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4 チートか!?

満腹のおなかをちょっとだけポンポンしながら、薄暗くなった道をランプ片手に皆で一緒に家へ向かうんだけど…そろそろ…あ!フィンのパパだ。


「いつもすまんね~」

と、フィンパパが頭をぺこりと下げる。フィンパパはうちのパパと違って中肉中背(前世バージョン)、近くによっても暑くない!


フィンは私の隣にぴったりくっついて、フィンのパパが「そろそろ帰るぞ」と言っても、うーんとうなって、さらにこっちにくる。


フィンのパパは苦笑いしながら

「これ、食べてくれ」

って言って差し出された手のひらには――神が宿っていた。


(わーー!!モミンーー!!)


「ありがとうございますっっ!」

反射的に礼儀正しく頭を下げたがもう脳内がモミンでいっぱい。この果物、実はミカンの形をしていてモモの味がする果物なのだ。モモの形でもよくない?って?それは甘い。種食べれないし、汁がブシャッ。もったいないでしょ!でもミカン型は、皮まで食べたら無駄ゼロ!スマート果物代表、モミン様!


……ふと横を見ると、フィンはパパに担がれながらも、こっちに手を伸ばしてた。


「じゃ、また明日ね」

モミンから目を離せず、バイバイを言ってしまった……ごめん、フィン。





水路を三つ越えるとうちに着くんだけど、うちは「パパが強いから」南東の一階。なんでも“巣は安全な場所がいちばん”という考え方らしく、村でも人気の立地。家の入口は、牛の皮でできた立派なカーテン――という扉。牛の皮を超えるモンスターは、そんなにいなくて、マンモスか竜ぐらい。パパ強い!


刺繍する糸も貴重。野生の蜘蛛から殺さずに採る必要があって、皮に刺すのも固くて難しんだ。ママの刺繍は潰れずに花の家紋を描いている。ママ凄い!


「ハーレちゃん モミンは今食べるの?」

とママが後ろから声をかけてくる。


「ううん。明日、フィンと一緒に朝ごはんで食べる!」

私は高らかに宣言。


家に入ると、すぐに居間。ひんやりした空気を感じながら、ランプを床に置いて部屋の中を見わたす。さすらいの民だったからか、木が貴重だからか家具がそもそもない。代わりに、どれだけでっかくて柔らかい毛皮――つまり高級じゅうたん――を部屋に敷けるかでセンスと力が評価される。インテリア勝負が、なぜか戦闘力のアピールになる世界。なんでも筋肉で謎だけど。


うちの絨毯はもこ木。気が付くと昼寝してしまうぐらいにふわふわしてて気持ちいい。


「この絨毯、狩るの大変?」

「そーだな。深森に3日潜って必死に探したな。死ぬかと思ったし、もこ木はあんまりいないから」

「……そうね、倒れてたわね。部屋で私が見つけたとき、もこ木に抱きついて泣いてたし」

「感動の涙だ!!」

「はいはい」


毛皮のじゅうたんをふかふか踏みながら、奥壁に2つ並んである皮扉に向かう。手前の皮扉が子供用。奥はママがいるほう。さすが、ママ大好き世界。最も安全な場所は妻用になるんだって。


「おやすみなさーい」

と、パパママに挨拶して、自分の部屋の皮扉をぺらっとめくると、そこは私の王国。


明日の朝のために、モミンをそっと隅のかごにしまう。靴をかごの隣に並べ、服を専用かごにぽいっと。


毛皮を重ねたベッドの上にごろんと横になると、背中からふわーっと気が抜けていく。気がふわんとめぐって、そろそろ、夢の時間がやってくる……


……の前に。気の鍛錬、5分コース!毛皮に寝そべった私は、いつもの日課に取り掛かる。この世界、実は”気”があるのだ。


忘れもしないあれはまだ1歳になる前の話_


いつも母の腕の中でぬくぬくと、うとうとしていたんだけど、あの日は違ったんだ。いきなり背筋に稲妻が走り、頭の中に天啓が鳴り響いた…気がしたの。


(はっ!? この雰囲気……もしかしてこの世界、“アレ”があるやつじゃない!?)


