表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4 先輩

 4 先輩


 前回までのあらすじ


 幼馴染である美少女ルシエル(腐女子)による、熱く長いBL語りに始まり、


「べっ べつにアンタのことなんて、心配してないんだからね! BL話ができないから、心配しているだけだからね!」


 と、ツンデレで終わる時間を過ごした宙哉。


 しかし、そんなツンデレタイムのあと、今度は後輩セリアが――


「ヲタえもん~。また、運営(ジャ◯アン)課金圧(いじめ)にあって、ガチャが回せないんだ~。五千Gだしてよ~」


 彼の元に泣きついてきた。そして、なんやかんやあって……


「もう~、セリ太くんはしょうがないな~。てれれれってれ~。はい、五千G電子マネー」


「わ~、ありがとう、ヲタえもん~! これでガチャが回せるよ~!」


 こうして、宙哉の財布から五千Gゴッドルが消えた。


 果たして宙哉は、無事推しの記念ライブで布施チャできるのか?


 推しの五周年ライブ配信まで

 あと、1日。


 #####


(あ~…… この人を見てると、さっきの罪が大したことないような気がしてくるわ~)


 転送魔法陣で秋ヶ原教会に転移した僕は、先輩の姿を見て心の中で呟く。


 信徒が祈りを捧げる長椅子を、まるでベッドのように使って眠っている。

 右手にはグラス、左手には空になったワインボトルをもったままぐっすりだ。


 この酔っ払―― 先輩の名前は<ノエミ・ブラウブルガー(2?)>。


 腰まで届くアッシュ系ブラウンの髪は、ゆるくカールのかかったふわふわヘアー。青いキャソック風のケープワンピースに、白い外套を羽織っている。そして左腕には、金色の金属に黒い宝玉をはめ込んだバングルが光っていた。


 そのスタイルの良さは、ワンピース越しにもはっきりわかる。整った顔立ちに、眼鏡がよく似合う美人だ。


 ……こんな性格じゃなければ、淡い憧れを抱いたかもしれない。


 信じられないかもしれないが、彼女は<ガブノミエル>という名を持つ、元天使である。(しゅ)に酔って仕事をサボり、(しゅ)によって僕たちよりも数年早く地上に送られたのだ。


 さらに信じられないかもしれないが、現職は司教である。

 話し出すと長くなるので、今は「酔っ払いの残念駄目美人司教」という理解で十分です。


「榎森くん、おはようございます」


「おはようございます」と挨拶を返した相手は、この教会の司祭<ファエラ・ライノット(2?)>さん。神学校時代のノエミ先輩の後輩で、若いが真面目で誠実な司祭様だ。――それに、綺麗な人でもある。


 そんな司祭様が、困った表情で僕に懇願してきた。


「榎森くんからも、先輩に何か言ってやってください! 朝から、神聖な職務を放棄して、ずっとこんな感じなんですよ!」


「何度も言いますが、司祭様が言っても聞かないのに、僕が言って聞くと思いますか?」


「……」


 僕は無慈悲な真実を即答して、司祭様をさらなる絶望に叩き込む。

 このやり取り、実はもう十回以上繰り返している。


 それでも、もしかしたら――という一縷の望みに賭けて、僕に相談しているのだろうが、どうしようもない。……まあ、もしかしたらただの愚痴なのかもしれないが。


 そして、更に愚痴は続く。


「しかもですよ、榎森くん! このお酒、祭壇に供えられていた信徒さんからの献酒なんですよ!? ホント、信じられません!!」


「うわー センパイサイテーだなー」


 僕はわざとらしく棒読みで司祭様に共感を示しつつ、駄目な先輩にやんわりと苦言を呈した。天使時代から、なんだかんだお世話になっているので、強く批難できないからだ。


 すると、その先輩がゆっくりと上半身を起こす。


「ちょっとアンタたち、人聞きの悪いこと言ってんじゃないわよ。私はね! こうやって、主に捧げられた神酒を体内に取り込むことで、日々の生活で溜まった“穢れ”を浄化し、その慈愛と慈悲を体感することで、主の存在を深く認識し、信仰心の“何たるか”を信徒に教え、導くことができるようになるのよ! つまりは、これも信仰の一つの形なのよ!」


 そして、開口一番これである。


「先輩、思いつく限りの詭弁を並べましたね」

「うわー センパイのいいわけ苦しいなー」


 僕たちの冷たい視線とツッコミに、先輩は「むぅ~~」と唸り声をあげて押し黙る。

 だが、次の瞬間には開き直り、今度は怒りを僕たちにぶつけてきた。


「何よっ! 私だってね、辛いのよ! 酒飲んで忘れたいのよ! それとも、私には酒も飲むなっていうのっ!?」


「仕事中に飲むなって言ってるんですよ」

「あと、献酒を勝手に飲むのもアウトです」


 再び冷めた視線と共に、正論を浴びせられた先輩は、「なによ、なによ、二人して私をイジメて楽しいの?」などボヤキながら、長椅子より立ちあがった。


「そもそも、そんなにお酒が飲みたいなら、ご自分の司教館がある戸部来村教会で飲んでくださいよ。私に迷惑をかけないでほしいです……」


 司祭様は駄目元といった表情で、ノミ先輩に自分の希望を伝えた。


「だって~、向こうだとマリナさんに、小言を言われてお酒が美味しくないんだもん~」


 だが、届かず。先輩の現状続行宣言。だが、そこは先輩と付き合いの長いファエラさん。大して落胆することもなく言い返す。


「私だって、お酒ばかり飲んでいる先輩に、グチグチ言っているつもりなんですけど?」

「それはね……? ファエラに言われても、ぜーんぜん気にならないからよ~♫」


(あれ? デジャヴ?)


