狼国のとある侯爵家で子が亡くなり、夫人は子を忘れた
思いつきの続きというか、その後に起きるとある出来事の一つみたいなお話。
ハッピーにはならないモヤモヤエンドなのでご注意!
前半特に子供が亡くなる描写がありますので、そうしたお話が苦手な方はご注意ください。
※ファンタジーの為、一部、名前の付け方などが現実とは異なります。
狼の特徴を持つ獣人族――通称狼族が暮らす国、狼国。
獣人族の中でも団結力が高い事もあり、特に大きな領地を持つ国の一つだ。
その国に、とある侯爵家の一家があった。
長い歴史のある家だ。
現当主は若くして父から跡を継いだ、眉目秀麗な男。
同年代の男からは慕われ、女からは結婚相手として大層人気だった。
その妻は、当主に運命の番だと見いだされ、人の国から嫁いできた奥方。
祖国では伯爵令嬢だったという彼女は、狼族のような強い体も肉体もないが、花のような美しさから多くの獣人たちと、良い関係を築いていた。
二人の間には、それはそれは両親の良い所を取ったような、嫡男がいた。
当主夫妻も、息子に後を任せた先代夫妻も、親族たちも、皆から愛された子だった。
その子が、死んだ。
川での事故だった。
「あ、ああ、あああ! 嘘だ、嘘だと言ってくれ……!! ジョレス……!」
侯爵家当主ヴィクトルは、息子ジョレスの亡骸の入った棺桶に縋りつくようにして泣いていた。
「どうしてお前が、どうして……」
ヴィクトルの両親で前侯爵夫妻も、親族たちも、心痛な面持ちで立っている。
侯爵家嫡男の葬式は大きなものだった。
狼族らしく社交的だったジョレスの葬式への参列者は多かった。
誰もが涙を零しながら、悲劇を受け止めるしかなかった。
狼族は比較的、泳ぐのが得意な者が多い。
ジョレスもまた、幼いころから水場に親しみ、泳ぎには自信を持っていた。
その過信と少しの油断が招いた、典型的な水難事故であった。
友人たちと共に川で遊んでいた所、ジョレスが何度か素潜りをして見せた。
暫くすると、なかなか水面に上がってこないジョレスを一人の友人が不審に思った。
友人たちが危ないのではと慌てて川に飛び込んだ時には、ジョレスは溺れてしまっていた。
地面の上に助け上げても時既に遅く、ジョレスは息を吹き返さなかった。
いくつものすすり泣きが聞こえる中、数人の夫人が、痛ましげに親族席に目を向けた。
「見て。奥様は、ピクリとも動かれないわ……」
「きっと現実が受け入れられないのでしょう。あれほど可愛らしい子を失ったのだもの……」
侯爵夫人クリスティーナは、息子の棺にしがみ付く夫とは違い、ずっと席に座したままだ。
一度も立ち上がらず、ただぼんやりと、泣いている夫のいる方角を見つめ続けている。
腹を痛めて産んだ子が死んだのだ。
母親たちは、さぞクリスティーナは辛かろうと、彼女を憐れんだ。
――ジョレスの葬式は、多くの狼族たちに見送られて、無事に終了した。
侯爵として必死に喪主を務めるヴィクトルの横で、相変わらずクリスティーナはどこか遠い所を見つめていた。
★ ★ ★
――とある侯爵家が、秘密裡に医者を探している。
その話がテスカーリの元に来たのは、夕方の時間の事だった。
本日の診療を終えて自室でゆったりとしている所に、狼族の男が一人駆け込んできたのだ。そして「医者テスカーリを出せ!」と騒ぎだした。
家の管理を任せている使用人が対応しようとしたが、それに「早くテスカーリを出せ!」と騒ぐばかり。湯あみをしていたテスカーリは、遠くから聞こえてくるその音にため息をついた。
あの命令形は、大方、どこかの貴族の手の物だろう。
テスカーリは主に平民相手に医学の知識を使っている者だ。普段貴族は見ない。
しかしたまに、テスカーリの話を聞いた貴族が、隠れるようにして彼の診療を望んでくる。
来るだけなら良いのだが、大半の場合、今回のように高圧的な態度で来るのが困った事であった。
使用人の手を借りて尾の先まで、水気をしっかりとふき取る。それから服を身に纏って、テスカーリは未だ喚いている人間がいる玄関に出て行った。
「テスカーリは僕だが」
そういって出て行ったテスカーリに、どこかの貴族の使用人は目を丸くして口をポカンと開けていた。
どうやら今回の使用人は、テスカーリの事をしっかりとは調べていないらしい。
「りゅ、りゅ、竜人……!?」
ひっくり返った声を上げる乱入者に、テスカーリはため息をつく。
「竜人だが、何か? 正式な手続きを行い、この国に滞在しているが」
――ここは狼国だが、国民の全てが狼族という訳ではない。
人族も、そのほかの種族もいる。
だから竜人がここにいたって良いとは思うのだが、テスカーリの世間に流れている話だけ聞いて駆け込んできた者たちは、テスカーリが竜人だと知ると大層驚くのだった。
