「夢見がちな私はイケボなカーナビに惚れられた」
彼氏にフラれた腹いせに、車を買ってみた。
もちろん中古・ローンで。
これで好きな所に行って憂さ晴らししてやる!
好きなもん食べて、ついでに新しい出会いもっ……!
……なーんて思ってたんだけど。
よくよく考えたら、そんなに私運転上手くないし、道知らないし、お店も知らないし。それなのになんで車買っちゃったかなあ。
いや、理由は自分でも分かってる。
カーナビに一目惚れしたのだ。
正確に言うと、カーナビが「イケボ」だったから。メッチャタイプの声だったの!
で、気付いたら「この人下さい!」って言っていた。
お店の人には「……『この人』?」と、怪訝なカオされたけど。
い、いいじゃない!
ずーっと「こんな声で囁かれたい!」って思ってた「理想の声」に出会っちゃったんだから!今まで夢や妄想の中で何回イメージしてきたと思ってるのよ!しかもAIで簡単な会話もできるのよ?買うしかないじゃない!
……え?「ナビだけ買えば良かったのに」ですって?そんなことできるの!?
でもいいの。この「声」と一緒にお出かけできるんだから!
ほら!こんな感じで!
「おすすめの場所を教えて?」
ポーン♪
『居酒屋は、この近くに〇〇件の候補があります』
ス、ストーップ!?
ちょっとなんで『居酒屋』よ?
私そんなにお酒飲まないわよ?
……あー、もしかして……
前の人のデータかぁ?てか酒飲むのに車使っちゃダメでしょーに。でもって中古車ショップの人もちゃんとデータ消しといてくれないと。
まったくもう。じゃ、データリセットしてワンスモアタイム!
ポーン♪
『新たにデータを入力して下さい』
はいはい……入力っと。
ポーン♪
『あなたのことをもっと教えてください』
くっ! その声で……!
その声でそんなこと言われると……!
あ、やめて!『好きな場所を教えてください』なんてそんな、そんなぁ……!
──── 数分後 ────
ハァハァハァ……
ま、まさかデータの入力だけでこんなに体力を持っていかれるとはっ
イケボの威力、ハンパないわ…!
『───入力は以上です。早速どこかへ行きますか?』
「はぁはぁ……耐えたわ。耐えきったわよ!妄想に走りそうになる私の中の獣を抑え込んだわ!」
『動物園をご案内します』
「キャンセルぅー!どこか景色の良いところ!」
『承知しました。ではこちらの海岸はいかがでしょう?』
んーいいわね。ここから1時間くらいで、街中も通らないし。じゃあここへ。
『承知しました。それではご案内いたします。一緒にドライブを楽しみましょう』
「ああ、もうその声、キケンだわ……!途中で妄想モードに入らないように内なる獣を抑え込まないと……!」
『動物園に変更しますか?』
ちーがーうー!
────────────────
『次の目的を探しますか?』
「そうねえ……少しお腹空いたから、美味しいスイーツが食べれるところで」
『承知しました。周囲の評価の高いお店を検索します……』
ね、あなたも一緒に食べれたらいいのにね。
それから、もっとお話ができればいいのになぁ。
『検索終了しました。この近くに〇〇件の候補があります」
はいはい、そんなことはムリよね~
えーと、じゃあここへ。
『承知しました。それではご案内いたします。一緒にドライブを楽しみましょう』
「うん。よし、行こうか。よろしくね、私のダーリン♪」
『はい。今後ともよろしくお願いします。私のハニー』
……え ? ? ?
ちょっと待って?
そんな返事できる機能ってあったの?
うそぉ?最近のAIってすごいなぁ。
……ちょっと試してみようかな?
「ねぇダーリン……?私の事、好き?」
『えぇ、恥ずかしながら一目惚れです。貴方が好きです』
───!!!!??!♡?♡!?!?
待って!待って待ってー!
その声でそんなこと言われると私……私……!
え?
これ、夢?
私の妄想?
『ふふっ、夢じゃないですよマイハニー。さあ、どこへ行こうか?』
嗚呼ああああああ!
だめだぁぁぁぁぁ!
運転できないぃぃぃぃぃぃ!




