3 お腹空いたけど
お腹空いた~
ご飯の時間である。今日も、パパ、ママ、そしてなぜか帰らないフィンと一緒に、食堂へ向かう。
ちなみにこの世界、家にキッチンはない。理由? 簡単だ。
『木が襲ってくるから』
いや、ほんとに。動かない木のほうがレア。火を使うってことは、「命がけで燃料調達」って意味で、木材を拾いに塀の外に行ったら、逆に私たちの命が拾われる。まじで。
だから燃料節約のため皆、食堂で食べる。この村には10か所の食堂があって、いける食堂は、狩りの貢献度で決まる。どんなモンスターをどんなふうに仕留めたかによって、「今日のご飯のランク」が決まるってわけ。一応、燃料と肉持参なら食堂は個人でも使わせてもらえるけど、そんな人見たことない。
ちなみに今日のメインは、メンドリ―。見た目は雌鶏だけど、まず、でかい。1メートル。しかも飛ぶ。2メートルくらい。さらに好戦的。とんで逃げるんじゃなくて、とんで蹴ってくるらしい。
(パパが筋肉談義とセットで嬉々として語っていた)
で、そのメンドリ―を仕留めたのが、うちのパパを含む3人チーム。でも致命傷を与えたのはパパ。つまり、今日の肉の王様はパパということ。よって、うちは「筋肉は正義食堂」――通称・肉食堂に行ける。
(……ネーミングセンス!泣ける)
あ・・うちは肉食堂しか言ったことがないけど、食堂はまずモンスターのランクで場所が変わるんだよね。3ランクに分かれていて、一人で狩れるもの、チームで狩れるもの、深森のもの。
「ママって肉食堂のほかって行ったことあるの?」
そういえばほかの食堂事情を、私知らない。
「あるわよ~」
うさちゃん食堂は友達と行ったらしい。ここは、一人で狩れる肉がでる食堂で、一番岩側にある安全な食堂だ。なぜうさちゃんか。ピンクの毛皮をしたレアモンスターがいて毛皮がとても素晴らしく女性に好かれるからだ。ウサギの毛皮を堪能するために行ったら、引かれている毛皮は普通のネズミ皮だったからがっかりしたらしい。
あと、パパと知り合う前は、「次こそやったるで食堂」通称・次食が多かったらしく、味は肉がパサついててビミュウらしい。
どっちももう個人的には行きたくないらしく、それを聞いたパパは筋肉を波打たせながら、ママにいい肉を捕り続けることを誓っていた。
(いちゃいちゃじゃなくて、筋肉が暑いわ!!)
パパは強いから肉食堂以外は行ったことがないと思ってたけど「あるぞ。すごく若い時はまだ実力が足りなくて、がんちゃんだったなぁ」と懐かしげに話している。肉にパサつきはないものの、筋があるらしく、固いらしい。
(あー!……フィレが肉食堂、ロースが次食。筋は……がんちゃんか?筋は少し煮込んでいたというから、次食よりは上の扱いか!)
「ふーん。パパ、がんちゃんって食堂名なに?」
あー。そうか、しらんよな。と言いたげに私の顔をまじまじと見たパパは教えてくれた。通称・がんちゃん 食堂名は、「次は眼帯でも外すかな食堂」 コック長は戦士時代「うずく目を次こそ開放するかな」と言い続けていたらしい。
(聞かなきゃよかった。なぜここで厨二病が……)
本当に涙が出そうだ。
パパとママはデートでほかの食堂にも行っていたらしい。イチャイチャいながら教えてくれた。
パパは全盛期、深森にも狩りに行ったらしく、深森専門食堂の「ピカ一食堂」 通称・ピカ食と、もう一つ上のランクの「まじか食堂」 通称・マジ食 は利用したらしい。
「パパとママは幼馴染だったから、いつも二人で行ってたんだね~。美味しかった?」
と聞いたら、パパのこめかみに青筋が……。
どうも、お見合い祭りでママが違う人と食堂に行ったらしい。聞かなきゃよかった。パパは涙目でママをジー―とみてる。
ママはため息つきながら否定。私、パパが来るって聞いたの。……先に行っててほしいって聞いたから別の人と行ったのよ。それでもパパは食堂に入っていくママが忘れられないと泣いている。
(うわ……パパが忘れられないって泣いてる……何十年前の話よ……てか食堂じゃん!)
