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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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作者: 赤川ココ
掲載日:2026/06/03

手慰み第数弾であります。

お楽しみいただければ、幸いであります。

 離れが騒がしくなり、伯爵の介護をしていた女が、暇乞いをしたと、本邸にいた男女も耳にした。

「やっとか。意外に、長くかかったな」

 中年の男が愛人と共にほくそ笑み、最後の仕上げに介護人を本邸に呼び出した。

 伯爵で、男の妻が病に倒れたのは、二か月前だ。

 その頃、娘の采配でやって来たのが、何処かの平民の商会から派遣された、三十半ばの女だった。

 その女が今回、暇乞いしたと言うことは、伯爵は危篤状態で、介護が不用な状況なのだろう。

 女がやって来た時は、信頼出来ない余所者を家に入れた娘に、憎々し気持ちが湧いたが、これからのことを思うと、渡りに船だったなと考えが変わった。

 念には念を入れ、娘に伯爵の死の責任を押し付ける方法が出来た。

 使用人に女を呼びに行かせている間に、愛人にその策略を話し、楽しく笑い合っていると、執務室のドアがノックされた。

 返事をすると、ドアを開けて女が入って来る。

 長身のその女は、静かに頭を下げ、声を出した。

「お呼びと聞いて参りました。何か、ご用でしょうか?」

「伯爵が大変な時に、暇乞いをしたと聞いたが、本当か?」

「はい」

 探りの問いに、女はあっさり答える。

「これから先は、私の出る幕ではありませんので」 

 出る幕はあるだろうと、男は内心笑いながら、険しい顔を作った。

「また、回復する見込みがあるやもしれんのに、自身の判断で逃げる気か?」

 女が首を傾げた。

「お医者様の判断ですが。それに、逃げるとは?」

 心底不思議そうに、女は続けた。

「逃げなければならないとしたら、あなた方でしょうに」

 自分の不審さに考えが及んでいない女の言い分に、二人は思わず笑ってしまった。

「我々は、逃げも隠れもしない。瀕死の伯爵の後を引き継がなければならないからな」

 キョトンとして首を傾げる様も滑稽に思え、笑いを抑えつつ答えたが、女は首を傾げたまま眉を寄せた。

「瀕死とは、伯爵様の事ですか? お医者様のお話では、もう安静にしている必要もないほど、回復されているはすですが」

「……何だと?」

 耳を疑って改めて見た女は、首を傾げたまま続けた。

「既に事務処理や今後の処理を、お嬢さまと共にこなしておられます」

 だから、介護士はお役御免なのだと、女は笑った。


 女伯爵が倒れた時、平民を主に従業員としている商会に、介護士の要請依頼が入った。

「依頼主は、国でございます」

「く、国だとっ?」

 仰天する伯爵家の入婿に、女は丁寧に説明していた。

 健康だった伯爵が突然倒れ、意識不明になったのを受け、真っ先に薬物が疑われたのだ。

「依頼内容は正規の介護と、以前から伯爵が服用している薬の、然るべき機関への提出、その他諸々でこざいました」

「……っ」

「薬の半分ほどが、徐々に身を崩す薬とすり替わっておりまして、国が斡旋してくださったお医者様の指導の元、治療がなされておりましたが、一昨日、全快した旨を伝えられました」

 徐々に顔を強張らせ、挙動が可笑しくなる二人を見ながら説明を終えた女は、丁寧に頭を下げた。

「非合法の薬物の入手経路も、入手した人物も特定済みと聞き及んでおりますので、あなた方が対処に追われる心配は、ありません」

 まあ、別な心配の必要はあるだろうがと、女は小さく笑い、最後の挨拶と共に応接室を後にした。


 契約を終え、商会の事務所にやって来た介護士は、ちょっぴり不満だ。

「この数年、国からの依頼が増えてません?」

「ああ。オレらが中堅の従業員となってから、特に増えたな」

 可笑しな癖を指摘され、騎士職を降りた過去がある介護士たちは、自分たちを捨てた相手が掌を返して頼って来るこの現状に、不満を覚えていた。

 が、無下には出来ない。

 捨てられはしたが、この商会を世話してくれたのも国で、何よりも現在も、騎士の枠から外れた同志を、率先して紹介してくれるからだ。

 お陰で、比較的体力のある業種が多い商会が、人材で困ることは少なくなっているが……。

「若い子は、私達の境地に、中々達してくれなくて、介護依頼だけで手一杯だし、国からの依頼が多いせいで、最近希望の頑固な御老体のお世話の枠を、確保出来ないんですう」

「意外に、人任せにしてくれないんだよな、その手の御老体のいる家」

 副会長である男が、国の依頼と本来の介護依頼をうまく振り分けてくれるため偏りはないが、今回のように指名されての依頼は、どうしても偏ってしまい、比較的国の指名が多い女は、本来の仕事が年々出来なくなっていた。

「あー。罵倒が恋しいよう」

「……」

 盛大に嘆く同期を、比較的恵まれていた男が、何とも言えない気持ちで見下ろす。

 冗談の声音だが、本音だ。

 外面でその変哲な癖を隠す術を身につけた彼らは、真面目で誠実な介護士として、その道では有名になった。

 有名になると、似た商売を始める輩が増え、報酬額が変わらない自分たちからは、自然と客は遠ざかっており、ますます希望の介護にはありつけない。

 辺境の貴族に請われ、この数年契約更新をされている男は、最近主人の生優しい態度に限界を迎え、契約終了を決めたが、次の派遣先は見つかっていなかった。

「若い患者も、視野に入れて探してくれると、事務員は言っていたぞ」

「え、本当?」

 今席を外している事務員の言葉を伝えると、女の顔は輝いた。

 気持ちが分かる男も、内心ウキウキして、事務員の帰りを待つ。

 騎士をクビになって、約十数年。

 まだまだ、気性の衰えは、なかった。

自虐癖介護士たちも、中堅になりました。

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