自分の種族を隠したりは全くしていないので、しっかり下調べをしてきた者は驚かないのだが……。今回の客のようなものだと、やたら騒がれる事になる。
夜だというのに騒いでいた使用人に、テスカーリは問うた。何があったのかと。
先ほどまでの勢いを無くした使用人はテスカーリのものとは違ってフサフサとした毛の生えた尾を足の間にしまい込みながら、言った。
「と、貴き方が、様子がおかしく……」
「なるほど。最近、何か特殊な出来事はありましたか?」
「…………御子が、亡くなりました」
テスカーリは使用人を見下ろす。
制服には、小さく、仕えている家の階級を示すマークが刺繍されていた。
狼国では、家紋などとは違い、階級を示すマークを使用人の身に纏うものに入れるのが一般的だ。
その使用人が自分より格上なのか、同格なのか、格下なのか。使用人同士でもそういう情報が分かりやすくなるのだ。
騒いでいた時より一回りぐらい小さくなったように見える乱入者の制服のマークは、侯爵位を示している。
そして、最近子供が亡くなった。
(――ログノフ侯爵家か)
ログノフ侯爵家嫡男ジョレスが水難事故で亡くなった事は、かなり有名だ。
しかも悲劇はそれでは終わらず、当時ジョレスと遊んでいた友人たちは「友達を助けられなかった」と悔やみ、次々に後を追ってしまった。
中には子供だけでなく一家そろって命を絶ってしまった家も出ているという。
まるで悲劇が、波のように広がっていると、一部では囁かれている。
「分かりました。準備をしますので、暫くお待ちください」
テスカーリは「夜遅くてすまないが」と家で働く者たちに声をかけた。
医術をたしなむ彼が夜中に呼び出される事は少なくなく、使用人たちは心得たとばかりに準備を始めてくれた。今日の分の給金は弾まねばならないなと思いながら、テスカーリは準備を終え、ログノフ侯爵家に向かった。
ログノフ侯爵家に着いた時は、朝といえるぐらいに、空が明るんでいた。
ログノフ侯爵家は、どこか重い空気に包まれていた。
まだ夜明けだし、子を失ったばかりなのだ。そういう風に感じるのは、事実だけでなくこうした付属する情報のせいで、そう感じるのかもしれない――なんてテスカーリは思った。
ログノフ侯爵家の者たちもまた「噂のテスカーリ先生」が竜人だとは知らなかったようで、驚いた様子を見せていた。
屋敷の中で通されたのは、当主であるヴィクトルだった。
ヴィクトルは流石に使用人たちから報告を受けたのか、テスカーリが現れても驚くような様子はなかった。
「平民の治療を行っております、ブルーノ・テスカーリと申します」
「テスカーリ殿。夜分遅くに呼び立ててしまってすまない。実は、妻を見て欲しい」
「まだ仔細聞き及んでおりません。何があったか、お尋ねしても?」
ヴィクトルはテスカーリの言葉にすぐ頷いた。
「実は……当家では、少し前に息子のジョレスが旅立ってしまった」
「ご愁傷様です」
「ああ。とても悲しい事だ。……それで、妻も恐らく傷ついてしまったのだと思うのだが……。……その、どうやら、ジョレスの事を、忘れてしまったというか……」
「記憶喪失という事でしょうか?」
テスカーリの感想は(面倒だな)という事であった。
(僕は別に精神的な事案の専門家じゃないのだが。狼国だと、その辺はまだ分けた学問にはなっていないからな……)
そう考えているテスカーリに、ヴィクトルは記憶喪失かどうかという質問への答えを呟く。
「……一部的には?」
要領を得ない回答だった。
とはいえ、患者が自分の状況を正しく認識している事は稀である。テスカーリはそのまま、問答を続けた。
そして分かったのは、どうやら侯爵夫人のクリスティーナが、ジョレスを息子として認識していないらしいという事だ。
ジョレスの事自体は覚えている。
しかし、ジョレスを自分の息子とは思っていない。
侯爵家は「奥様が精神を病んでしまわれた!」と大騒ぎになった、という状態らしい。
「ともかく、一度妻を診て欲しい」
「構いませんが、侯爵家にはお抱えの医師がいる事と存じます。何故、民間の僕に話を?」
「…………」
テスカーリは確かに、そこそこ名が知られている。
それなりの腕の医者だという自負はあるが、有名になっているのは「比較的安価で平民相手に治療をしてくれる」からである。
安価といっても、状況に応じて適正な料金は貰っている為、金銭的には困っていない。ただ、意味もないぼったくりや、相手の足元を見た対応をしていないだけだ。
比較的近場に居住しているからテスカーリが呼ばれた可能性はあるが、それで考えてもやはり、テスカーリが呼ばれるのはおかしい。
狼族は活発なので、怪我をする者が多い。自然、高位貴族は常駐のお抱え医師を抱えるのだ。
