎なんて呼べるわけないやんっ!!


 そんな名付けで苦戦するあたしの頭にふっと思い出された人物。





 「……鈴木すずき美奈みなちゃん」



 …彼女は元世界の職場の後輩で……名付けのスペシャリストやった。美奈ちゃんがつける同僚の愛称定着率は100%やった。今……彼女のスキルが心底欲しいと思う。


 「“スズキミナチャン”ですか?」

 「え?」

 「ちょっと長いですが…雅様がそれでとおっしゃるなら」

 「ちっちっが〜〜う!!」


 美形の男捕まえてミナチャンはやばい!!やばいけど……






 どうせ仮名やし、





 違う世界でバレる事もあらへんし、






 可愛かった職場の女の子の名前でもええやん!





 「“鈴木さん”でいいですか?」



 投げやりでもなんとでも呼ぶがいい…。そもそもセンスゼロのあたしに名付けは無理やったんや。





 「“スズキサン”……ありがとうございます」





 はにかむ美形くん、改め鈴木さんに…罪悪感が右肩上がりに増加中。

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