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第七十四話 『夢幻の国』が滅ぶまで①

 ――地球にいる妖精達が、無意味な会議に耽るよりも数日前。



「ここが妖精達が住む世界か……」

「ああ、そうなんだな。吾輩とビルも元々はここで暮らしていたが馴染めずに、他の世界を訪れた時にクレアに出会ったんだな」



 アリスは人間が平和な未来を歩む為に障害になるだろうと、妖精という種族を滅ぼす判断を下した。

 元住人であった黒兎の転移魔法により、妖精達が住まう異世界――『夢幻の国』に到着した。



「失礼だけど、変な気分になりそうなんだけど……」

「それは魔力酔いなんだな。この世界は地球と違って、魔力濃度がとても高い。いくらアリスでも魔力酔いをしてしまうのも、仕方がないんだな」



 転移直後に発生した軽い頭痛に目眩がアリスを襲う。それに耐えながら、黒兎にある質問をする。



「それで本当にいいの? 一応は仲間のはずだけど、売るような真似をして? 僕が訊くのもおかしい気がするけど」

「……大丈夫なんだな。そういう葛藤は随分と昔に乗り越えたんだな。今は付き合いの短い妖精よりも、クレアやアリスの為に吾輩の力を使いたい。そう思ってるんだな」

「ありがとうね、黒兎」



 黒兎の覚悟に満ちた言葉に、礼を返すアリス。そんなやり取りをする二人は、現在『夢幻の国』の端っこに位置する草原にいた。

 二人の目の前には地平線が見える程の草原は、太陽――に似た何かの光を受けて、淡く光っている。



 幻想的で綺麗な光景であり、他にはどういう絶景があるのかを黒兎に尋ねるアリス。しかしその答えは無情なものであった。

 この世界全体がこのような風景で、所々に妖精達の家らしき物が立ち並ぶ程度の差異しかないようだ。

 アリスは肩透かしを喰らった気分になる。ここ最近は日本各地に存在する『連盟』の支部を端から襲撃を行うばかりで、疲労が溜まっているのだ。



 アリスは既に二十という数の支部を襲っている。最後の使い魔であるハートの女王が解禁されたことにより、魔法『虚構の国の女王』は一つ上の段階に強化されていた。

 異常な程の強さを発揮するようになったトランプ兵は、元から有していた数を武器にこれまでの支部襲撃を有利に進めることができていた。

 他の使い魔はある用途以外には一切運用していない。その用途というのは、ジャバウォックに妖精を食べさせたり、魔法少女にはマッド・ハッターの魔法で魔力そのものを認識できないようにして、契約が二度と不可能な状態になる措置を取っていた。



「■■■■……」

「ジャバウォック。まだまだ食事の時間には早いよ。もう少しだけ待っててね」



 足元にある影から聞こえる食事を催促する鳴き声に、アリスは諭すように優しく言う。その言葉に若干の不満の色を見せつつも、ジャバウォックは了承の意を含んだ返事をした。



 今回アリスが『夢幻の国』に来た理由は、妖精達を根本的に駆除する為である。『連盟』の支部を叩いて回っている最中に、黒兎から妖精の増援はここから送られてくると聞いて、急遽目標を変更したのだ。

 確かに地球にいる妖精や魔法少女の数を減らしていっても、いたちごっこに過ぎずありがたい提案であった。

 しかしいくら同族意識は薄いとは言っても、『夢幻の国』を直接襲う選択肢が黒兎から出てくることに、アリスは驚いたものだ。

 黒兎とアリスの先ほどの問答には、最終確認の意味も含まれていた。



「今回は範囲も広いし、もしも地球やまた別の世界に逃げられると厄介だから、初めから全力で行くよ。力を貸してね、女王様?」

「だから、女王様って呼ぶの止めてほしいんだけど……。はあ、了解したよ。お兄ちゃん」



 アリスの言葉に答えるように、影から彼そっくりの容姿をした少女が現れる。そして『虚構の国の女王』の中で一番凶悪な魔法が行使される。



「――『虚構の国の女王・ハートの女王』」



 ――『夢幻の国』の滅亡を告げる、ラッパの音が鳴り響く。

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