10 私は誰にも見惚れていません…誓います(ウソ)
おばあちゃんに「作ってみてもいいわよ」って言われたから、薬を作ってみたら、なんとこれが大当たり。おばあちゃんにめちゃくちゃ褒められている。
「ハーレちゃん、上手ねぇ! 鉢を割らずに薬を作れた子なんて、初めて見たわ!」
え……そこ?
なんだか評価の方向が予想外すぎて、反応に困る。でも、まあ……褒められるのは悪くない。嬉しい気持ちは、たぶん本物。
今日は切り傷用の薬を作る。材料は「キリリ」っていう葉っぱ。葉っぱっていうか、もうトゲトゲのボールにしか見えない。しかも摘むときは下の瘤まで一緒に摘まないとダメ。栄養がこぶに詰まってるから。こぶだけだと速攻で腐る。なんでそんな仕様なんだ。
ちなみにこのキリリ、薬師しか摘んじゃダメってルールがある。理由は簡単。冒険者に摘ませると、ぜんぶ潰れるからである。
前に頼んでみたけど、「よゆーっす!」と謎のドヤ顔で帰ってきた筋肉たちは、キリリの葉をみごとに全部へしゃげさせていた。「トゲ? 知らん。握った」って、聞いてないよそんな筋肉論。
だから、皮を手と腕にぐるぐる巻いて、そろ〜っと摘みに行くのです。繊細なの。葉っぱ…というより私の手が。
摘んだキリリは、まず水に半日漬ける。するとふくらんで、なのにぎゅっと小さくなる。どういう仕組み?って感じだけど、そうなる。
次に、それを鉢に入れて、すりつぶす。えい、えい、ぐりぐり、どーん(←気合)。
全部潰れたら、太陽の光に当ててまた半日。
――ピンクになる! 桜みたいでかわいい! テンションあがる。
そして完成。キリリの茎を割いて小さな籠を編んで、その中にいれておくと効果も長持ち。完璧。
おばあちゃんは「100年に一度の天才ね!」って言ってくれた。鉢を壊さなかったから。そこかよ、と思いつつ、なんか嬉しくて真剣に毎日作ってたら、質も上がってきたって褒められた。やった!
今日もせっせと薬作り。水を測って、岩を削った鉢に入れて、ふと――思い出した。
前にフィンと手をつないで、気を循環させたとき、フィンの気も流れてきたんだよね。
じゃあ、水も……?と、手を水に入れて、気を意識してみたら――
おお! 水が渦巻いてる! しかも、なんか銀色の光が水の中を走ってる!?
なにこれ? 気? 一本だった線が、二本、三本と増えていって――最終的に水が全部キラキラ銀色になった。ラメじゃん。
キリリを、その水に漬けて、いつも通りに作ってみたら――
完成した薬が、ラメ入りだった。
試してみたい!ということで、冒険者ギルドに行こうとしたら、ちょうどプアに会った。フィンは狩りに行ってるらしい。
「ギルドに薬試しに行くとこ」
「……俺も行く」
なんで?と言おうとしたけど、まあいいか。ついてきてもらおう。
冒険者ギルドの医療室は、東の一番上の部屋。
外から帰ってくる冒険者たちは、傷だらけのことが多くて、今日も大盛況。
ナース役のおばあちゃん’sが手際よく骨を戻したり、異物を取り除いたりしてて、私は後ろでひたすら感動してた。あれこそ職人芸。
準備が整ったら、ラメ入りピンク薬の登場。傷口に新薬をぬりぬり。「ちょっとピンクでキラキラしてますけど、たぶん効きます」と説明。
すると――
ぴたっ……って傷が消えた。即効。
「……え?」
もう一人に試す。ぬりぬり。ぴたっ。傷が消える。即効。
何これ!?!?
周りがざわざわしはじめた。
「どうしたー?」とギルドの奥から現れるギルドマスター、ギアさん登場。
ギルドの王。噂のイケオジ。赤茶の髪にオールバック。浅黒い肌に、タレ目で、ほどよい筋肉。かっこいい~~~~~~!!!!!
なにこの大人の余裕! ハンサムで余裕のあるオジサマって、もしかして最強なのでは……?
私、完全に見惚れてた。
「……ハーレ!!!!!」と、隣のプアが青い顔で叫んでくる。
はっ。いけない。いけない。見惚れてた。
ギアさんは薬をひと目見て、「ギルド預かりにする」と即断。そばにいたギルメンに商業ギルドへの連絡を飛ばす。はやっ。さすがギルマス。
ほどなくして、「またお嬢ちゃんかい」と笑いながら商業ギルドのランさんが登場。
でも、薬を見た瞬間にピタッと笑顔が止まり、真顔に。
「これ……お嬢ちゃんが作ったんかのう」
「うん」
「……作り方、教えてくれるかの?」
「うん」
気が混ざってることも正直に説明。ふたりのギルマスが「気、かぁ……」とそろって腕を組んで唸ってたの、ちょっと面白かった。
その場で大量発注。納品の約束。
「いや、作れる分には限界があるんですけど?」って言いたかったけど、口には出せなかった。圧がすごい。
帰り道。プアがずっと青い顔で喋ってる。
「ギアさん、結婚してるからな!」「ついて行ってよかった!」「皆の幸せも考えろよ!」「俺が殺されるだろう!」
と、青い顔でまくしたててきて、最後に
「ギアさんに見惚れてなんかいないって、言え!」と迫ってきた。
「見惚れてなんかいない……」と約束させられて、ようやく解散。「絶対だからな!」とすごい剣幕で吐き捨ててプアは帰っていった。
つ、疲れた~~~。
後日談。
例のラメ薬、効果がわかった。「回復を早める」だって! 再生はしないけど、治りが爆速らしい。
そして名前が決まった。「ポーション」。
……ん? ポーションって、どこかで聞いたことあるような……。
まぁ、いっか。命名って、だいたいそんなもんだよね!