異世界転生といえば――そう、魔法!前世で何冊読んだかわからないファンタジー小説たちが、脳内でめくれまくる。テンションがブチ上がった私は、母の腕の中でむくっと身を起こし――たつもりで。


(できる……できる気がする!)


ぐっと力を込めて、言葉にならない喉を限界まで震わせて唱えてみた。


「ダァダダァ~!」ステータスオープン


……。


(……うん、まあまあ、最初はこんなもん。ステータスは見られない転生もあったし。次だ次!)


「だぁぁぁっ!」ファイヤー!


……空気、無反応。ほんのりヨダレの気配。


(…あ、あれか!あれが足りないのか!)


焦らない焦らない。大事なのは“溜め”だ。魔法には詠唱というロマンがある。いきなり火が出たらむしろ困る!ここは最終奥義でいこう。厨二知識のすべてを集約した、究極呪文詠唱。


私は両手をバンザイする勢いで掲げ、母の腕の中でそり気味になった――つもりで叫ぶ。


「ばだぁあだだばぁぁぁぁ……!!!」

(我が内より湧き出づる深淵の力よ……眠れる焔の理、いま封印を解き放て! 紅蓮爆焔弾ファイヤーボール!!)


(……きた!? どこに!? 火!? 炎!?)


……。


(もしかして……この世界、魔法……ない?)


そういえば、見たことがない。狩りをみたときも、誰も火の玉なんて撃ってなかった。牙槍と牙斧。すべて物理。ゴリゴリの肉弾戦だった。


(泣ける…)

夢見た分の絶望、そして何より恥ずかしくて、母の胸に顔をうずめて泣いた。


でも――ふと、身体の内側に、小さな“うねり”を見つけたんだ。


ぽわっと、何かが体をめぐっているような感覚。温かくて、でも確かに流れている。呼吸にあわせて、ふわりと膨らんだり、しぼんだりする。お腹のあたりから始まって、胸の方へ。背中を伝って、また戻ってくる。


(なにこれ……?)


名前まではわからない。けど、感覚でわかった。これは、私の中にある“なにか”だ。それは、呼吸と連動し、食事(母乳)を飲んだあとには、ぐるぐると活発になる。


それから私は、日課のように「それ」を感じる時間を持つようになった。誰かに抱っこされているとき、布団に寝かされているとき――暇なときは、目を閉じて、自分の内側に意識を向ける。


中心はお腹。ここは感じやすい。胸のあたりも、なんとなくふわふわする。でも手足の先は……よくわからない。届かない感じがする。


(これは……“気”だ)


……魔法はなかった。けど。これはこれで、悪くないかもしれない。派手な火球よりも、静かに体の中を巡るエネルギー。それは、私が持てる、最初の“力”だった。




なんか思い出したら、違う意味で泣けたが、まぁそんなこんなで、私は毎日、朝晩、身体の中にある気を辿っているのだ。身体を巡っている気の流れを知ることで、コントロールできないかと思ってる。


初めは赤ちゃんの時からだから、一緒に手を繋いでいたフィンの気までグルグルしていたらしく、今ではフィンも一緒に、気を巡る練習をしてる。まさかの仲間ができたわけである。


まずは下っ腹。温かい。発見。そこからぐるりと一周――お腹から頭へ、頭からつま先へ、またお腹へ。次は右手……左手……そして最後に、またお腹でぎゅ!風船を小さい箱に押し込める感じで。ぐ!ぐ!


「ふぅ……。今日も頑張った。明日は朝からフィンとモミンだ!」


一日の冒険を終え、鍛錬?も終えたので、夢でモミンと会うことにする。


ファン、おやすみー。










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