 僕は二人のやり取りを見て、昨日のセリアとのやり取りを思い出す。

 ただひとつ違うのは——― 僕と違って、ファエラさんが先輩に完全に舐められているということだった……。


「ノエミ先輩。これを見てほしいんですが」


 僕は魔導携帯の画面に例のメールを表示させ、ノエミ先輩に差し出した。


「怪しくないですか?」


「確かに。報酬が不釣り合いね。採取場所が魔界の奥地っていうならまだしも、相馬山は魔界門から近いし、移動時間も短い。危険度も低いわ。山を登る手間を入れても、ちょっと高すぎるわね。それに、モコワレ草も昔と違って今は業者が大量栽培してるから、値段も安い。その点から見てもおかしいわね」


 さっきまでの酔っぱらいと同一人物? と思うほど、先輩の分析は的確であった。


「でも、依頼主の備考欄に書かれている<日頃のアナタの頑張りを評価し、“努力賞”として報酬を上乗せします>って文言通りなら、不自然ではないと思いますが?」


 司祭様は、備考欄の内容を引き合いにして、依頼を自然に受け入れられるよう意見を述べてくれた。だが、その意見はノエミ先輩の一刀両断によって、あっさり切り捨てられた。


「馬鹿ね~。そもそも知名度の高い高ランクや、実績のあるベテランならともかく、まだ無名の新人―― しかも、華も実力も実績もないモブの宙哉に、指名依頼が来ること自体おかしいのよ」


 ”モブ”発言には少し引っかかるが、先輩の分析は大方間違っていないと僕も思う。だからこそ、怪しいと警戒しているのだ。


「ファエラの、そういう人を疑わないところは、聖職者としては美徳だけど、少しは世の中を疑うようにしなさい」


 そんなノエミ先輩の指摘に、「はい。ご忠告ありがとうございます」と答える司祭様。


 先輩の意見は正しい。


 ――けれど、正直なところ、僕は高額報酬の誘惑に抗えず、迷っていた。

 十万あれば、シィシィに高額布施チャをして、六冥交(りくめいまじる)先生ともう一つ新刊を買ってもお釣りがくる。


 そして、何より――


(ユーサーにモニターのお礼ができる……)


 この誘惑は、今の僕にはあまりに抗いがたかった。


 僕が悩んでいると、朝の10時を告げる教会の鐘の音が、ゆっくりと周囲に響き始めた。


「もう10時―― って、アレ? まだ、9時57分じゃない」


 教会内の側壁に設置されている、アンティーク調の時計を見た先輩が、疑問の声をあげる。


「確かに、9時57分ですね」


 僕も携帯で、時間確認をしたので間違いない。


「ちょっと~、ファエラ~。鐘の時間設定をちゃんとしなさいよ~。近隣の信徒さんに迷惑でしょう~? 仕事への意識がたるんでんじゃない~?」


「アナタが言うな!!」


 僕と司祭様は、同時に刹那で突っ込む。

 そんなノエミ先輩は「何よ、ふたりして……」とブツブツ呟いているが、鐘の音にかき消されてよく聞き取れなかったが、問題ないだろう。


 そして、鐘の音が静まると、先輩は話を続けた。


「とはいえ、教会が運営する協会からの公式メールである以上、虚偽や詐欺の可能性は低いと思うけどね」


「そうですよ! 依頼の正式受領は報酬が協会に支払われてからですし、依頼自体も協会の窓口に直接来てするしかありません。つまり、怪しい人物ならそこで弾かれるはずです」


「それに、アンタが毎日真面目に鍛錬している姿を見て、感銘を受けた“足長おじさん”的な人かもしれないしね~」


「きっと、毎日頑張っている榎森くんへの―― 《《主(神様)から》》のご褒美ですよ!」


 先ほどとは打って変わり、二人は肯定的意見をしてくる。まるで、迷う僕の背中を押すように…… そして――


(主は、ちゃんと僕の努力を見ていてくれた……)


 その思いに、僕はとても嬉しくなる。そうなれば、結論はひとつだ!


「今から、この依頼をこなしてきます!」


 そもそも装備を整えてきた時点で、僕の心は決まっていたのかもしれない。あとは、信頼する先輩に、こうして背中を押してほしかっただけなのだろう。


「そうね。今は十時。魔界門から近いとはいえ、登山と採取の時間を考えると急いだほうがいいわ。魔界門から近いとは言え登山と採取の時間を考えたら、急いだほうがいいわね」


「比較的安全とは言え、危険な場所には変わりないので、気を付けてくださいね」


「はい、わかりました」


 僕は笑顔で返事をすると、転送魔法陣が設置されている部屋の入口へと向かう。すると――


「待ちなさい! 心配だから、私も一緒に行くわ」


 そう言って、先輩も後ろからついてきた。


「いいんですか?」

「いいわよ。そのかわり、終わったら一杯奢りなさいよ♪」


(……まだ飲むつもりなのか)


 内心で少し呆れつつ、先輩という頼もしい仲間の存在に、僕は素直に感謝する。


「ありがとうございます!」


 こうして、僕は先輩と共に相馬山を目指すことになった。


 #####


 次回! 今度こそ必ず絶対に剣と魔法でます!!

 お楽しみに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