激しい夜
トラック運転手は仲間が集まる広場に到着した。
「遅れて悪い!! ちょっと渋滞していたもので」
春休みとなり、交通量が多いのだった。運転手は危険なことがないように法定速度を守り、ここに辿り着いたのだった。
「ーじゃあやるか!! 皆!!」
「おう!! やろうぜ!!」
口々に吠え、拳を突き上げる。まずはトラックの荷台を開くのだった。全部、開いて平らにすると、仲間を呼ぶ。
「電気は? どうした?」
「ちゃんとぬかりはないぜ!! 俺らを誰だと思っているんだよ?」
手を出されたので、自分も手を差し出し、拳を合わす。仲間が次々と動き出し、ステレオやマイクといったものが荷台に置かれる。
「よっしゃあ!! 準備ができたぜ!!」
「俺ら色に染めてやろうぜ」
皆がギターやベースを持ち、マイクスタンドの前に、1人立つ。
「あー、皆さん。良かったら聞いてください。俺達の歌を」
ボーカルがそう言うと、ギターがジャーンと鳴った。その姿はライトアップされており、20代が中心のバンドだった。まだメジャーでは食べていけないので、トラック運転手をしながら色んな場所で歌っているのだった。
「人間は生まれる時は1人、死ぬのも1人…」
ハスキーボイスで歌い出すと、近くを通る人達が夜にもかかわらず、集まってくる。手には夜食を持っているのか、ビニール袋をさげている。
「しがらみに潰されたくない。自分の手で未来を変えるんだ」
自分達が作詞作曲したものを次々と歌っていくと、最初は少数だったのに、段々と人が増えていく。どうやらLINEで回しているらしく、バンドも調子良かった。春の少し肌寒い中、汗をかきはじめる。
「自分も大事だが、それだけじゃ生きていけない。人間は1人では生きられないのだ。他の動物よりも賢いのに、淋しがり屋だ」
一曲終わる度に、拍手が起こる。中には泣く人もいた。
「ー俺らの歌、聴いてくれてありがとう!!」
ボーカルがそう叫ぶと、星が流れた。綺麗だなと思っている間に、聴いてくれた人から拍手がわきあがる。
「何という曲なんですか?」
「何というバンド名なんですか?」
男女比でいうと、どちらかというと男が多く、質問してくる。バンドのメンバーは面倒くさがらず、丁寧に受け答えする。
「俺らの応援をしてくれるかな?」
マイク越しに問うと、「おー」っと声があがった。
「次の曲、次の曲!!」
リクエストをもらい、バンドの皆がにこりと微笑む。
「じゃあ、あと一曲。聴いてください」
ギターがなり始め、ボーカルがマイクスタンドからマイクを取り、聴いている人に近づく。女性陣に手を差し出されたので、握手をする。ファンと一体になれた気がし、バンドは絶好調だった。
「淋しいから、皆、集まって慰め合う。自分と同じ状況の人を探しては、安心するのだった」
涙ぐむ人が出、ボーカルは運転席からティッシュを取って渡す。
「…ありがとうございます」
お礼に対し、指2本立てて答えると、女性陣が「きゃー」と言った。男性陣も盛り上がっているらしく、手拍子してくれる。
「時が過ぎるのは早い。それなのに、苦労する人間とそうじゃなくて楽に過ごす人間と分かれる。何故だ? 意地悪をするのは誰だ?」
ボーカルがスタンド前に戻ると、手を高くあげる。
「サンキュー!! 聴いてくれてありがとう!!」
皆、楽器を置くと、用意したカバンからCDを取り出す。
「2000円になります。いかがですか?」
集まってくれた人達に問うと、皆、顔を見合わせたが、にこやかに笑ってくれる。
「きゃー!! 頑張ってください!!」
「買います!! どうかメジャーにいけますように!!」
応援の声から元気をもらい、バンドの皆、晴れやかな顔になる。
「ありがとう、ありがとうございます」
握手しながらCDを手渡していくと、用意した分が終わった。「えー」と残念そうな声があがったが、しょうがなかった。
「ごめんね。何だったら、これ」
名刺を差し出すと、CDを買えなかった人に渡す。そこにはSNSの情報がのっていた。
「また来てくれますか?」
「もちろん!! 歌詞がサイコーでした!!」
興奮する男性陣に向かい、バンドのメンバー達は大声で言う。
「愛してるよー!! また来る!!」
「おー!!」
場は盛りあがりを見せ、バンドのメンバーが頭を下げる。
「それじゃあ、俺達は仕事に戻らないといけないから」
「トラック運転手もしているんですか?」
「そう。格好良いだろう、俺達のデコトラ」
並んだトラックを指すと、皆、目をそちらに向ける。派手な作りのトラックで、勇ましいイラストが描かれている。今は夜なので、消しているが、エンジンをかけると、ライトが輝くのだった。
「わー、2足のわらじですね!! ファイトです!!」
「おう。お前達に出会えて良かった。礼を言う」
「とんでもない!! 皆に広めますね」
男女ともスマホを扱ってくれ、情報が素早く発信されていく。
「一緒に写真、撮ってもらえますか?」
「もちろん!! いいぞ!!」
顔を合わせ、ピースサインをする。
「ありがとうございます」
と言うと、またスマホをいじりだす。他のバンドのメンバーも、同じように記念撮影されているようだった。
「…さて、そろそろお開きにしますか。俺らも仕事があるので」
「皆に会えてサイコーでした!! ありがとうな!!」
メンバーがそう言うと、1人、また1人と手を振りながら去っていく。最後の1人がいなくなるまで待つと、バンドのメンバーで輪を作る。
「よっしゃ!! 今日もよく頑張った!! また1日1日過ごすぞ!!」
「おー!! バンドも大事だけど、本職のトラック運転手も大事だからな。俺、次、あそこに行くんだけど」
「そうなのか? 俺はあっちだ。お前は?」
「俺はお前の近くかな。また仲間が待っているかも」
情報交換し、互いの健闘をたたえる。トラック運転手としての誇りももっていた。
ー俺らは地味に思われがちだけど、そうじゃないんだよな。
自分達がいなくなると、物流は止まるし、情報も入ってこなくなる。皆、勘違いしがちなのだが、トラックを深夜まで運転しているから、生活が成り立っていると大声で叫びたかった。
ー俺らを馬鹿にした奴は許さない。
皆、肩を叩き合うと、「おう」とか「ああ」とか答える。慣れ親しんだメンバーなので、それだけで十分だった。
「ーさて、解散だ!! また次も会おうぜ!!」
「いえーい!! 行くぞ、次!!」
手をあげると、皆、それぞれに別れる。自分のトラックの乗り心地は、やはり最高だった。高い椅子の位置が、色んな景色を見せてくれ、上機嫌となる。自分がまるで世界の王者になったような気分だった。
ーだから、辞められないんだよな、トラック運転手。
最初に遅れてきた男はそう思うと、キーを回す。けたたましいエンジン音に、心地良さを感じる。まるでバンドの続きをしているような激しさを覚えるのだった。
「ーよっしゃ!! 行くぜ、相棒!!」
ハンドルに手をかけると、闇夜へ動き出す。明るく光る月が、まるでスポットライトのようで、トラックを優しく抱いてくれる。クラクションを鳴らし合うと、バンドのメンバーはトラック運転手として別れたのだった。




