第2話 : 残虐な主人の愛玩人形、あるいは砂漠の略奪
砂漠の国ガルヤムはケムト族の国だった。
平地が大部分を占めるドノバ王国とは異なり、ガルヤムは巨大なデモト川周辺を除いてすべて荒れ果てた砂漠地帯だった。 広大な領土を持ち、海に近い都市もあったが、ガルヤムの中心はデモト川とオアシスの都市で構成されていた。
そのような厳しい環境で育ったためか、ケムト族は他のどの民族よりも好戦的で残酷であることで有名だった。 敵を煮て殺したり、首を槍に刺して殺したりするという話は、ほぼ定説として知られるほどだった。
その残酷さにふさわしく、砂漠を支配する盗賊のほとんどもケムト族だった。
しかし徹底した弱肉強食の思考を持つガルヤムは、そのような盗賊の横暴を他の国よりも寛大に見ており、他国の商人を襲撃しても見て見ぬふりをするほどだった。 当然、反発は強かったが、どの国もガルヤムと戦争をする勇気はなかった。
ガルヤムの戦争は、豊かな南部や東部の国々の戦争とは次元が違った。 彼らは敵国の民はすべて殺し、建物を焼き、作物を踏みにじった。ガルヤムと戦争をした国がどうなるかをよく知っていたため、皆が賢明に口をつぐんだのだった。
南部のドノバ王国民であるエスターは、幼い頃からケムト族の悪名について耳にたこができるほど聞かされていた。 彼女の王国では、親に悪いことをするとケムト族がやってくるという話を聞かない子供はいないほどだった。
幼い頃にはエスターも悪事を働いたとき、身体を縮めて恐ろしいケムト族が彼女を見つけるのではないかと震えていた。 しかし、本当にケムト族の盗賊に襲われるとは思わなかった。
エスターの父は医者だった。 ガルヤムの特産品である香辛料や陶器などは非常に高価で売られていたため、ドノバの商人たちは時には命をかけて砂漠を横断し、交易の旅に出た。 そしてそのような商売の旅には必ず医者が必要だった。
エスターの父は腕の良い医者だったため、ある商人が多額の前金を提示して同行を頼んだ。 本来ならエスターを思ってその提案を受け入れなかった父だったが、不運にもエスターの母が病にかかってしまった。
その病を治すには非常に高価な薬が必要であり、エスターの父が独りで負担できる金額ではなかった。 結局、一つの都市までという条件でエスターの父は商人と契約を結んだ。
その間、実家に預けられた母は涙ぐみながら娘と夫を見送った。 父を一人で行かせるわけにはいかず、後を継いで医者になろうとしていたエスターは心配する二人に精一杯の笑顔で安心させた。
しかし、一つの都市を経由して出発するだけだから大丈夫だと安心したのが災いしたのか、エスターと父が同行した商人の行列は砂漠に入って間もなく盗賊団と出会った。
「まったく、こうやってこそこそ隠れているのが得意なんだから」
「きゃあ!」
男はクスクスと笑い声をあげるとエスターの髪を掴んで彼女を持ち上げ、そのまま馬車の外へ引きずり出した。 力がどれほど強かったのか、一度引っ張っただけでエスターがそのままついてくるほどだった。
男はエスターを地面に投げ出すと、膝を曲げて座った。 男が彼女の顎を掴んで顔を上げさせると、エスターは男の目をまっすぐ見ることになった。
男はケムト族特有の日焼けした肌色と黒い髪を持っていた。 サンダルと布を纏ったような服装もケムト族の服装に違いなかった。
良く鍛えられた筋肉や厚い唇、猫のように鋭く上がった目元、鋭い鼻筋と顎のラインが非常にハンサムな青年だったが、体からは濃い血の匂いが漂っていた。 エスターの顎を掴んだ手からも血が付いているような凄まじい匂いが漂っていた。
彼女は男の琥珀色の瞳が獣のように見えると思い、恐怖で視線を逸らした。
「顔はまあまあだが」
男はゆっくりとエスターの頬を撫でながら視線を顔から下へと移し、再び涙でぐしゃぐしゃになって震える彼女を見て舌打ちをした。
「行動がまったく……チッ」
「どうしますか?」
「捕虜のところに置いておけ。奴隷として売るなりなんなりするだろう」
奴隷という言葉に、ただでさえ震えていたエスターは青ざめた。 ガルヤムに奴隷として売られた人々の生活がどれほど苦しいか、彼女もよく知っていた。
彼らは人間でありながら、人間扱いされなかった。 主人が退屈だと言って、生きたまま奴隷を飢えた熊に投げ込んだという話もあった。
絶望感に泣きそうな彼女を一瞥した男はすぐにどこかへ消え、エスターは彼女を引っ張る別の盗賊の手に引かれて、生き残った捕虜たちがいる場所に座らされた。
急いで捕虜たちを見回したエスターがどこにも父親がいないことを確認し、大声で泣き始めたが、誰も彼女を慰めてくれなかった。 誰もがすでに各自の不幸と絶望に満ちていた。
エスターは声を上げて泣きながら疲れて涙が乾いてしまった。 盗賊たちが彼女を立たせて歩かせたときには、ついにすすり泣きも止まった。




