第七十六話 『連盟』壊滅①
『夢幻の国』にハンプティ・ダンプティの固有能力『自己増殖』で増やした個体を大量に放っておく。こうすることで異変を察知した妖精が帰還しようとも、外部に情報を漏らされることなく処理が可能になるからだ。
大地を覆い尽くす程に蠢く卵人間の不快さに、アリスは未だに慣れていなかった。『虚構の国の女王』を掌握したことで、自動的にアリスの指示に従うようにはなったが、他の使い魔とは違いあの卵男は腹の内で不満を抱えているようだ。
あのマッド・ハッターすら、ハートの女王が解禁されると全面的に協力してくれているというのに。
「よし、じゃあ地球に戻るとしようか」
「……了解なんだな」
アリスはどこか暗い黒兎に、転移魔法を発動してもらうように頼む。黒兎の調子が良くなさそうなのは、アリスも分かっていた。
関わりがどれだけ薄くとも同族が、無惨に蹂躙されていく様子を見るのは流石に堪えたらしい。黒兎が無理をしているのは、誰が見ても明らかであった。
アリスは迷っていた。黒兎は最後まで付き合ってくれると言ってくれたが、アリスの行く先にはこれ以上の犠牲を積み重ねることになるだろう。
かつての主人を助ける為に泥を啜り、『契約者殺し』の汚名を着せられながらも、契約してきた少女達の存在を隠そうと努力してきた。
そんな彼にクレアの命を奪う瞬間を間近で見せることは、本当に正しいのだろうか。しかし黒兎の手を借りなければ、アリスがクレアが現在いる場所には行くことはできない。
法外な力を誇る『虚構の国の女王』であったとしても、次元の壁を無視して移動することはかなわない。
後一つだけ。アリスがクレアの元に、魔獣の発生源を絶つ前にしなければならないことは、その一つを残すのみ。
本拠地であった『夢幻の国』は完全に潰した。地球に残存する妖精を一体残らず駆逐することであった。
すなわち、中断していた『連盟』の支部への襲撃を再開することを意味していた。しかも今までのように、ご丁寧に一つずつ襲うことはしない。アリスは一気にけりをつけるつもりであった。黒兎の為にも。
■
――日本時刻において午後の十時を回った頃。地球規模でとある異変が確認された。空の色彩が狂ったものに変化する。
人間や地球にいる妖精は知る由もないが、その変貌ぶりは『夢幻の国』で起きたものと同様であった。
更に異変は続いていく。世界各地に点在する『連盟』の支部を包囲するように、無数のトランプ兵や卵人間が出現した。
――『虚構の国の女王』の最大展開である。持続可能時間は限界まで絞ったとしても、十分間程度のものである。
今までは不用意に使用すれば、取りこぼした妖精から『夢幻の国』に増援を呼ばれると、魔力切れになってしまった瞬間を狙われるリスクがあった為に、取れない手段であった。
しかしその『夢幻の国』は滅びた。そのリスクを考慮することなく、アリスは全力で行使することができる。
各地の『連盟』の支部は、突然の事態に混乱しながらも、すぐにトランプ兵や卵人間を排除する為に動き始めた。
ほとんどの支部は、トランプ兵や卵人間の数の暴力だけ押し切ることが可能ではあるが、一部はそうではない。
『魔法少女ランキング』で上位に位置する魔法少女が常駐するする支部や、『連盟』の本部だけは『虚構の国の女王』の展開時間である十分間を凌がれる可能性がある。
そういう場所には、他の使い魔を派遣することで、確実に打倒がかなうように手を回していた。
妖精を全滅させるつもりで決行している以上、マッド・ハッターによる契約が不可能になる小細工をする必要はない。
アリスは黒兎の転移魔法の補助を受けて、ジャバウォックを率い自ら『連盟』の支部を一つでも多く襲撃していた。
――『虚構の国の女王』が展開されてから、一分三十秒が経過。その時点で、世界に存在する『連盟』関係の施設は四分の一が機能不全に陥っていた。