距離で考えれば、別の所で暮らしているテスカーリよりも、常駐の医者の方が早いに決まっている。
当然の疑問に、ヴィクトルはすぐには答えなかった。心なしか、その背後にいる右腕だろう使用人の顔色が悪い。
少し迷ったような時間を置いてから、ヴィクトルが口を開く。
「……実は……」
「ヴィクトル様っ!」
「夜間にこんな所まで呼び立てておいて、伝えない訳にはいかないだろう」
その言葉に内心、テスカーリは意外な気持ちになった。
(平民相手の仕事をしている僕相手にもそう考えるのか。なるほどな、ログノフ侯爵家は良い噂ばかり聞く訳だ)
「……実は、当家のお抱え医師は、クリスティーナがこちらに嫁いできた当初に彼女に嫌な思いをさせてしまったのだ。……狼族では、嫁が間違ってもほかの男の子を孕んでいないかなどを触診したり検診したりするだろう」
「ありますね」
狼族では一般的な事だと、テスカーリも記憶している。
狼族では、処女かどうかはあまり重要視されていない。
しかし、他の男の子を孕んだままで嫁いでくる事は問題とされる。
妊娠は孕んですぐ発覚する訳ではないので、再婚の夫人の場合、嫁いだ後にしっかりと他所の男の子供を孕んでいないかを確認されるのだ。
一人だけだと嘘をつかれる可能性もあるので、複数人で確認されるのが一般的だ。
とはいえ完全な処女だと分かっている初婚とかであれば、この検査はされない事もある。
(検査をしたとすると……)
ヴィクトルを見る。苦しそうな顔だ。
「クリスティーナ夫人は、再婚だったのですか」
「ああ。彼女の母国で、別の男と結婚していた。しかし私たちは運命の番だったので、その男とは別れて、私の元に嫁いできてくれたのだ」
「成程……分かりました。文化の差の説明もないまま、医者が、突如服をはぎ取って触診したのですね?」
「……ああ」
嫁いできた当初のクリスティーナ夫人の苦労を思い、テスカーリは内心でため息をついた。
種族が違う。
生まれ育った国が違う。
つまり文化も常識も違うのだから、せめて、「こちらに合わせろ」という態度を取るにしても、説明などはしっかりとするべきであった。
クリスティーナがごく一般的な人族の貴族令嬢だった事を考えると、異国で突然複数人に服をはぎ取られ、下腹部周りを触られる訳だ。
それは貴族令嬢としてはかなり衝撃的で、恐怖を覚える事案だ。必要な事と分かっている狼族の女でも、嫌がる者もいるぐらいなのだから。
「……クリスティーナは、絶叫し、気絶し、以後、当家の医師とは、ほんの少しの接触も出来なくなってしまった。故にジョレスを産む際も、他所の家から年配の産婆を手配してもらわねばならなくなったのだ」
「なるほど……人族であるクリスティーナ夫人からすれば、さぞ恐怖を感じる事案だった事でしょうね」
「……」
ヴィクトルは苦しそうに黙り、その後ろにいる使用人たちはテスカーリを睨んできた。
(夫人本人ならいざ知らず、突如現れた赤の他人に言われる筋合いはない。……そんな顔だな)
テスカーリは人族ではなく、竜人なので、尚更だろう。クリスティーナと同族という訳でもないのに口を挟んだ形では、嫌がられるのも無理はない。
(まあ、空気を読まない発言ではあったな)
彼らがテスカーリにあきらかな怒りを向けてこないのは、テスカーリが竜人だからだ。
竜人は数多ある種族の中でもトップクラスの耐久性・攻撃力などを誇る。
テスカーリは軍人ではないけれど、それでも、この場でテスカーリが暴れれば、部屋の中にいる人間を殺す事は簡単だ。
生き物として圧倒的に格上。――だから大人しくしている、だけなのである。
テスカーリはその事を理解している。竜人でなければ、生まれ育った国ではない狼国でこうも自由に生きる事も出来なかっただろうと、自覚している。
「失礼いたしました。問診は行いましょう。ただし、僕でお力になれるかはわかりません。原因が分からないからと罰を与えられてもこまります。専門ではないのですから」
「専門……? お前は医者なのだろう?」
「医者ですが、すべての出来事に対応出来る訳ではないのですよ。力になれるかもしれないし、力になれないかもしれない。全ては、夫人とお話しさせていただいた後でしか判断は出来ません。よろしいですか?」
「…………分かった。よろしく頼む」
「では、クリスティーナ夫人にお会いさせていただいてもよろしいでしょうか? ああ、夫人が信頼している侍女の方は数名、必ず部屋にいるようにお願いいたします」
後から何かやったと難癖をつけられては困る。そう思いながら、テスカーリはヴィクトルにそう伝えた。
★ ★ ★
クリスティーナ・ログノフ侯爵夫人は、柔らかい亜麻色の髪の女性であった。
柔らかい花。そんな印象の女性である。
その印象を後押しするのは、骨が見やすいほどにこけた顔や首元のせいだろうか。
