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この国に困ってる人はいらっしゃいませんか。


困っている人って、探そうと思っても見つからないものですよね。猫はそこら辺に寝ていらっしゃらるのに。

この世界には様々な国がある。人が少なく荒廃した国、AIが管理している国、工場ばかりの国。様々だ。それらの国々はそれぞれ独立して存在しており、戦や争いなどは国家間で起きることはない。

その理由が、この世界に存在する「カミ」にある。

「カミ」とは人間が名付けた名称であり、その存在が名乗ったわけではない。カミという存在たちは、世界をカミの数だけ分けて、それを「国」と呼んだ。人間はその「国」に住むことで、カミサマの加護を得ているわけである。

つまり、旅人という存在は、「カミ」の加護を得ない珍しい人々を指すのである。

そんな旅人に対して、忌避感を抱く国民も少なくないわけで____。


「君、旅人かい?すまないね、ここでは旅人はちょっと…この国のカミについて書かれている本も多いからね、入れられないんだ」


そうやんわりと断られ、シンが肩を落とす。客を得るためにはこの土地の情報を得なければならない、と思い本屋を回ってみたが、このザマである。


「…そう、ですか。わかりました。お時間いただき、ありがとうございました」


そう言ってぺこりとお礼を言うと、シンは歩き出す。固い石レンガの地面を見つめ続けながら、街を回る。

「トキ」は世界を巡る何でも屋。国への滞在は短くて長くても半年ほど。国民同様受け入れられるとは限らないのである。

期待していなかった、と言えば嘘になるが、仕方のないことなのだ。


「はぁ、こんな方法で集客できないでしょうに。別の収入源探した方が絶対いいです。こだわっているのは知っていますけれど、まったく、融通の利かないひと」


小さく不満を零しながら、色々な家の間を進んでいく。路地裏を通り、屋根を飛び越え、困っていそうな人が居そうな場所を探していた。あとついでにお金をたんまりもっていそうな人も。

しかしそれで困っている人が見つかるなんてことはあるわけもなく、気づけば「トキ」の仮拠点を出てから3時間以上が経過していた。


「は~~~…。見つからないです。どうして…」


がっくりと肩を落とし、路地裏で腰を下ろした。隣では退屈そうに猫が寝ころんでいる。その姿があんまりに呑気で手を延ばせば、目を細めてそれを受け入れた。随分と人に慣れているらしい。この国は、いい国なのだろう。困っている人がなかなか見つからないくらいには。

「お前はいいですね。呑気で」などと文句を言いつつ、撫でていれば、段々どうでもよくなって来たりして。帰ろうかとさえ思ってきた。

そんな時だ。

ダンッと音が頭上から聞こえる。思わず上を見れば、黒い影。人だ。青空を遮るように、おそらく屋上から人間が落ちてきたのだ。シンは反射的に近くの廃棄物だろう物に飛び乗り、足に力を籠める。


「っと」


ひょい、と軽々と飛び上がり、落ちてきたその人物を横抱きに、そのまま地面へと着地した。その音と衝撃に驚いたのか、猫がそのまま去っていく。

シンは周囲を確認した後、自身の腕に抱かれた、小さな人間を覗き込む。

少年だ。薄水色の髪を持った、少年。その胸元には、貝殻のトップが付いたペンダントがある。そのペンダントはどこか異質で、目を引かれる。特別変わったものではないのに。

引き込まれていた意識が、少年のうめき声で浮上し、ハッとその子供の顔をよく見た。気絶しているのか、その瞳は固く閉ざされている。


「…?だれ、というか、なんで上から落ちてきたんでしょう???」


はて、と首をかしげつつ、こうしてずっと抱きかかえているわけにもいかない。

どうしようかと考えた末に、シンは少年を背負った。

どうやら怪我もない。兎角一度「トキ」に戻ろう。

もしかしたら、待ち望んでいた困っている人、の可能性もあるのだから。

そう思って少年をチラ、と見つつ、その足を進めた。


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