第八十一話 妖精達はお仕舞い
――『虚構の国の女王』。残りの持続時間は一分弱。しかし地球に残存している妖精達を駆除するには、充分な時間であった。
世界規模で発生した、異形の使い魔による襲撃に脅威を覚えた妖精達は我先にと支部の奥に隠れていた。戦闘の一切を契約した魔法少女達に任せて。
彼らの本音としては地球を捨てて、自分達の故郷である『夢幻の国』に帰還したかった。
けれどある時を境にして、『夢幻の国』にいる妖精とは全く連携が取れず、直接確認しに行った妖精は何れも音信不通。
悪手であったとしても、行き場のない妖精は地球では一番防備が整った『連盟』の施設の奥に引きこもることしか選びようがなかった。
「――それじゃあ、最後のお掃除を済ませないとね」
世界各地の『連盟』関係の施設に派遣した使い魔達の感覚を通して、ほぼ全ての魔法少女の無力化が完了したことを察したアリスは、使い魔達に次なる命令を下した。
――妖精を一体も残らず殲滅するようにと。
ある所ではトランプ兵の剣や槍の餌食になり、またある所では卵人間に無造作に体を解体されたりと、今までの悪行が嘘のように妖精達は碌な抵抗もできずに、その数を減らしていった。
そしてそれほどの時間をかけずに、地球に残っていた妖精が全滅したことを理解した。それは同時に、黒兎が唯一の妖精の生き残りになり、アリスは彼の同族を手にかけたことで罪悪感を抱いてしまう。
「そろそろ時間も限界か。黒兎。転移魔法であの隠れ家まで送ってくれる?」
「……了解したんだな」
アリスと黒兎はお互いの心情をできる限り隠して、なるべく何事もないかのようにやり取りを交わす。
アリスは黒兎の心を慮って、黒兎はアリスに余計な気を遣わせないようにと。
二人は最低限の会話以外はないまま、転移魔法によって形成された『門』に姿を消していった。
■
『魔女』アリスによる大規模な『連盟』を襲撃事件。それが残した爪痕はとても大きかった。
『連盟』が把握していた妖精は全滅してしまい、所属していた魔法少女は変身が二度と不可能な状態に陥ってしまった。
人的被害が、魔法少女達や職員達の軽い外傷のみですんだことが幸いであったが。
通常兵器ではどうにもならない魔獣の対処が問題視されてしまう。
けれど、それらが出現するとどこからともなくトランプ兵が出現して、数の暴力で倒していく。
トランプ兵という使い魔から、『魔女』アリスが裏にいることはすぐに判明した。
しかし彼女自身がどのような動機を抱えて一連の凶行に走り、魔獣を倒して回っているのかは一切不明であった。
『連盟』の勢力が一気に弱体化した今を狙い暴れようとした『魔女』も人知れずアリスに倒されていき、現代社会は大きな混乱を抱えながらも、少しずつ傷を癒やして立ち直りつつあった。
――妖精や魔法少女が必要なくなる平和な時代へと、徐々に移り変わりつつあった。
■
どこかの街を模した異空間にて、その日の『魔女』狩りを終えた、アリスは変身を解くことなく休憩をしている。
『連盟』を壊滅状態まで追い込んだアリスは、自分で発生させてしまった不安要素を一つずつ減らすのに躍起になっている。
アリスの協力者は黒兎のみで、その黒兎との会話も最低限のものしかなく、灰色の日々を送っていた。
そして危険な『魔女』も概ね倒し、マッド・ハッターの記憶操作にて無害化したアリスは、自分が最後にやらなければならないことに取り掛かろうとした。
「黒兎。転移魔法をお願いできる? ――クレアがいる場所にまで」
地球に魔獣が発生する原因である、異世界からの来訪者――クレア。正気を失い、狂ってしまった少女を解放する為に、アリスは行動を開始した。
――物語は最終局面に向かいつつある。残りの頁は後僅か。




