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1 宙哉とゲーマー後輩

 1 宙哉とゲーマー後輩



 異世界【バシレイア】


 神の祝福と魔王の脅威が交差する世界――


 魔法が存在し神の奇跡と科学が融合する世界――


 唯一神を信仰する【ハギオス教教会】が、世界の信仰と秩序を司り、人類社会を運営する世界――


 魔王率いる魔のモノに支配された魔界と【魔界門】で繋がり、常にその侵攻の危険に晒されている世界――


 その魔のモノと命を懸けて戦う【聖徒戦士】たちがいる世界――


 それがこの物語の《《主人公の一人》》、榎森宙哉(えのもりちゅうや)(17)が転生した世界――


 #####


「ねぇ、ヲタセンパイ…。もう一回シよ?」


 そうベッドの上から甘えた声で誘ってきたのは、“セリア・ハーパー”(17)。


 彼女はベッドの上でうつ伏せになり、ふわりと揺れる薄茶色の髪をかき上げながら、緑の瞳で僕をじっと見上げている。その華奢な身体が動くたび、彼女の白い肌が目につき、彼女いない歴=年齢の僕には刺激が少し強い。


「さっきまで、あんなにしたんだから、もういいだろう?」


 “ヲタセンパイ”こと僕“榎森宙哉(えのもりちゅうや)は、誘いを断りながら魔導携帯電話の画面を操作し、動画視聴アプリを起動する。


「えっー。もう一回シ~た~い~」


 セリアはベッドの上でうつ伏せのまま、その細い手足をまるで駄々をこねる子供のようにバタつかせ不満を口にする。しかし、あと20分で推しの配信が始まるので、可哀想ではあるが相手はしていられない。


「今日はこれ以上できないから、大人しく自分の部屋に帰りなさい」


 嗜めるようにそう告げると、セリアは体を起こしベッドの上で女の子座りに体勢を変えてから、座布団に座り携帯画面を見る僕に抗議してきた。


「酷いセンパイ! アイテムが揃うまで、手伝ってくれるって言ったじゃないですか!?」


「揃うまでとは言ってないぞ? 配信までって言っただけだろ。勝手に話を変えるなよ」


「あれ~? そうだったかな~~?」


 彼女は薄茶色の髪を弄りながら、可愛らしく惚ける。


 セリアは、暇があればゲーム、暇がなくてもゲームの重度のゲーマーなので、恋人がいないどころか友達と遊ぶことも少ない残念美少女である。もったいない。


「というわけで、僕はこれから推しの配信を見るというファンとしての重大な義務があるから、君は自室にさっさとお帰り」


 僕はセリアを突き放すと、推しの配信を大画面で楽しむために親友から貰ったモニターと魔導携帯をケーブルで繋ぐ。


 この魔導携帯は魔導家電製品と呼ばれ、魔導科学の結晶プラス主(神様)からの賜りものである。例えば、魔導携帯は電波もケーブルも要らず、ただ“主の加護”が届く範囲であればどこでも繋がる。


 一方で、部屋の片隅にある冷蔵庫は、電気で動く普通の家電である。


 ……とはいえ、電気の7割以上は、教会秘蔵の神の賜物技術で生み出されているので、科学と奇跡のごった煮みたいな感じだ。


「ヲタ先輩がシシィを推しているのは、どうしてですか? やっぱり、姿が可愛いからですか? それとも素敵な歌声だからですか?」


<シシィ>は愛称で、正式名は<セシリア・クロス>。


 後輩セリアと一文字違いでややこしいけど、これはまあ偶然だ。

 彼女は教会公認のVチューバー。あの天使のような歌声と、圧倒的な歌唱力で、今じゃトップを争うレベルの人気だ。


 初配信のころから応援していた僕としては、ほんと誇らしい。


「それらもそうだけど…… 言ってなかったかな? 彼女を推している一番の理由は、心が折れ深い絶望に支配されていた僕の心を救ってくれたのが、シシィの配信だったからだよ」


「深い絶望って…… やっぱり、天使から人間になったことですか?」


 実は、僕はかつてヲタトロンという天使だったのだ。


 ――見た目は今とさほど変わらない、地味で冴えない黒髪黒目のモブ顔だったけど……。主からは、時々モブトロンと間違われていたけど……。なんか悲しくなってきた……


 当時の僕は、千年前から地獄に収監されている元魔王“ルシファー”を監視する任務に就いていた。


 だが、七年前にそのルシファーの脱獄を許すという、大失態を犯してしまう。

 そして、主に贖罪として天使から十歳の“か弱い人間”となり、この世界で善行を積むように命じられたのだ……。


「いや、僕は元人間で前前世と前世の善行が認められ天使になったから、それが元に戻っただけだし、絶望はしていないよ」


「いや、僕は元人間で、主に善行が認められて天使になったからね。もともと天使だったわけじゃないから、また人間に戻ったところで、それほど絶望は感じてないよ」


 それに、主は「善行を積めば、また天使に戻してやる」と言ってくれている。


 なので、僕は善行を積むため“世界を消滅から救う”を目標に掲げ、それに向けて七年前から努力を続けているのだ。


「セリアこそ天使から人間になって、絶望とかしなかったのか?」


 僕は逆にセリアに質問してみる。彼女も元天使で、僕の後輩だった。名前は<ゲェムシエル>。ゲームばかりして主の命を蔑ろにした罰で、僕の一年後に人間として地上に送られたのだ。


