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竜姫  作者: 月下部 桜馬
プロローグ
1/33

1.

 竜とは未知の生き物


 輝く鱗に覆われた身体は何にも傷つけられる事は無く、その爪は全てをなぎ払う。

 家族と種別愛に溢れ、つがいにのみ唯一の愛情を注ぎ、身の内にいれた弱き者を守る

 人型のその容姿に人は惹きつけられ、一目でも瞳を覗いたものは囚われ気を狂わせる


 ただ人の記録に残るものなどわずかしか無い。



 七竜帝が存在する事を知る人間は少ない。



 竜帝達は雌雄問わず全てつがいを持たない。

 そして彼等がただ竜姫の存在だけを愛する事を人間は知らない



 ***



 『みやびちゃん!雅ちゃん!』


 一人でせっせと鍬を使って藁をふかふかにしとったら、竜舎の隅から小さな赤い竜がびゅんと飛んできてあたしの肩に乗った。


 「なんやレイレイ久しぶりやな。おったんかいな。オカンから離れて大丈夫なんかいな?」


 あたしの肩に乗る幼生竜の名前はレイ……レイジルアーレイなんちゃらかんちゃらって長い名前やった…ので略してレイレイ。


 『雅ちゃんだいちゅき~やっと会えたぁ~』

 「おぉ~かわええなぁ。あたしもレイレイ大好きやで~」


 あたしがおるのはリドルリア国の首都ファーグ、そしてここはその首都ファーグの中でも城内にある騎士団の中の竜舎…っつっても普段竜はここに居ない。気ままに空を飛んでるか、どっかにいってるらしい。

 まぁ呼んだら来る距離にはおるっていうから…そんな感じなんやろ…ようわからんけど


 毎日掃除しててもレイレイ以外の竜なんてみたことあらへんしなぁ~レイレイのオカンは母竜で出産後の回復の為に今は竜殻で眠っとるそうで別の場所におるらしい。本来子供は竜殻の側でずっと眠っておるらしいけど…ちょっと変わったこの子は外出が好きなんやそうだ。


 何であたしが竜もおらんこの竜舎にいるのかって?…それはまぁ…仕事やから?


 なんやようわからんうちにタイムトラベルならぬ異世界トラベルをしてもたあたしは、このちょっと変わった竜のレイレイに救われた


 「ほんまは今頃常夏の島に行ってる予定やったんやけどなぁ…」


 ワイハーへ行く為に乗っとったはずの飛行機で気がついたらこのわけのわからん世界におった。周りに飛行機の残骸らしき物があったから不時着でもしたんやろうけど…一緒に飛行機に乗ってた人達の姿は無かった。遺体なんて見とないから全員が助かったのは良かったんやけど、あたしは目ぇ覚めたんが一番遅かったから死んだと思われたんか確認もせんと放置されてたみたいや。置いてかんでもええのにひどすぎる…と当初はやさぐれた


 近くに発見した自分の旅行鞄をゴロゴロ言わせて途方に暮れてるとこをたまたま外出してたレイレイに見つけられ、この町まで連れてきてもろたまでは良かった。せやけど町の人はあたしの頭に乗っかったレイレイを見て「竜に懐かれる貴人」とか叫びだして、あれよあれよと王宮まで連れてこられてしまった…レイレイはそこの城にオカンがおったみたいで騎士団長とかいう人に連れて行かれ…あんときはえらい暴れようやったわ。で、なんやわからんうちに竜騎士見習いとかってなってもうたけど…


 周りを見ても男・男・男…。


 あたし外見はどうであれ戸籍上は女やし、どうみても職種間違ごうた気がする


 あれからもう3ヶ月。


 「おぃっ!!それが終わったら今度は水の補給だぞっ!!」

 「はいなぁ~」


 あたしがペーペーなのをいい事に竜舎の外でサボってる先輩騎士に叫ばれる。本来5人でやるはずの仕事やけど今竜舎の中におるのはあたし一人。


 「後輩いびり受けるなんて中学のクラブ活動以来やわぁ~」


 もともと上位騎士と呼ばれる騎士の前に名が入るもの、例えば黒騎士とかは貴族の中でもエリートやそうで、そんな色んな騎士の中でも竜に選ばれへんとなられへん竜騎士はど偉いらしい。元々貴族が中心に構成されてる組織やから明らかに平民のあたしがぽっと入ってきたのが気に食わん…なので後輩いびり。

 単純すぎてうける。これが女の園やったら泥水飲まされたりとかもっとネチネチひどい事されんねんやろうけど、体育会系ぼんぼんの集まりやからそれほど陰険な事は今の所されてへん


 脳筋族…早く知力が追いつくとええな。

 心を込めて君たちをぼっちゃん先輩と呼ばせてもらうわ、心の中でやけど…


 「マサ!!早くしろよっ!!」

 「はいはぁ~い」


 マサ…それがあたしの今の名前。なんや王様に会った時、レイレイが離れる際に『ミヤビだめ~。他の名前言う~』と小っちゃい声でお願いされてしまって咄嗟に出た名前が雅の別の読み方で「マサ」やったんやけど…それも間違いやったんか、男への勘違い道まっしぐらやった。


