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5 初戦闘!

 5 初戦闘!




 まずは転送魔法陣で、相馬山に最も近い【不二市魔界門】のある不二教会へと向かう。

 教会に到着し、人波を縫うように外へ出ると、少し先にあるバス停から魔導バスに乗り込む。


 郊外へ向かうバスの車内には、装備を身につけた聖徒戦士の姿がちらほら見られた。


 揺れるバスの窓際の席で、先輩は物思いにふけった表情で携帯をいじっている。


(さすが先輩……。これから危険な魔界に行くというのに、この余裕。今でこそ飲んだくれだけど、かつては“十二使徒候補”として将来を嘱望されていた人だ)


 “十二使徒”とは、この世界を運営する教会の最高意思決定機関。およそ千年前、救世主に選ばれ、世界を託された十二名の弟子に由来する。


 そのため、構成員は常に十二名。選出基準は教会関係者であることのほか、細かな規定もあったはずだが、何より信仰心と人格であったと記憶している。そして、先輩の人格は…… まあ、そういうことだ。


 そうこうしている内に、前方に防衛設備に囲まれた魔界門が見えてきた。あれは万が一、魔界側の防衛基地が突破された時に、街を守る最終防衛ラインであった。


 あれは、万が一魔界側の防衛基地が突破された際に、街を守るための最終防衛ラインだ。


 二百年前には、最上級魔族三体によってあっけなく突破されたというが、今は技術も進歩している。そう簡単には破られないはずだ。


 防衛設備前の停留所でバスを降りると、目の前には巨大な門がそびえていた。高さは十メートル以上あるだろう。重厚な石造りで、表面にはさまざまな彫刻が施されており、美術館のオブジェのような芸術性を感じさせる。その形状は、前前世の世界にあった“凱旋門”に近い。


 ただ大きく異なるのは、アーチ内部の空間が歪み、その奥にまったく異なる風景が見えていることだ。


 門は一方通行で、手前が魔界への入口、奥が魔界からの出口となっている。車両はアーチの左側を、歩行者は右側を通行するように区分されている。


 僕は先輩に続いて、緊張しながら魔界門のアーチをくぐった。くぐった瞬間、体がふわりと浮くような感覚が一瞬だけ走る。この浮遊感には、何度体験しても慣れない。


 同時に、目の前の景色が一変する。


 そこには、物々しい施設が立ち並び、魔のモノを狩るための無骨な兵器が、その威容を誇っていた。基地内では、警備担当と探索目的の聖徒戦士たちが忙しそうに行き交っている。


 見上げた空は、どこまでも薄い赤に染まり、赤みを帯びた雲が風に煽られ、ゆっくりと流れていた。


(懐かしいな……)


 イアンの時に何度も見た赤い空。変わらない空と変わらぬ風景に、思わず感慨に浸る。するると――


「宙哉。こっちよ!」


 先輩の声で我に返り声の方を見ると、彼女はすでに次のゲートへと歩き出していた。


 基地はコンクリートの壁で四方を囲まれており、4つの門が設置されている。この頑丈な金属で造られた門は、普段は開放されゲートバーが変わりを担う。しかし、襲撃があれば、即座に閉鎖されその堅牢さで敵の猛攻を防ぐ“盾”となる。


 もっとも、この極東地区にある基地のほとんどでは、ここ百年ほど、その門が閉ざされたことは一度もない。


 聖徒戦士以外は、原則として基地外での活動が認められていない。そのため僕たちも、他の聖徒戦士と同様に、ゲートに設置された端末に魔導携帯をかざす。


 魔導携帯には、専用の「聖徒戦士アプリ」がインストールされており、それが身分証明として機能している。この操作は、魔界への出入記録としても利用されており、一定期間帰還しなかった場合には、捜索や安否確認の手がかりとなる。


 ――まあ、大抵は「MIA(戦闘中行方不明)」で処理されるのだが。


「急ぐわよ!」

「はい!」


 ゲートを抜けた僕たちは、門の周囲に広がる広大な薬草畑に挟まれた農道を、足早に駆け抜けた。先ほど述べた通り、極東地区では、魔のモノによる大規模襲撃は長らく起きていない。


 そのため、この地は魔素を吸収して育つ薬草の一大生産地となり、薬品会社への安定供給に貢献している。栽培地の周囲にはフェンスが張り巡らされ、基地の防衛隊員が警備にあたっているため、セキュリティも万全だ。