顔は頬骨が分かりやすい風にまで肉がない。
デコルテ部分は既婚者として隠されているけれど、首を全て布で覆い隠している訳ではない。ほんの少し露出している首部分は、随分と細い。
クリスティーナは、やや強張った表情で、部屋に入って来たテスカーリは見た。テスカーリは人族風の礼をした。
「はじめまして。お会いできて光栄です、クリスティーナ・ログノフ夫人。僕は普段、平民に治療を行っております、ブルーノ・テスカーリと申します」
「まぁ……ご丁寧にどうもありがとうございます。クリスティーナ・ログノフでございますわ、テスカーリ様」
挨拶の後、クリスティーナは丸い瞳を、テスカーリの頭部に向けた。頭部についている角に意識がいっているのは明らかだった。
「竜人に会うのは初めてですか?」
「あ、不躾に失礼な事を」
「構いませんよ。ここは竜国ではありませんから、他国人として視線を浴びる事には慣れておりますので」
「他国人……竜人の方でも、そう思われますのね」
「当然です。ここは故郷ではありませんから」
この土地は狼国で、この部屋にいるのも、クリスティーナとテスカーリを除くと、狼族しかいない。
あなたと同じ立場だと示されると、にわかに親近感を持つ人間は多い。クリスティーナもそうだったようで、最初見えていた警戒は薄れていた。
「本日は朝早くからお時間をいただき、ありがとうございます。少し、お話をお伺いしたいのですが……」
「……ジョレス様の件でしょう?」
「はい」
クリスティーナは眉根を寄せた。嫌悪感というより、困っている。そんな雰囲気だ。
「もう何度も、お話はしております。これ以上、新しくお話し出来る事などありませんわ……」
「お疲れの事と存じます。僕はログノフ侯より、今一度、夫人の話について書き記してまとめるように命じられておりまして……」
「書き記す……」
さらりと侯爵を悪者のようにはしたが、事実、立場上、上なのはあちらだ。引き受けてしまったのはテスカーリの判断由来だが、何かあって怒られる事になると思われるのも、事実。
一応、嘘は言っていない。
少し困ったような声色で伝えると、クリスティーナはパチパチと長いまつげを揺らした。それから、明らかに同情的な視線をテスカーリに向けた。
「……お仕事ですものね。分かりました。お話ししますわ」
「お気遣いいただきありがとうございます」
★ ★ ★
「まず最初に、自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか? できる限り、自分の肩書などにも触れてお教えいただきたいのですが」
「肩書……。クリスティーナ・ログノフ。ログノフ侯爵夫人。三十四歳です。人族で、出身は二つ向こうの国ですの」
「ログノフ侯爵家のご家族について説明をお願いいたします」
「侯爵家の……? 現当主はヴィクトル・ログノフ様。前当主ご夫妻は今はこちらにはすまれておられなくて……」
「ああ、この屋敷で暮らしている・暮らしていた方のみで構いません」
「それでしたら、少し前まではヴィクトル・ログノフ様のご子息である、ジョレス様も暮らしておられましたわね」
「周りの方々はジョレス様を夫人の子だと思っておられるようですが……夫人から見たジョレス様はどのような立場の人でしょうか?」
「ヴィクトル・ログノフ様の御子様です。それ以上でも以下でもありませんわ」
「ヴィクトル・ログノフ侯は男児ですから、子供を作るには相手が必要かと存じます。不躾な質問ではありますが、夫人はジョレス様の実母をご存じでしょうか?」
「いいえ。お会いした事はありませんわ。ですが子を産むのは大変な事ですから……きっと、ジョレス様が亡くなった事で、ひどく悲しみを覚えておられる事と思います。ヴィクトル様に、御生母にお悔やみを出すべきだと申し上げたのですが、ジョレス様の母は私だと仰って、お悔やみを出す事はしないと……。……質問以外の事を話してしまいましたね、申し訳ありません」
「いえ、問題ありません。実子がなくなったのですから、配慮は必要でしょうから」
「……そうでしょう?」
「夫人ご自身のご家族の事をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「……私の? 生まれた家の事、という事でございましょうか」
「はい。血の繋がったご家族の事についてお教えください」
「……故国の、伯爵家でございました。父と、母と、兄と姉がおりましたわ。兄や姉の、細かい家族までお話ししますか?」
「人数のみだけでもお教えいただけますと幸いです」
「兄の所と、姉の所とで会わせて……六人の甥と姪がおりますの。最後に会ったのは十年前ですが、皆可愛い子たちですわ」
★ ★ ★
