表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/11

6 パンの匂いは飯テロ認定でいいのでは?

朝は日の出とともに起きて、ひと仕事してから朝ごはん。夜は夕方に食べて、日が完全に沈む前には帰宅。夜更かし? 無理無理、燃料の無駄。暗くなったら寝るが基本だね。


おばあちゃんのところで薬の作り方を勉強したらご飯の時間。ご飯は昨日と同じ食堂で食べる。


「ハーレちゃん、先に食堂行こうか。モミンも持ってきたよぉ」

ママが迎えに来た。


おばあちゃんにご挨拶して、食堂に向かっている最中に、狩りから帰ってきたフィンに会う。まぁ毎日ここで会うけど…。


「あれ?うちのパパは?」


「ん」

頷くフィン。ちょっとかすかにドヤってるようにみえる。


「ママ、パパ間に合わないかも」

「そうなのぉ?じゃぁお弁当持って行ってあげないとねぇ」

「フィン、フィンのパパは?」


「ん」

頷くフィン。興味なさげに北東側をちょっと見た気がする。


「うーん。たまには一緒に食べてあげたら?フィンのパパ寂しいと思うよ?」

「……フィンくんのパパはどこにいるのぉ?」

「がんちゃんだって」

「……そう」


そんな話してたら、肉食堂に着いた。


入口は普通の家の3倍はある大きさで、暖簾がある。そうあの「暖簾」。皮扉の代わりに皮暖簾。「筋肉は正義食堂」とちゃんと正式名称が刺繍してある。そして串焼き鶏肉マークの刺繍。


え?まさかの食堂紋が串焼き鶏肉だとは!何度も来ているのに今日気が付いたよ……


あーちなみに、マークは焼き鳥じゃないよ。串焼き鶏肉。鶏もも1枚まるっと巨大な串に何枚もぶすっと刺して、じゅうううって焼くの。焼き鳥の20倍はでっかい。でも皆これを焼き鳥のように食べるんだよね。そりゃマッチョになるよ。


中に入ると、すでに人でにぎわっていた。ガヤガヤと話し声、メニューは1つ。昨日焼いておいた肉を朝焼いたアロン(ピタパンもどき)に挟んで出てくるんだけど、めちゃくちゃアロンのいい匂いが、お店の中に漂ってる。


(やっぱり、人は肉だけでは生きられないんだよ……)

アロンの匂いで心が満たされていく。


本当は夜もアロン食べたい。でもダメ。なんでって、この世界、水は湖だけ。雨降る雲は動かない。雨を受け止めるのが岩山の役目らしい。えーー??なにその原理?意味わからないけど、水源1つだから、水が貴重。だから少ない水で育つ食物を植えている。それが小麦らしい。小麦貴重。


「お、ハーレちゃんじゃねえか。今日も元気かぁ?」

「ん!」

ごっつい腕のおじちゃんが、串焼き鶏肉を片手に手を振ってくる。名をユボさん。肉食堂の肉焼き職人で、口数も煙のごとく多い。


「モミン持ってるじゃねぇか~!お、今日はごちそうか?」

「モミンはデザートですっ」

「ええのぉ。俺にも一口……」

「だーめ!今日はフィンと食べるの!」


「へいへい、モミン係は厳しいな。こりゃ将来が楽しみだ」

にやにや笑うユボさん。後ろから「ユボさん、腹減った!」とツッコミが飛ぶ。


開いている絨毯に座ると、アロンのサンドイッチがどっさりと運ばれてくる。


(ユボさん、ほんと上手に運ぶよね。よくすり抜けられるなぁ)


ユボさんは、その筋肉を活かし大量にサンドイッチを持っては配り、作るを繰り返している。


サンドイッチといっても、これがまぁ、私の顔くらいある。いや、ほんとに。お皿からはみ出ている。


フィンはいつもの場所(私の隣)にぴょこんと座ると、すぐに手を伸ばす。

「フィン、おいしい?」

「ん」

頷くフィン。無表情だけど、早い。サンドイッチがまるで魔法のように消えていく。


別の席では、肉の取り合いでギャーギャーやっている。

「筋肉だ!筋肉!筋肉で勝負だぁ!!」

盛り上がっている。がんばれ。でも私は振り向かない。絶対に。


そんなこんなで、アロンも肉ももっしゃもっしゃ食べて、いよいよ――待ちに待ったモミンの時間!


キラキラと目を輝かせながら、皮をむく。ミカンみたいにむけるんだ。皮は最後に食べる。大事なルール。あのキュッとした渋みが、甘さの余韻をきれいにまとめてくれるからだ。


1かけらをフィンに。1つを自分の口に。

「んーーーーーーーー!!」

悶絶するほど、おいしぃぃぃぃぃ!!


モモ!!濃厚な甘み。甘いだけじゃない。かすかにある酸味が本当においしい。何より味が濃い!前世で、すっごくおいしい桃を食べたことがあって……確かフクシマとかいうところのやつ。それを思い出す味!あの後あまりのおいしさに桃にはまって、いろいろな産地の桃を食べ比べしたのを思い出した。このモミンは負けてない!触感もミカンの薄皮に包まれた桃。手が汚れない桃。ブラボー!


と、気が付いた。フィンが食べずに私の顔をジーとみてる。

「フィン、食べなよ」


「ん」

頷くフィン。


ん?何考えてる?と、持ったモミンを私の口に持ってくる。え?え??くれるの?


「んー・・・。フィンも食べて。本当においしいよ。一緒に食べよ?」

口にぐいぐいと持ってくるフィン。

「ん!」

フィンの目力が凄い。


しょうがないから、パクリ。んーーーー!!うまーい!


一切れ剥いて、今度はフィンの口に持っていく。

「フィンもおいしい?」


「ん」

小さく頷いたフィンの口元が、少しだけ、ほんのちょっとだけ、ゆるんでいた。わかりづらいけど、これは「最高にうれしい」のサイン。


(そんなにおいしかったんだ!)


お代わりの手を出すフィン。一切れあげると、私にくれる。


「……フィン、もしかして、私が『おいしい』って言う顔が見たいだけなの?」

「ん」(無表情)

「それ、ズルい顔だよ……!」


ちょっと恥ずかしいけど、一切れとってフィンの口に運ぶ。と、あっという間になくなったモミン。最後の一口は私の口に消えた。


「フィン、モミン、おいしかったね!」

「ん」

力強く頷くフィン。だよね!


よし!今日は待ちに待った草原の散歩だ!まずは…パパのところに行ったママを待つところから始めるか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