「天界と違って、ゲームばかりしていても主に怒られないし、先輩天使にグチグチ言われることもないし♪」


「僕も、ゲームばかりしている君に、グチグチ言っているつもりなんだけど」

「それはですね…… 先輩に言われても、別に気にならないからですよ♪」


(あれ? もしかして、僕…… セリアに舐められているのかな……)


 セリアは、やっぱり僕のことをちょっと軽く見ている気がする。


 現に今も夏とはいえ、ショートパンツにチューブトップという格好で、男の一人暮らしの部屋に上がり込み、ベッドの上で無防備に寝転んでいる。


 僕のことをまるで警戒していないし、何かあってもヲタ相手なら対処できると考えているのだろう……。


「だって、先輩は優しいからなんだかんだで、私のこと甘やかしてくれるもん♪」


 そう言ってセリアは僕に微笑みかける。どうやら、僕は彼女からそれなりに信頼はされているらしい。


(信頼… なのか? まあ、いいか……)


 少なくとも舐められているわけじゃないみたいだし…… まあ、それならいいとしておこう。


「じゃあ、人間になったことじゃないなら、絶望の原因は例の【ギフト】ですか……?」


 ――【ギフト】

 それはこの世界で人間が十歳になると、主から授かる特別な能力。与えられる能力はさまざまで、多くの者がギフトの能力を活かせる職業や道に進む。職業に適したギフトを持つ者に比べて、そうでない者は能力が劣るためだ。


 僕やセリアが十歳の姿でこの世界にやってきたのも、このギフトを授かるためなのだろう。


 そして、僕が授かったギフトは【RKSWF】――

 ”Recovery Katana Skill Weak Force”の略。


 能力は、「刀に弱い回復スキルを付与する力」だ。

 これは、刀を持っていると魔力を消費して弱い回復魔法が使える能力で、一見有用そうな能力に見える。


 だが実際には、自分にしか使えず、回復量も初級回復魔法にすら劣る。しかも、刀を手にしていないと発動すらしない。


 習得しなければならない回復魔法はともかく、この能力は薬品で代用できてしまう。

 回復薬代を節約できるという意味では便利だが、“当たり”とは言いがたい。


 ましてや、“世界の消滅を防ぐ”という僕の目標を果たすには、明らかに力不足だ。


「セリアのような”戦闘技術習得補正タイプ”だったら、良かったんだけど……」


 セリアのギフト名は【MCGSC】、Magic Capable Gun Sniper controlの略らしいが、僕の【RKSWF】と同じく、頭文字をつなげただけで、単語の順番はあまり意味がない。


 しかし、”魔法銃による有能なスナイパー能力”という優秀な能力で、僕のよりはずっと“当たり“と言える。


 同じような変な名前のギフトなのに、ここまで能力に差があるのは……やっぱり、罪の重さの違いなんだろう。


 罪が重い僕のほうが、与えられる試練もそれだけ厳しくなるのは当然と言える。


「私たちのギフト名がおかしいのは、やはり主の意図によるものなのでしょうか? 通常のギフト名は、【〇〇強化】とか【〇〇スキル習得補正】、【剣聖】といったシンプルなものなのに……」


「たぶんそうだろうな……」


 僕は配信準備中と表示された携帯の画面を見つめながら、僕はそう答えた。


 そのとき、ふと一つの記憶が脳裏をよぎる。それを言おうとした瞬間、偶然にもセリアが同じことを口にした。


「でも、この頭文字を見た時、何か連想しそうになったんですよね~。まあ、結局思い出せなかったんですけど……」


「うん、僕も何かに繋がりそうな気がしたけど…… やっぱり思い出せなかったよ」


 思い出せない以上、この話を続けても意味はない。僕はそれだけ言うと、モニターに視線を戻した。配信までの時間を確認するためだ。


 時間を確認した後、僕はセリアに視線を戻し、ギフトに対する自分の気持ちを口にした。


「まあ、これも主がお与えになった試練だと思っているから、絶望はしていないよ。正直がっかりはしたけど、悲観せず試練に挑むつもりだよ」


「先輩は、鍛錬を欠かさず努力を重ねているから、必ずや成し遂げられると思いますよ」


「ありがとう。セリアもゲームばかりしないで、天界に帰るために鍛錬――」


「じゃ、じゃあ! 先輩の絶望って、けっきょく何だったんですか!?」


 セリアは僕の言葉を遮って、勢いよく問いかけてきた。

 どうやら、鍛錬の話題から逃げたかったらしい。困ったヤツである。


 当時は、口にするのも嫌な出来事だった――

 だが、今なら…… シィシィに出会った今なら、苦い思い出として話せる気がした。


 僕は重い口をゆっくり開き、絶望となった過去の出来事を語り始める。


「あれは、この世界に来て二年が経った十二歳の時……」


 僕が盛り上げるために少し間を取ると、セリアはゴクリと固唾を飲み前のめりになって、次の言葉を待つ。


「当時、推していたVチューバー“シオにゃん”に恋人がいることが発覚して、脳が破壊された僕は、深い絶望に――」


「センパイ、お疲れでした~~。おやすみなさい~~」


 セリアは無の表情で僕に労いの言葉をかけると、部屋から出て隣の自室に戻っていった。


(あ、あれ? なんで?)


 予想では「えぇ!? NTRに脳が破壊されて絶望したんですか!?」とか驚いて、何か慰めの言葉を掛けてくると思ったのに……。予想外の反応に僕は少し戸惑う。


(あっ、配信が始まる!)


 ――が、シィシィの配信が始まるとそんなことはすぐに忘れて、僕は今夜も限界オタクと化すのであった……。



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