「成程。嫁がれたのが十年前という事でしょうか?」
テスカーリの質問で、僅かにクリスティーナの顔色が曇る。
「……ええ」
「一度も里帰りはされておられないのですね」
「…………」
「失礼いたしました。竜人は空を飛んで簡単に里帰りが出来ますので、つい口にしてしまいました。陸路で二つ向こうの国は随分と遠い。簡単な移動は出来ませんね」
「……テスカーリ様は、よくお帰りに?」
クリスティーナの、そして部屋の中にいる使用人の視線が、テスカーリの背中に向けられる。
現在はたたまれている翼は、広げると結構な大きさになる。
「家族にたまに呼び出されますので、その時には帰ります」
「そう。ご家族とは仲が良いのかしら?」
「どうでしょう。一般的な貴族の家族の関係性ぐらいでしょうか。ただ、母の記憶はありません。幼いころに離縁しておりましたので」
「あら、そうでしたの」
「はい。父が母の怒りを買いまして、母は父を捨てて出て行きました。それ以来、お会いしておりません」
「それは……」
「思った事をそのまま言っていただいて構いませんよ」
そうはいっても、クリスティーナは不躾な質問はしなかった。
(性格が良いのだろうな)
そう思いながら、テスカーリは話を少し戻した。
「祖国に帰りたいと思う事はありますか?」
室内の使用人たちがいきり立ちそうになるのを横目に、テスカーリは目の前の夫人をジッと見つめた。
「ここは貴女の生まれ育った国ではないのだから、一般的に、帰りたいと思う事は多いと思いますが」
クリスティーナはゆっくりと瞬いた。それから、小さく口元を、ゆがめる。
「帰れませんわ。だって私は――」
クリスティーナの言葉に、テスカーリは目を細めた。
★ ★ ★
ヴィクトルがいる部屋には、ヴィクトルだけではなく、複数人の使用人と、医者らしき狼族が数人いた。恐らく、侯爵家のお抱えの医者だろう。
「お話する前に、一つご質問させてください、ログノフ侯」
「良いだろう。なんだろうか」
「ログノフ侯爵は、クリスティーナ夫人を誘拐して狼国に連れて来たのではありませんか?」
テスカーリの言葉に、ヴィクトルは予想外な言葉がかけられたとばかりに、目を丸くしていた。
周囲の使用人たちは、ヴィクトルを侮辱するに等しい言葉を発したテスカーリに、敵意を向けてくる。
「誘拐だと!? なんと無礼な!」
「クリスティーナ様はヴィクトル様の運命の番であったのだぞ!」
「皆、落ち着け……」
「それは、ログノフ侯爵側だけの理論でしょう。人族は運命の番という縛りはありませんから、見初められとしても、クリスティーナ様からすれば、ログノフ侯爵は初めて顔を合わせた赤の他人というだけだった筈です」
「た、確かにクリスティーナはただの人で、番を理解する事は出来ない。けれど、彼女は私の求婚を受け入れてくれた! そして、以前、間違って嫁いでいた夫と別れて、私の元に来てくれたのだ」
「それで、あのお話は出てこないと思いますがね……」
「何のことだ?」
テスカーリは視線を斜め後ろに向けた。
そこにいるのは、テスカーリがクリスティーナに質問をしていた際、同じ部屋に控えていた侍女の一人であった。
侍女はテスカーリにみられて、ビクリと肩を跳ねさせた。
「僕からより、信頼の厚いご自身の侍女からお聞きしてくださいませ」
「……教えてくれ」
侍女は視線を右、左、と視線を逸らしていた。けれど部屋中の人間から見られて、尾をたれ下げながら答えた。
「…………そ、そちらの方が、一般的に、他国に嫁いできた人は祖国が恋しくなることはないのかという話を……されたのですが……」
変な事を聞きやがってという視線も刺さったが、テスカーリは彼らは見なかった。ただ、侍女の方を見ているヴィクトルを見ていた。
「奥様は……その……」
「クリスティーナは、なんと?」
「…………帰れないと。私は買われた奴隷ですから、と」
「…………は?」
ヴィクトルの、零れ落ちるような声が、静まった部屋に響いた。
侍女は気まずそうに、身を縮こまらせる。しかし消える事など出来はしない。今を生きている、生き物なのだから。
「ど、れい……? クリスティーナは、一体、何を言って」
「ヴィクトル様! 奥様の冗談でしょう。そうに決まって」
「ご自分を奴隷と揶揄する。……自己卑下にしても、あまりに言葉選びがおかしいと、侯爵閣下は思われないでしょうか」
「野良医者! 黙れ!」
怒りの唸り声が上がる。
自分に言われた訳でもないのに、斜め後ろにいた侍女は悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまった。
複数人の男からの唸り声が恐ろしいのだろう。
しかしテスカーリには、子犬が吠えているようなものでしかない。うるさいが、恐怖は感じない。