藪をつついたらしい。ママごめん。
ぎゅって、手を握られて振り向くとフィンが、くらーいオーラを出して、怖い顔して「ん」とうなずいている。
(……)
「フィンとしか行かないよ」
たぶん、これが正解なはず。
「ん」
春が来たんだね。もう夕方だけど晴天がみえる……私には。
あっちも落ち着いたらしく、二度と食堂の話なんて振るものかと思っていたら、フィンが「連れていく。閉店中に」と約束してくれた。
後の2か所の食堂はトップ1・2で、2位が「あんたが大将食堂」 通称・拝むで食堂 1位が「幻食堂」 通称・閉店中 とのこと。
わぉ。ケガしないでね。と言って、手を握り返してみた。ちょっと恥ずかしいけど。
肉食堂は、ギルドの傍にある。ギルドは岩山から一番遠い場所、南の塀にある。強いものは外側に近いところで生活をする。そういうことだ。
歩きながら、メンドリ―と筋肉との闘いの話をし続けるパパ。パパの話をスルーしながら、私の隣に張り付いているフィン。ご近所の方々に声をかけながら歩くママ。
なんかいつもの光景で笑える。
食堂の作りはどこも一緒。中に入ると、まず目に入るのは毛皮の絨毯。個人宅の広間3つ分くらいある部屋に、どーん!と敷いてある。肉食の絨毯は上質なウサギの毛皮。ふわっふわ。尊い。
毛を堪能するための皮はモンスターの強弱には左右されない。ラッポー(巨大イノシシのようなモンスター)の皮の上になんて座ったらゴワゴワして痛すぎる。ウサギは大きさが50センチぐらいしかないため、この部屋に引くための毛皮を集める労力は強さに匹敵するのだ。
イスと机はない。基本、床に座ってモフモフのじゅうたんの上でご飯を食べるスタイルが主流。ワイルド&ラグジュアリー。
開いている空間に皆で座ると、モンスターの皮で作られた革袋から水が注がれ、骨のカップが配られる。各自、自前のナイフを抜いて、準備万端。いざ肉!
で、ここで事件(?)が起こる。
骨のお皿に肉が盛られて運ばれてきたとき、隣のフィンが、私の分の肉を、そっと取ってくれたのだ。
……え?
「ん」
うなづき、当然のように渡してくるフィン。
「フィン……」
って、言いかけたところで、横からゴツい手がスッ――
「いやいやいやいや、フィン、それはパパの役目だろ。肉はこうやって、ほれ!」
と、パパが豪快に肉を掴んで私の手に――
「……フィンくんは優しいね。パパ~私のは…」
ママの一言が、すべてを制した。パパの手、空中でピタっと止まる。そして、ゆっくり……肉を自分のお皿に戻し、
「……ママ、はい、おいしいやつ……」
と、デレ顔で、一番分厚くてジューシーそうな肉を切り取って、ママの口元へ運ぶ。めっちゃ優しい。
ママはそれをにこにこ受け取って、「おいしい~♡」って。イチャイチャしながら食べ始める両親。私はというと、フィンが取り分けてくれた肉を前に、ちょっと赤くなっていた。たぶん。
この世界は煮るなどは贅沢のため、肉は焼くだけ 味付けも塩が基本でハーブなどもあまり使わない。
草を育てるには、塀の外から根っこごと持ってくる必要があるが、根っこを掘っている間が無謀になって大変危険。危険を冒すならお腹が膨れる肉が優先。次は薬になる草となり、食に対しての労力をかけられるほど安全ではないからだ。
美味しいけど、飽きたよ。塩味の肉。しかも肉だけ。噛めば肉汁が出てきて、適度な歯ごたえ。美味しい地鶏のような味をしてるけど!けど!毎日焼き鳥塩味はさすがに厳しいって!
「前世で食べた、納豆が恋しい……」
人間は雑食じゃないんかい。と思っているのは私だけらしく、皆美味しそうに食べている。前世の記憶って泣ける。
■食堂
1番 「幻食堂」(通称:閉店中)
2番 「あんたが大将食堂」(通称:拝むで食堂)
3番 「まじか食堂」(通称:マジ食)
4番 「ピカ一食堂」(通称:ピカ食)
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深森のモンスター肉のため、うまさが違う。始めて深森の肉を食べた人が、あまりのうまさに「ピカイチだ!」と名付けてしまった。その後、更にうまい肉を倒せる人が現れ、「まじか」と恐れられたらしい。更にそれから100年程度たって天才が現れ、皆に拝まれるようになる。その天才が、「俺の肉はお前に託す」と言って通った食堂のコックを人々は「あんたが大将だ」と称え、店名にしたと言われている。だがその裏で、コックの天才が店を開けていた。勇者を待って閉店中らしい。噂だけが流れていくが、その店を見たものはいない。
5番 「筋肉は正義食堂」(通称:肉食堂)
6番 「次は眼帯でも外すかな食堂」(通称:がんちゃん)
7番 「次こそやったるで食堂」(通称:次食)
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浅森用の食堂。がんちゃんのコックは、ここだけの話、激よわ。だが狩りには連れて行ってもらえる。そもそもコックは狩りをしない。自分の職場(焚火を起こす地面)を整えて、精神集中をして肉を待つのがセオリー。しかし、がんちゃんだけは違う。なぜか自分を狩人だと思っている。パーティー仲間とはwinwinの関係。パーティーがHPを削りがんちゃんが残HP1にとどめをさして狩った肉(個人肉)+木モンスターにコック(がんちゃん)を足すと個人料理が食べられる。※本文参照 食堂は個人利用可能
次食は、駆け出し冒険者が通う。肉食堂はみんなのあこがれ。憧れの肉と憧れの肉(筋肉)をかけて肉食堂と言われている。
8~10番 「うさちゃん食堂」
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3か所あり、一番岩側にある安全な食堂だ。妊婦、お年寄りなどが通う。肉レベルは高くないがどちらにしても肉を大量に消費できるような人はこない。実はハーレは知らないが野菜がでる。というか野菜メインじゃないと食事できない人が通う食堂。この存在をハーレが知ったときの話はまた別の機会に。