11 甘いものは正義です!
今日も草原……じゃなくて、畑に来た。
この間は青い小麦畑の探検、今日は茶色い小麦畑。こっちは刈り取り中らしくて、麦はもう、ほとんど束にされてて、地面がところどころ見えてる。
……ぐっ。虫も見えてる。
前世よりは強くなったとはいえ、やっぱり腰が引ける。とくに、くねくね系は無理。
雑草もところどころ残ってて、まだ生きてるやつもあるから、調合に使えそうな葉っぱを見つけては摘んでいく。
と――目の端に、土の上でうごめく何か…。
見れば、虫が山盛りになってる!?うわ、見てるだけで鳥肌……。怖いけど、目をそらしたら何かが起きそうで逸らせない。
するとその瞬間、フィンが無言でずい、と近づいて、虫の山をごそっと払った。
えっ、払った!? 素手で!?!?
虫の下から出てきたのは――
透明な、水晶みたいな石。光を受けて、きらりと輝いた。すっごく綺麗。
……だけどすぐに、また虫がくっつく。え?なにこれ。石に虫がびっちり張りついてる。おかしい。何かがおかしい。
とりあえず、フィンがもう一度虫を払ってくれた隙に、そっと石を拾って、水で洗う。
虫はいなくなっても、また虫がくっつきそうなので皮で包んで持ち帰ることにした。
濡れた石は、べとべとしてた。
家に帰って、さっそくママに見せてみたけど――
「ん~、わかんないわねえ」って、首をかしげるだけ。うーん、ママでも知らないか。
隣に行って見せたら、おばあちゃんはちょっと目を見開いて、「あら、珍しいわねぇ」と言った。
「これね、甘いから人気なの。でも滅多に手に入らないのよ。……昔、舐めたことがあるわ」って、なんだか懐かしそうな顔。
――ピンときた。
その言い方。甘い。舐めたことがある。しかも人気?
ちょっとだけ、角をぺろり。
あまっ!?
……これ、砂糖だ!!! まさかの自然の砂糖石!?
うそでしょ。この世界、甘味が地面から生えてくるの!?
ぺとぺとした手を振りながら、もう一回ぺろっとしてみた。うん、やっぱり甘い。ちゃんと、ほんとに砂糖の味。
これは……念願のお菓子を作れるかもしれない。
前からほしかった、けど使う予定がないから諦めてた――鉄の加工を、フィンのパパにお願いした。そう、ついに念願の「鍋」作り。
鍋の依頼を聞いたプアは、ちょっと悔しそうに「……俺にはできねぇ」ってつぶやいてた。大丈夫。そのうちきっとフライパンも依頼するから。その時はよろしくね。
木材はフィンにお願いした。
「枯れ木になってるやつを選んでね」って言ったら、ちゃんと枯れてる枝の束をいくつも集めてきた。
ひと束だけじゃなく、いっぱい。ありがと、フィン!
油はというと――
肉食堂のユボさんに「キッチン使っていい?」ってお願いしたら、にっこり笑ってOKしてくれたうえに、捨てる予定だったラードまでくれた。
ユボさん、ありがと!ほんと優しい…と思う。ほぼ0距離からの見学がなければ…。
で、小麦は……ランさん。
「試食させてくれたら分けてあげるがのう」と言われたので、即答で「する!」。交渉成立。
そんなこんなで――
鍋もある、火もある、油もある、材料もある。よし、やるぞ。
目指すは――ドーナツ!!!
揚げてる時点でもう、いい匂い。音も最高。じゅわじゅわって、幸せが炸裂してる。砂糖をまぶして出来上がり。
みんなにも食べてもらった。
一口目――
「………………」
全員、沈黙。
二口目――
あっという間だった。山盛りだったはずのドーナツは、秒速で消えた。
フィンのパパなんて、ちょっと涙ぐんでた。食べ終わってからの「……うまい」って、ひと言はすごく嬉しかった。
ユボさんも「うちの店で出したい」って言ってた。はい、ぜひよろしくお願いします!パート2だね。
帰りには、みんなが「パパとママにお土産持って帰りな」って、籠にドーナツ詰めてくれた。
うぅ……ありがとう、私、がんばった……(ちょっと泣きそう)。
それから数日後__
ふと思った。……そもそも、なんであの石、甘かったんだ?って。
思い出したのは、畑の隅っこにあった、雑草置き場。気になって見に行ってみたら――あった。竹みたいな草がいっぱい捨てられてる。
あれ?これ、もしかして……サトウキビじゃない!?
念のため、ちょっとかじってみる。
しゃくっ。じわっ。あまっ!!
ビンゴ!やっぱりサトウキビだこれ!!
さっそくランさんのところに駆け込んで報告。「雑草置き場に砂糖生えてます!お宝です!!」って勢いで叫んだら、「なにぃ!?」って大急ぎで確認に走っていった。無事に、雑草扱いから救出完了。
ただ――
サトウキビから砂糖にする方法は、知らない。そこは……ランさん、よろしくお願いします!!