「クリスティーナ夫人と話し始めて、最初に、彼女の状態に覚えがあると思いました」
ヴィクトルが、怯えるような顔で、テスカーリを見る。
「どういう、意味だろうか」
「クリスティーナ夫人は、とある女性に似ております。竜人の男に見初められ、祖国から遠い竜国に無理矢理嫁がされた女性に。――二十年と少し前、竜国でとある事件がありました。番の儀を行う場で、番の縁を断ち切られる事件です。あの当時、五人の女性が、運命の番であった竜人との絆を断ち切った。その女性の一人に、クリスティーナ夫人はよく似ておられる」
「クリスティーナが……?」
呆然としているヴィクトルをテスカーリは見下ろす。
(この人は、即座に攻撃に転じないのだな。まだ、マシかもしれない)
一方で、と視線を横にそらす。
侯爵家のお抱え医者が、歯茎が見えるほどに口を開きながら喚いている。
「ヴィクトル様! 平民相手の治療しかしないような野良医者の言葉に耳を傾けてはなりません! あの事件の関係者は皆、高位貴族だった筈です。こんな野良医者が、直接会った事などある筈が――」
「母ですよ」
興奮して、開いた瞳孔の瞳が、テスカーリに向けられる。
彼らに、テスカーリはハッキリと告げた。
「あの日、番との絆を断ち切った女性の一人は、僕の実の母です」
――室内にいるすべての人間が、言葉を失っていた。
「……テスカーリ殿。貴方は――貴族、なのか?」
(重要なのはそこか)
はあ、とテスカーリは息を吐いた。
「ええ。家族からは縁を切られたりしておりませんので。祖国に帰れば、伯爵子息という立場があります」
歴史だけが古い伯爵家。それが、テスカーリが実家に抱いている印象であった。
プライドだけが大きく、竜人という種族からそのプライドはとてつもなく肥大化していた。
(その果てが、「番に自ら絆を断たれた」という歴史に残る失態に名を連ねる事になったという、不名誉極まりないものだった事を考えれば……。遅すぎたしっぺ返しを食らったようなものだろうな)
この場で突然自分語りを始めたのは、周囲から同情やそれに類する感情を引き出す為ではない。
当事者であった身として、この場にいる人々に伝える為だ。
「結婚こそしておりませんでしたが、僕の実母には、祖国に、婚約者がおりました。結婚まであと一か月という時期だったそうです。政略性に基づいたものではあったものの、お互いに想い会った関係だったと聞き及んでおります。それを、実父は引き裂きました」
ヴィクトルを見る。彼は硬直していた。
血色は良い状態であった頬は、白くなっている。
その顔に浮かんでいる感情が何か。テスカーリは想像は出来れど、突き止める事は難しい。
「竜人という立場を使い。国力の差を使い。言外に、従わなければ周囲を酷い目に遭わせると訴えて。そうして、実母が実父に嫁ぐしかない状態に持っていった」
「それは……」
「その際、実母は最後に、婚約者であった人物に別れを告げにいきました。勝手に行ってなどおりませんよ。事前に、最後の別れの許可も、実父に求めての逢瀬です。――その逢瀬で、距離が近いと、実父は婚約者だった男性に暴行を加えました。その怪我が元で、男性はまともに動けなくなり、一年後には命を落としたそうです。これが切っ掛けで、実母はずっと、実父を恨むようになりました」
その恨みをテスカーリの実母はずっと隠し続けていた。テスカーリ含め、三人もの子供を産んだ。
手段がなかったからかもしれない。確かに、ただの人族が、竜人に、一生の傷となるような攻撃をしかけるのは難しい。
テスカーリの思い出語りに反応するように、ビクリと、大きく肩が跳ねたのはヴィクトルと、数人の使用人だった。
テスカーリは切れ長の目を細める。
「まさか、クリスティーナ夫人の前夫の身に手を出されたので?」
「こ、殺してなどいない!」
「つまり、手は出したと」
「っ……」
ヴィクトルが俯く。
「し、仕方ないではないか。親し気に寄り添って、肩を抱いて……私の番なのに!」
そうですそうです。そんな言葉で、使用人たちはヴィクトルを慰めている。テスカーリは額に手を当てた。
「はぁぁ……。話を聞けば聞くほど、クリスティーナ夫人の状況は、僕の実母に似ているようだ」
(――それ故に、同一視してしまっているのかもしれない)
よくない事だと理解してはいるが、ここまでパーツが似通っていると、どうにもクリスティーナの立場に沿ってしまった。
「番に手を出したのはあちらだッ!」
「当日のクリスティーナ夫人は貴方の妻ではなく、かの男性の妻だったのでしょう? それならば、寄り添うのは普通の事でしょう」
「それは、だが、クリスティーナは、私のもので……」
「声が聞こえてまいりましたが……どうかいたしましたか?」
ドアが開く。