 ちなみに、この栽培業者と薬品会社は、教会の影響下にある組織が運営している。その仕組みによって薬品の価格が抑えられ、聖徒戦士の負担も軽くなっている。


 しばらく農道を足早に歩くと、栽培地の端が近づいてくる。

 先輩は携帯を取り出し、地図アプリを起動する。


 このアプリには、先人たちの血と汗、勇気、そして命によって築かれた地図データが蓄積されている。本当に感謝しかない。


「相馬山は…… あっちね!」


 地図アプリを頼りに、緑の草原に続く踏み分け道を早足で進むこと三十分ほど進む。

 道がだんだん細くなり、草に覆われはじめた頃、視界の先に相馬山のなだらかな麓が広がった。


 標高は八百十二メートルだが、モコワレ草の自生地は五百メートル付近からなので、頂上まで登る必要はないだろう。


「待って!」


 山に向かって歩みを進めようとした僕の前に、先輩が腕を伸ばして行く手を塞いだ。


「どうしたんですか?」

「アレを見て」


 先輩が指差す方に目を向けると、そこには三匹の魔物(魔のモノの一種)“ゴブリン”が徘徊していた。小柄な体に獣じみた顔をした、人間に敵意を向ける魔物だ。


「どうします?」


「迂回している時間が、もったいない。やるわ!」


「はい!」


 先輩の言葉を受けて、僕も覚悟を決める。腰に差した刀に手をかけ、鯉口を切った。が――


「アンタはそこで戦闘態勢で見てなさい。私がやるから」

「わかりましたっ!」


 僕は元気よく返事をし、素直に先輩にすべてを任せることにした。

 今の僕では、悔しいが足手纏いになるだけだ。なにより、戦っても元十二使徒候補だった先輩の邪魔をするだけだろう。


 先輩は余裕の笑みを浮かべながら、ゴブリンたちへと歩み寄っていく。

 ゴブリンたちが魔法の間合いに入った瞬間、先輩はスッと右腕を肩の高さまで上げ、手のひらに魔力を凝縮させた。


 次の瞬間、水色に輝く魔法陣が、手のひらの前にふわりと浮かび上がった。


「アクアランス!!」


 先輩が魔法名を叫ぶと、魔法陣から水の槍が勢いよく射出される。

 高速で飛翔するその姿は、まるでミサイルのようだった── 正確には突撃槍の形状だが、誘導性能はもちろんない。


「ギギャアッ!?」


 ゴブリンの悲鳴が草原に響く。

 だが、時すでに遅かった。


 水のアクアランスを受けたゴブリンは、胸に大穴を開け、左腕と頭を宙に散らして崩れ落ちる。


「ギギ……」


 仲間を一瞬で失ったゴブリンたちは、怒りに震えながらこちらに気付いた。

 手に持った粗末な武器を握りしめ、僕たちを倒そうと突撃してくる。


 だが、先輩はまったく動じることなく、冷静に右手へ魔力を集中させた。

 そして、素早く魔法陣を展開する。


「アクアバレット!」


 叫ぶと同時に、魔法陣から無数の水弾が連射された。

 まるでショットガンのように、短い射程ながら、広範囲に高密度で撃ち出される。


「ギギギッ──!」


 ゴブリンたちは避ける間もなく、水弾の雨に貫かれ、たちまち蜂の巣にされていく。

 力尽きた彼らの体は、黒い霧となって空中に溶け、跡形もなく消えた。


 先輩は、ゴブリンたちが黒い霧となって跡形もなく消えた場所まで歩くと、地面に残された黒い結晶のようなものを三つ拾い上げた。


「アンタにも一つあげるわ」

「ありがとうございます」


 受け取った黒い結晶は、五センチほどの大きさで、その名を【魔核石】という。魔のモノの身体は、魔素で構成されている。それをこの【魔核石】がその名のとおり“核”となって、その肉体の形を保っているのだ。


「このサイズなら、一個三百Gぐらいね。ストロング系なら、二本は買えるわね」

「……」


 この【魔核石】は、さまざまな製造や資源として利用できる優秀な触媒であり、現代の人類社会には欠かせない資源となっている。そのため協会に持ち込めば、査定の後に買取されることになっており、聖徒戦士の収入源のひとつとなっていた。


