第十章 新たな秩序
今回は決戦が終わった後に、和平交渉をする話です。
アーク=ゼニス砲が放たれた数日後――。
ネヴァル高原には、焦土と化した戦場の残骸が広がっていた。
敵軍の中枢が消し飛び、ドランザ帝国を中心とする異世界連合軍は壊滅的な被害を受けていた。
その破壊力の余波は、戦場を超えて異世界全土に衝撃を与えていた。
戦闘後、地球側の作戦司令部では、報告を受けて各国の指導者がすぐに緊急会議を開いていた。
「我々は勝利を収めた。しかし、その力がもたらした影響は計り知れない。今後の異世界との関係をどう築いていくかが最大の課題だ」
日本の総理大臣は、慎重に言葉を選びながら発言した。
「連合軍を撃退したことで、地球側が異世界における圧倒的な優位を確立したのは事実です。しかし、同時に我々は異世界の諸国家に『制御不能な脅威』と見なされる可能性も否めません」
外務大臣が冷静に発言した。
「異世界側がこの力に恐れを抱くだけなら良いが、報復を試みる可能性も否定できない。我々は、ただ勝利するだけではなく、この力を平和的に使う姿勢を見せなければならない」
アメリカの大統領も同意を示した。
「では、まず和平の提案を送るべきだ。特にアークザル王国やガラン神聖連邦のような国々は、戦争継続の意思を失っている。彼らと協力関係を築くことで、我々の立場を強化し、確固たる物にできるだろう」
和平交渉が始まったのは、戦後数週間が経過した頃だった。
交渉の場となったのは、エルファリア王国の首都にある大広間。
地球側連合と異世界諸国の代表者たちが一堂に会し、新たな秩序の形成を目指して話し合いを進めていた。
「あの力を目の当たりにした我々は、もう貴方達と争う意思はない。我々はこの世界に新たな平和をもたらす道を模索したい」
アークザル王国の代表は、地球側への協力を申し出た。
「同感だ。地球側の知識と力は、我々がこれまでに見たことのないものだ。もしそれが我々の発展に寄与するものであるならば、我々も歩み寄りを検討したい」
ガラン神聖連邦の代表も同意を示した。
その場にいたドランザ帝国の代表は、明らかに険しい表情を浮かべながら口を開いた。
「我らは……お前達が持つ力の前に、屈するしかなかった。その事実は認めよう。しかし、我々が和平に応じるということは、お前達がこの地に根を下ろし支配することを許す意味ではない」
その言葉に一瞬、大広間の空気が凍りついた。だが、日本の外務大臣が穏やかな口調で答える。
「我々の目的は支配ではありません。この異世界で平和を実現し、互いに協力することです。そのためには、あなた方の協力が不可欠なのです」
「………協力、か」
彼は一瞬の沈黙の後にそう呟き、しばらく考え込むような仕草を見せたが、やがて低く呟いた。
「わかった。だが、もしお前たちがその言葉を裏切れば、我々は再び戦う。だが……今は和平を受け入れる以外に選択肢はないだろう」
こうして、和平交渉は険しい道のりを辿りながらも、一定の合意に達した。
そして最終的に異世界諸国との間に新たな条約が結ばれることになった。
その条約は、互いの領土を尊重し、この惨劇を後世に伝えていくと共に、数多くの無実の命が失われた、傷ましい戦争を絶対に繰り返さないと誓う内容だった。
しかし、ドランザ帝国の残党勢力がゲリラ化し、報復を狙っているという情報も入っていた。
「彼らはゼニス砲の力に恐怖しつつも、その力を逆手に取り、地球側を脅威として異世界を煽動する可能性がある」
自衛隊の情報部は、そう警告を発していた。
地球側はこれに対処するため、エルファリア王国を拠点に諜報活動を強化し、残党勢力の動きを監視する方針を決定した。
一方で、戦争による傷跡は深く残っていた。
カルデラ平原やネヴァル高原には、いまだ戦いの残骸が散乱し、多くの難民が家を失いさまよっていた。
日本政府は、エルファリア王国を中心とした復興支援計画を打ち出し、異世界の人々に対して医療支援やインフラ整備を提供することを決定した。
また、地球側の技術を活用して、農業の効率化や産業の発展を促進するプロジェクトも進行中だった。
「これが地球の力か……これほどの技術があれば、我々の国も新たな時代を迎えられるかもしれない」
エルファリアの若き王は、日本の復興支援部隊を見ながらそう呟いた。
そして戦場で生き残った敵連合軍の残存兵の一人は、後にこう語る。
「あの兵器の威力を目の当たりにした瞬間、俺はこう思った……これは神の裁きそのものだ、とな。」
彼は仲間たちが一瞬で消し飛ぶ光景を思い出しながら、続けた。
「俺たちがあいつらに刃向かう事は絶対に無理だ。それはこの戦で身を持って体験した。しかし………あんな強大な力を持つ奴らが、この世界を支配するようになれば、俺らの未来はどうなるんだ……?」
そして地球側にとっても、アーク=ゼニス砲はただの兵器ではなく、「平和をどう実現するか」を問いかける存在でもあった。
和平会議が終わった夜、エルファリア王国の王城では、盛大な祝賀会が開かれていた。
「我々の世界に、これほど大きな力を持った友人が現れるとは夢にも思いませんでした」
エルファリア王は日本の代表団に感謝を述べながら、未来への期待を語った。
会場には、地球側と異世界の代表者たちが集まり、互いに手を取り合い、共に新たな時代を築こうと誓い合っていた。
異世界に転移してから数ヶ月――日本、アメリカ、韓国、北朝鮮、台湾、極東ロシアの地球側は、この世界での第一歩を確かなものとした。
しかし、この世界での物語は、まだ始まったばかりだった。
そして、夜空に浮かぶ二つの月が、静かに異世界と地球の未来を見守るように輝いていた――。
はい、どうでしたでしょうか。
第八章のあたりで言った通り、このシリーズはこれにて一旦終了とさせていただきます。
そしてこのシリーズが好評でしたら、また番外編や続編といった物を書いていこうと思います。
いろいろとハプニングがありましたがここまで読んで頂き、ありがとうございました。
また次回のシリーズも楽しみにしていてください。
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それではまた次回のシリーズでお会いしましょう。
Good bye.