入って来たのは、クリスティーナと、彼女の専属だという侍女だった。
「クリスティーナッ!!」
ヴィクトルは立ち上がった。そして、妻に向かって叫んだ。
「君は、わ、私の妻だ。番だ。そうだろうッ?」
「? はい。そうですね」
「そうだろう! そうだ、そうだよな……」
ホッと、安心したようにヴィクトルの顔が緩む。テスカーリは真顔で、落ち着こうとしている彼らの水面に石を投げた。
「その妻、や番、という言葉の意味合いが、先ほど夫人がおっしゃった奴隷という言葉に繋がるのでしょうか?」
掘り返すなよ、という視線が刺さったが、既にテスカーリは依頼も依頼料も何もかもどうでもよくなっていた。そうでなければ、こんな行動はとらない。
「ど、奴隷……」
ヴィクトルはそこで、奴隷という言葉を思い出したらしい。
狼国には奴隷の文化はある。けれどそれは、絶対に、『番』とは結ばれない概念だ。
「く、クリスティーナ。先ほど彼が、君が、自分の事を、奴隷だから、祖国に帰る事も出来ないと、言ったと。冗談、なのだろう? 人族では何か、面白い。そうだろう?」
フラフラと、男が近づいていく。花に吸い寄せられている、虫のように。
今にも折れそうな細い花は、ほんの少しだけ、首を傾げた。
貴族夫人の動きで違和感がない程度の、首をかしげる角度。わざとらしくはないけれど、どこか女性らしさが滲んでいる動き。
「ヴィクトル様の仰っている意味が、よく分かりませんわ。やはり、ご子息を亡くされて、少しお疲れなのではありませんの?」
「ジョレスを亡くした親なのは、君も、同じだろう!」
「ですから、私はジョレス様の実母ではありませんわ。確かに、未来の侯爵子息として、義理の母という役どころとして、母恋しいジョレス様のお相手はさせていただいておりましたが……」
「ジョレスは私と君の子だ!」
「書類上ではそうですわね」
「ジョレスは君の子だ! 君が産んだだろう! 産婆も呼んだ。君は、何時間も苦しんで、それでジョレスを産み落とした! それすらも忘れたというのか!?」
「まあ! ヴィクトル様。おかしな事を仰いますわね。私、出産などした事がありませんわよ。狼族の冗談は、随分過激ですのね」
――クリスティーナ・ログノフは、ジョレス・ログノフを産んでいない。
現実がどうであろうと、クリスティーナの中の真実は、それだった。
その一言はヴィクトルになかなかの衝撃をもたらしたようだった。
膝から力が抜けたようになって、その場でしゃがみ込んでしまった。崩れ落ちた夫を、夫人は駆け寄るでもなく、ただ見つめている。
「ヴィクトル様は、お疲れのようね。お客様のお相手をこれ以上されるのは、難しいでしょう。家令殿、お部屋にお連れしてちょうだい。お客様のお見送りは、私が侍女長と共にします」
侯爵家の夫人らしく、クリスティーナが指示を出す。
その姿は様になっていた。
使用人たちは、呆然としながらもしたがって動き出す。運び出されるヴィクトルは
それを見ながら――そして彼女の言動を聞きながら、テスカーリは思った。
(彼女にとって、全ては役なのかもしれない。侯爵夫人役。母親役)
勝手な妄想だ。本当の意味で、テスカーリがクリスティーナの気持ちを理解する事は出来ない。
竜人はどこまでいっても生命体として強くて、あまりに脆い人族の気持ちを正しく理解する事は難しかった。
それでも、クリスティーナを見ていて、つい、考えてしまうのだ。
(……母も、そうだったのだろうか)
七歳までしかともに過ごした事のない、実母。
もはや声も顔も、おぼろげにしか覚えていない。
それでもその存在は、テスカーリの家ではいつまでも強かった。
番の絆を断ち切られた父は狂い、定期的に幻覚を見ては暴れた。
ついには押さえようとした部下を二人殺してしまったのを見て、兄は父を殺した。
名門伯爵家で働いているだけあり、部下たちも平民ではなく貴族階級であった。それを二人も殺して、無罪には出来ない。
ただでさえ家名に泥を塗る事になった父はもはや、その首でもって周囲の留飲を下げる役目を果たすしか、価値がなかった。
兄の代になっても、テスカーリの実家で、実母の存在は色濃く残っていた。
母との思い出がテスカーリより濃かった兄たちは、それぞれ母の肖像画や、母が使っていたものにしがみ付いていた。
末の子であったテスカーリに渡る母の思い出は記憶だけで、それも、時の経過と共に薄れていく。
「お医者様」
はっとして、テスカーリはクリスティーナを見た。
「本日は、お忙しい中、夫の申し出を受け、当家までお越しいただき、誠にありがとうございました。少ないかもしれませんが、謝礼もお渡しいたします」
「……いえ。謝礼は、お断りいたします。僕は、当初侯爵が望んだ働きは、何も果たせておりませんから」
