第二章 異世界との初接触
未知の王国であるエルファリア王国と日本が接触し、条約を締結すると言った感じです。
エルファリア王国――豊かな緑と小高い丘に囲まれた小さな王国。
その王国の中心にそびえる白い城を、日本の偵察機が初めて捉えたとき、防衛省の司令室には一瞬の静寂が訪れた。
「……あれは、どう見ても中世ヨーロッパの城だな」
偵察機から送られてきた映像を見た防衛官僚たちは驚きを隠せなかった。
農地、村、そして城。
その配置は、異世界の文明が地球よりも遅れていることを示唆していた。
しかし、映像にはもうひとつ、彼らの目を釘付けにする要素があった。
「田畑だ。しかも整備されている。あれだけの規模なら、相当な食糧生産力があるはずだ」
その情報は、日本政府にとって重要な意味を持っていた。
突然の転移により、国内の備蓄に限界があることは明白だったからだ。
都市部ではスーパーやコンビニの棚がすでに空になり始めており、早急に新たな食糧供給の手段を確立する必要があった。
翌日、外務省の交渉団が自衛隊のヘリに搭乗し、エルファリア王国へと向かった。
小国でありながら美しく整った農地が広がる光景は、ヘリから見ても印象的だった。
日本側は慎重な接触を試みるべく、白旗を掲げ、武装を控えた状態で王国の入口に降り立った。
彼らを出迎えたのは、腰に剣を携えた衛兵と、一人の壮年の男性だった。
男性は日本語に酷似した言語を話し、簡単な意思疎通が可能だった。
「ようこそ、我らがエルファリアへ。私は宰相ラルフ。陛下に代わり、皆さまをお迎えします」
ラルフの落ち着いた物腰と柔和な表情に、日本側の交渉団は安心感を覚えた。
初対面の異世界の住民にしては、こちらの言語に近い言葉を操れるという奇妙な事実に戸惑いつつも、双方は礼を尽くしながら互いの情報を交換した。
「我々は日本という国から来ました。突然この地に転移してしまい、食糧問題に直面しています。お力をお借りできればと思います」
代表者がそう伝えると、ラルフは穏やかに頷いた。
「この地に根差す『大地の女神』の恩恵を受けた我々には、豊かな収穫が約束されています。皆さまの事情もお察しします。ただ……私たちの国にも問題はあるのです」
ラルフが示したのは、エルファリア王国の脆弱なインフラだった。
彼らは豊富な食糧を生産しているにもかかわらず、運搬や保存の技術が未発達で、効率よく分配することができない状態だったのだ。
加えて、周辺の戦争国家からの脅威もあり、国としての基盤は非常に脆弱だった。
「もし、貴国が我が国の農地や村々に道を整備し、灌漑システムを導入してくださるのなら、我々は食糧を供給する用意があります。双方に利益のある関係を築きたいのです」
その提案に、日本側は即座に動いた。
東京ではすぐに臨時国会が開かれて、国土交通省の技術者や自衛隊の土木部隊が派遣され、王国内に道路網や灌漑設備を整備する計画が進められることになった。
交換条件として、日本は王国から小麦、果物、大豆などの食糧を定期的に輸入する契約を結んだ。
これにより、日本国内の食糧危機は一時的に回避される見込みとなった。
エルファリアの農地を視察した日本側の専門家たちは驚愕していた。
植物の成長速度が異常に速く、収穫された作物は信じられないほどの甘さと風味を持っていた。
さらに、エルファリアの家畜の肉も、これまで味わったことのないほど美味であることが確認された。
「この国は、まさに『食の宝庫』だ」
そう呟いた専門家の言葉に、日本政府の一同はうなずいた。
また、このエルファリア王国との貿易交渉は、他国にも波紋を広げることになる。アメリカや韓国、台湾もエルファリアの存在に興味を示し、日本に対し協力を求めてくる事態が予想された。特にアメリカは、大規模な人口を抱えるがゆえに、食糧の安定供給が急務だった。
一方、エルファリア側も日本の技術力に強い感銘を受けていた。村々に敷設された舗装道路や、灌漑システムの完成は、彼らの生活水準を飛躍的に向上させたからだ。その結果、エルファリア王国は日本に対して大きな信頼を寄せるようになり、さらなる協力体制が整いつつあった。
最終的に日本とエルファリア王国は友好条約を締結した。
未知の異世界で、日本は最初の協力者を得ることに成功したのである。
しかし、王国の外――侵略国家がひしめく世界で、平和な国がどれほど持ちこたえられるかは、まだ分からなかった。