 そして、この魔核石を安定供給させるために、教会は予算を投じて養成校を運営し、聖徒戦士の育成に力を注いでいるのだ。


 先輩に感謝しつつ、僕は受け取った魔核石を腰の小さな鞄にそっとしまう。

 優しくて、頼りになって、それでいて美人。ファエラ司祭がなんだかんだ先輩を敬愛している理由が、少しわかった気がする。


 そして僕も、普段の飲んだくれでダメダメな姿を忘れて

 今だけは、この素敵な先輩を、心から尊敬してしまう。


 登山開始一〇分……


「うぅ~~。ぎもぢわるぃ……」


 先輩は山道に生い茂る木の一本に青白い顔でもたれかかり、今にも吐きそうな様子だった。

 もう、さっきまでの頼れる才色兼備の先輩はどこにもいない……


「先輩、大丈夫ですか?」


 僕は先輩の背中を擦りながら、水を差し出す。


「だいじょうぶ…、じぶんのがあるから……」


 先輩は腰に巻いたポーチから、弱々しい手つきで自分の水を取り出すと、一口だけ飲んでから、ぽつりとつぶやいた。


「これは…… やまのぼりのせいね…… しょうじき… やまをなめてたわ……」

(教会での飲酒のせいでは?)


 同じ過ちを繰り返さないためにも、原因を伝えたい。だが、現在進行系でお世話になっているので、心の中で突っ込むにとどめておく。


「プラス…… さっきのはげしい…… せんとうのせいだわ……」

(動かずに魔法で楽勝でしたよね?)


「いや、あれだわ…… バスの中で”ゼクツィ”読んだのが全ての元凶だわ……。乗り物の中で読むと、酔うっていうし……」


(あんな物思いにふけった表情で、そんなもの読んでいたんですね。あと、頑なに飲酒のせいだと認めないな)


 僕は背中を擦りながら、心の中で突っ込み続ける。


「わたしは…… ここで休憩しているから…… アンタは先に行って、採取してきなさい…… うぅ……」


「こんな状態の先輩を一人置いていくわけには!」


「早くしないと、下山する前に日が暮れる。そうなると、危険度は更に増すわ……」


「……そうですね」


 先輩の言う通りだ。

 自生地最低標高の五百メートル地点まで往復でおよそ三時間。そこから薬草の自生地を探して、採取できる時間はまさに運次第だ。


 五百メートル地点で、発見できないかもしれない。そうなれば、更に時間がかかるだろう。


「現在、午前11時半で日没は5時……。最悪の場合を想定すると…… 時間的余裕は少ないと考えるべきよ……うぅ~」


 先輩は苦しいせいか、声を絞り出すようにそう呟くと、また木の幹に寄りかかる。


「それにしても…… 冒険は勢いで来るもんじゃないわね……」


 そして、落ち着くと自嘲しながら、こう呟いた。


「すみません……」


「アンタだけの責任じゃないわ…… さあ、早く行きなさい! ううぅ~」


「はい。なるべく早く採取して、すぐに戻ります!」


 僕はそう言って、木の幹にもたれてうずくまる先輩を後にし、登山を再開した。


 ######


 次回の予告(茶番なので、余裕のある人だけ見てください)



 読者代表( ゜д゜)


 読者代表(つд⊂)ゴシゴシ


 読者代表(;゜д゜)


 読者代表(つд⊂)ゴシゴシ


 読者代表(;゜д゜)  <……


 読者代表(;゜Д゜) <前回の予告にあった剣と魔法どこ? ここ…?!


 作者身代わり( ^ω^) <えっ? 最後に出てましたよね?


 読者代表(#゜Д゜) <普通は主人公だろうがゴルァ!!


 作者身代わり(´・ω・`) <ショボーン


 読者代表( ^Д^) <まあ、これに懲りて二度とあんな予告しようなんて、バカな考えはよすんだな、ハハハハ


 作者身代わり(#゜Д゜) <できらぁ!!


 読者代表(;゜Д゜) <今、なんて言った?


 作者身代わり(#゜Д´) <次回、主人公の戦闘を書くって言ったんだよ!!


 読者代表( ゜Д゜) <なら、次回見せてもらおうか、主人公の戦闘とやらを!!


 作者身代わり(*゜Д゜*) <えっ!! 次回、主人公の戦闘を!?


 次回へ続く……



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