移動にかかった費用は侯爵家が出している。帰りも含めてだ。
これ以上テスカーリが受け取るのは、いけないだろう。
(何より今の僕は、医者として動いていない)
医者として、患者に寄り添うのは良い。けれど、踏み込んで、同じ立場に立ってはならない。
医学の師に言われた言葉を、今のテスカーリは完全に無視してしまっている。それなのに医者としての謝礼を受け取るのは、問題に繋がる。少なくとも、テスカーリはそう考えた。
クリスティーナに導かれるように、テスカーリは屋敷の中を移動する。傍に控えている侍女たちは酷く警戒した面持ちだ。その警戒はテスカーリにだけ向けられている訳ではない。それが感覚で、理解出来た。
「――実は、お話を少し、廊下から聞いておりましたわ」
クリスティーナの突然の発言に、テスカーリは彼女を見下ろした。
クリスティーナは歩みを止める事も、振り向く事もなかった。だから自然、前を歩く彼女のつむじばかりを見下ろすような形になった。
「お母様は、婚約者を、亡くされたと」
「……はい。当時は生まれるずっと前の事でしたが、そう聞いております」
「そう。そうですか。きっと……お母様は、苦しかったでしょうね」
その言葉には敵意はなかった。
「きっと、辛かったと思います。愛する人を殺した男の子を、三人も産まねばならなかったのですから」
「……私は子を産んでおりませんから、お母様よりずっと……」
「僕の母と、貴女自身の在り方を比べてはいけません。僕の母の苦しみは僕の母だけのものであり、貴女の苦しみは貴方だけのものの筈ですから」
クリスティーナからの返事はなかった。
★ ★ ★
玄関口で、クリスティーナと複数人の侍女たちに見送られる形になっていたテスカーリは振り返った。
「これは、竜人なりの冗談ですが」
「? なんでしょう」
「貴女を祖国まで、お連れしましょうか。夫人」
その言葉に、侍女たちが殺気立つ。
明確な誘拐宣言だ。その反応が、自然だろう。
抜き身の剣が突き立てられるような緊張感が走る中、テスカーリはクリスティーナを見た。彼女はほんの少し、目を丸くしていた。
「僕は、今この場で貴女の背後の侍女たちを全て殺し、貴女一人を故郷に連れて行く事ぐらいのことは、簡単にできます」
それは事実だった。
例え侍女たちが束になって、命を懸けてテスカーリを殺そうとしたって、簡単には殺せない。致命傷を受ける事はあるかもしれないが、それよりも、侍女たちが死ぬ方が先だろう。
「ですから、貴女が望むのならば、貴女を故郷にお連れする事が出来ますよ」
その言葉を最後まで言い切る前に、クリスティーナはくすくすと笑った。三十を過ぎた女性にしては、無垢な乙女みたいな、笑い声だった。
「お断りいたしますわ。私、愛していますの」
侍女たちの殺気が、収まっていく。
「愛していますのよ。家族を」
安堵したような顔で、彼女らは女主人を見つめていた。
――その家族が、誰を指すのか。
それを深堀りするのは、あまりに野暮だった。
「ですから私は、ここで。最期まで、役目を全うするだけです」
殆どの侍女は良かったという雰囲気を出している。
そんな中で、何か違和感を覚えたような顔をしたのは、一人か二人だけだった。
テスカーリは目を閉じた。
目の前の女性は確かに、不条理に踏みつけられた花だったかもしれない。
(けれど、踏みつけられて傷ついて、花びらは欠けたかもしれないが、それでも自分で、咲いている)
その、彼女の今までの努力を、すべて無に帰すような提案であった。
全く笑えない話であったろうに、クリスティーナは少し茶目っ気のある言葉をテスカーリに向けてくれた。
「竜人の御冗談は、過激ですのね。私、今日はなんだかとても賢くなったような気分ですわ」
「……ええ。竜人の言葉尻は強いのです。他の種族の方からは、随分と怖がられたものです」
「老婆心ながら。以降は先ほどのような御冗談は、あまりおっしゃらない方がよろしいわ」
「はい。以降、気を付けます」
テスカーリは屋敷を出た。
随分と移動してから、振り返った。
ログノフ侯爵家のお屋敷は、やはりどこか重い空気をまとっている。
ここがどんな場所かは、分からない。
だが彼女はきっと、ここにい続けるのだろう。
花が枯れる、その日まで。
こちらの話の前日談みたいなお話があります。
お気になります方は下部のURLなどから良ければどうぞ。
★ヴィクトル
狼の獣人。ログノフ侯爵。家族と仲良し。
★クリスティーナ
人間。ログノフ侯爵夫人。家族と仲良し。
★ジョレス
狼の獣人。ヴィクトルとクリスティーナの子。家族と仲良し。
水辺で遊んでいた時に亡くなってしまった。
★テスカーリ
竜人。医者。家族との折り合いが微妙。
※家族と仲良しの後ろに(自己評価)とつきます。