 『…雅ちゃん、あいちゅら燃やす?』

 「こらこら物騒な事言うたらいかんよ?これぐらい何でもあらへんし」


 レイレイの心配げな声が聞こえてきたけど、あたしはそれににっこり笑って首元をなでてやる。すると気持ちよさげにグルグルとレイレイが喉をならす


 『雅ちゃん…だいちゅき』


 こう言ってくれる存在がおるんは幸せやと思う。実際、墜落した飛行機に乗っとって生きてるだけ儲けもんやった思うし、しかも無傷。異世界に飛んだっちゅうても衣食住は保障されとって今のところ生活も全然困ってへんあたしはほんまに幸せなんやと思う


 元々起こった事にうだうだ言うのは性に合わへん性質やしな


 よっしゃって身体を鍬で支えながら腰をトントンと叩く。


 「ほんまにぼっちゃん先輩らは…若いねんから働けっちゅうねん」


 28歳…なかなかええお年やから重労働は腰にくるで。10代の少年共が可愛くもあり憎くもなる微妙なお年頃や…


 「次は水や水!」

 

 それにしても竜もおらんのにこうやって環境だけ整えとくっちゅうのは無駄な気がするわぁ。機嫌を損ねたら大変な事になるからって初日にあたしよりちょっとだけ先輩騎士のアトムさんに色々と教えてもろたんやけど…


 「誰も飲まへんのに、ほんま無駄やろ…これ」


 竜舎の外に出てみると既にぼっちゃん先輩らの姿は無く、どうやら勝手に休憩場所を変えたらしい。あたしはてくてく歩いてすぐ側の竜専用の水くみ場に向かう。異世界っていうても水道もあるし近代設備ばっちりやから普通の生活には全然問題無しやねんけど、竜関係の物は別らしくて水くみ場も北の霊峰から直接引いたものらしく水道やない。藁もなんやその霊峰とやらでわざわざ作られてる物やから丁重に扱えと言われた。


 『もうちゅぐ皆戻ってきまちゅよ』

 「へぇ、そんなんわかんねんや、竜って便利やな。ほんならきちんと水も入れとかなあかんね。藁のふかふかさを気に入ってもらえるとええんやけど、会われへんしなぁ」


 騎士になる時の説明で竜気にやられるから竜に会えるのは上位の竜騎士だけやと聞いたし、戻ってきたとしてもおっきい竜には会われへんねんなぁ…ちょっと残念。


 「でも、レイレイ可愛いからえっかぁ!!」


 ぼっちゃん先輩方はレイレイにすら会われへんのやしなぁ〜


 『雅ちゃ〜ん』


 あたしは両手に汲んだ水バケツを持ってえっちらおっちら水汲み場から竜舎へ戻る。レイレイも手伝ってくれたのでいつもは6往復のところが今日は半分で済んだ

 あのぼっちゃん先輩らよりよっぽど使えるでレイレイ!


 「よしっ!完璧や!!レイレイありがとうなぁ〜」


 あたしは出来映えに満足しながらレイレイの首を撫でたった。気持ち良さげにすり寄ってくるレイレイはほんまにお持ち帰りしたい。まぁ…レイレイのオカンが心配するからせぇへんけどね…


 『雅ちゃんのおてちゅだい〜ちゅき〜』


 舌ったらずもかわええのぉ〜。…あかん、自分の中のおっさん化現象が進んどる。

 そやけど鱗類は愛でなあかんもんなぁ。実際愛でたらレイレイの鱗の光沢が美しなってる思うし、わしわしと動く自分の手に呆れとったら遠くから聞き慣れたぼっちゃん先輩らの声がした。


 あいつらにレイレイは勿体ないので見せられへん…


 「ほんなら仕事終わったしあたしも御飯食べに家帰るよって、レイレイもきちんとオカンのとこ帰りぃや」

 『……でもボクまだ雅ちゃんといちゃい』


 ぐはぁっ!!そんな潤んだ目は反則や…。そんな顔を他に見せようもんなら即布袋に突っ込まれてどこぞに誘拐されてまうでっ!!


