第七十二話 襲撃犯
「はあ……」
「ん? どうかしたの? アクア」
「フレイムとダイヤモンド・ダストですか。今度は近隣の『連盟』の支部が襲撃を受けましてね……」
「そうなんだ。もしかしたら、次はこの支部が目標かもしれない」
「……ダイヤモンド・ダスト。貴女が真顔で言うと冗談には聞こえませんので」
とある『連盟』の支部。内部には、各魔法少女に部屋が用意されている区画がある。その一室にいるのは青色のドレス姿の少女――アクアであった。
部屋の主である彼女が一人でため息を吐いていると、新たに二人の訪問者が現れる。
燃えるような赤色のドレスを着た少女――フレイムと、白色のドレスを着用した少女――ダイヤモンド・ダストの二人だ。
彼女達はこの支部でトップチームになる。しかし元からこのメンバーで組んでいた訳ではない。元々はアクアとフレイムが、お互いの魔法の相性を考慮されてコンビは組んでいた。
だが、ここ数ヶ月で『何故か』全く別の地域が活動拠点であるダイヤモンド・ダストが彼女達二人のチームに合流して、以後この支部で一番の魔獣討伐数を誇っている。
そんな三人組のチームで、リーダーを任せられるようになったのはアクア。他の二人は時折抜けている場面が見られるので、普段からしっかり者で通っているアクアが自然とリーダーになっていた。
癖の強いメンバーをまとめるのに頭を痛めているアクアは、現在全く別の案件で悩み自身の契約妖精であるウンディーネに相談していた。最もその問題はアクア一人でどうこうできるものではない為、悩みは依然解消されていなかったが。
「――全国の『連盟』の襲撃事件。規模が大きすぎて、私一人が悩んでも仕方がないとは分かっているんですが……」
この数日間で、日本全国に配置されている『連盟』の支部は何者かに襲撃を受けていた。しかも同時に複数の支部を――である。
それを何回も許しており、『連盟』は面子にかけて襲撃犯を捕らえようと懸命に調査・活動しているが、あまり成果は出ていなかった。
「でも、その襲撃犯――『魔女』も凄いよね。目撃情報が正しかったら、単独犯なんでしょう?」
『連盟』を襲っているのは、一人の『魔女』であった。目撃情報によると、その『魔女』の容姿は小学生高学年程度の少女。大衆がとある童話の主人公に抱くイメージを、多少改変したような黒い服装。
契約している思われる妖精は、黒色の兎であった。
使い魔を大量に使役するタイプの魔法で、ほぼ同時の襲撃を可能にしていた。巨大なのでトランプに人の手足が生えたその使い魔は、多種多様な武器を装備しており、数の多さに『連盟』側は圧倒されていた。
トランプの使い魔――トランプ兵と命名された――の危険性はそれだけではない。一体一体の強さが『討伐難易度』B程度の魔獣と同等であり、損傷が中途半端であると完璧に修復してしまう程の再生能力を有していた。
また、その『魔女』に襲撃された支部にいた妖精は一体も姿を残していなかった。その妖精と契約してしていた魔法少女達と、職員には軽い怪我ぐらいしか確認できなかったようだ。
行方不明となった妖精達は未だに見つかっておらず、その上『魔女』の動機も判明していない。
その『魔女』の凶行を止める為に、『魔法少女ランキング』で十以内に入る魔法少女――ダイヤモンド・ダストは十位前後――が既に三人が戦闘を行っているのだが、その誰もが敗北を喫していた。
『連盟』は、その一連の襲撃事件の主犯である『魔女』を服装から連想できる『アリス』と命名をして、全国の支部に厳重な警戒態勢を取るように指示を出している。
魔法少女には学生が多い為、国からの措置で、学校を休むことを推奨されるようになるまでの事態になる始末だ。
しかしそんな『連盟』側を嘲笑うかのように、『魔女』アリスは順調に襲撃を繰り返していた。
「――大丈夫。もしもここに来ても、私が倒すから」
「……その時は頼りにしてますよ。私達の中では一番強いんですから」
「なら、私も頑張れるぞ!」
いつ訪れるか不明な襲撃に備えて、三人は気の抜けない生活を余儀なくされることになった。