 「オカンまだ目ぇ覚めてへんのやろ?心配させたらあかんでぇ」


 心を鬼にしてあたしは怒ったフリで軽いゲンコツをレイレイの頭に落とす。


 『……だって』

 「そんな我侭言う子は嫌いになってまいそうや」

 『帰りゅ!!すぐ帰りゅっ!!またすぐ会えりゅよね!!』

 「聞き分けのええ子は大好きやし、いつでも来たらええねんよっ!」


 そう言ったったらレイレイは尻尾をご機嫌に降りながら、すぐに空中に浮かんでクルンと一回転して姿を消した


 「…いっつも思うけど、どんな仕掛けなんやろうなぁ」


 そんなあたしの呟きと一緒に聞こえてきたのはぼっちゃん先輩らの怒声


 「何ぼぉっと突っ立てるんだよ新人がっ!!きちんと小屋出来たんだろうな」


 ほんま…弱いやつの叫びってピーピー五月蝿いわ…


 「出来ましたよぉ〜見たって下さい完璧ですから」

 「なっ!?こんな短時間に一人で出来るわけないだろうがっ!!」


 せやけど出来ちゃってんもん。まぁレイレイが手伝ってくれたってのが大きいけどなぁ、おおきにレイレイ。


 どかどかと竜舎に入っていくぼっちゃん先輩らを横目に、あたしのお腹がぐぅぐぅと労働の対価を求めとる。


 …帰ってもええやろか?


 「せんぱ〜い。確認すんだんなら帰ってもええでっしゃろか?」

 「………」


 あんなに怒り肩で入っていったのに、出てくる時の意気消沈顔…うける。

 脳筋族は打たれ弱いのぉ〜。まぁ、君らのやり方やったらまだ藁さえも片してないやろうからなぁ…仕方習たけど要領悪すぎやねん。これやからぼんぼんは困るわ…


 「ほんならお先失礼しま〜す」


 一応頭は45度に下げて「おつかれっしたぁ〜」と口にしてその場を去ってやる


 ふふふ…今のあたしかっこええんとちゃう!!


 すぐにぼっちゃん先輩の事なんか頭から消失して頭を占めるのはお昼御飯。お城の食堂やったらID見せたら竜騎士待遇で給料天引、割安なんやけど…なんや今日は城下町の屋台で食べたい気分…スケジュール的には竜舎の清掃だけやったから半ドン扱いになるんやしなぁ…ちなみにぼっちゃん先輩らはあれでも腐っても竜騎士やから午後から鍛錬に身を置くんやろうけど…あたし脳筋一族ちゃうし…身体いじめんのは予定分だけでお腹いっぱい


 「きぃ〜めたっ!今日は疲れたし屋台のデレデレセット食べたんねんっ!」


 …ちなみにデレデレセットとはデレデレっちゅうハンバーガーみたいなんと身体に悪そうなシュワシュワドリンクがついたセットの事、ちなみにセットは勝手にあたしが呼んでるだけやけどね…


 それにしてもいちいち竜舎に行くのにID通して城内を通らなあかんのが非常にめんどくさいねん…そのまま城外に出れたら楽やのに…。竜最強って言われてんねんから竜舎襲うようなアホおらんやろ?…あ、でもぼっちゃん先輩達は死にそうやな。

 

 「ほんまめんどくさいわ…気分はデレデレセットやのに食堂の誘惑に負けたらどないしてくれんねんっちゅう話や…」


 さっきからあたしのお腹はぐぅぐぅ対価を求めっぱなしで、城内にいる人間に聞かせるのは乙女としてはあるまじき恥ずかしい状況やしな…っていうのはあっさり杞憂に終わった。

 

 いつもならしんと静かな城内が、あたしのお腹音なんかかき消すぐらいてんやわんややった


 「…あらま、皆どしたん?」


 主に蒼と白の軍服を着た騎士がばたばたしとるのが見える。…っちゅう事はつまり竜騎士がばたばたしとるっちゅう事で…しかも肩章が銀やら金やらっちゅう事はお偉い関係さんが動いとるって事やなぁ…


 「…レイレイがもうすぐ竜達が帰ってくるって言うとったっけ?」


 上位竜騎士の会話から聞き取るに、どうやら今日は5体全ての竜が帰ってくるらしい。やれ騎乗者を呼べやなんやと叫び回っとる。ちなみに竜騎士の中でもほんとに竜に乗れるのはほんの一握りどころか5人だけ…竜騎士団長、副団長、他3名。後は竜騎士の名だけの歩兵部隊が50人ほど。竜騎士ならぬ竜世話係と呼ばれてもおかしない立場の人間ばっかやし…


 「…へんなの」


 せやけど、その5体の竜で一国が潰せる力らしいから…恐ろしいもんなんやろうなぁ竜っていうのは…あ、竜が50体もおったら逆に扱いに困るわな…今でも竜舎あんなばかでかいから世話係は大変やのに…


 まぁ何にしても良かった良かった、今日の竜舎の準備が無駄にならずに済みそうや。


 そういえば、ぼっちゃん先輩に帰ってくるでぇって言うのすっかり忘れとったわ…

 ほんまにすぐに帰ってくんねんなぁ…あんなに小っちゃいのにレイレイは賢い子やでぇ。


 「…竜が帰って来てもあたしら下々には関係あらへんし。帰るでぇ〜!」


 まっとれデレデレセットぉ〜!

 とあたしはざわつく城内を後にするのであった。

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