表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/92

第六十三話 悪魔との契約

「――それで本当に、『聖女』って子が救われると本気で思ってるの?」



 悦に入りながら語るビルに、理解できないといった態度を隠そうとしない悟。これだけ思われているような少女だ。さぞかし立派な人格者であったのだろう。それこそ世界を救う為に、その身を差し出すくらいには。

 自身が同じ立場であったならば、同様の選択肢を躊躇なく取れるかどうかと言えば、間違いなく無理であるに違いない。そう考える悟。



 悟は黒兎から以前聞いた話を思い返す。『聖女』はここと違う世界を救う為に全ての魔獣を己の肉体に封じた状態で、次元の狭間にその身を放り投げた。長い、永い時間の果てに。『聖女』の正気は失われて、たどり着いた世界――地球にて自分の肉体に封印していた魔獣を解き放つ厄災に成り果ててしまう。



 『聖女』である彼女がそう呼ばれる前から。ビルの言うことが事実であれば、黒兎とビルは『聖女』に仕えていたらしい。どのような過去が、経緯があったのかは、完全な部外者である悟には分からない。

 しかし唯一理解できることがある。彼らは方向性は真逆でも、大切な人間を救う為に一生懸命になっていた。それだけなのだ。



 黒兎は『聖女』の命を奪うことで、正気を失った彼女の凶行を止める為に奔走していた。他の妖精から『契約者殺し』と呼ばれることも厭わずに。

 一方のビルは『聖女』自身が望んでいようといまいと、『エネルギー』を集める為に利用されている彼女を復活させようと行動していた。幾人もの魔法少女や『魔女』の犠牲を積み上げたとしても。



「彼女がそんなことを思うはずがないでしょう。それは私自身が重々承知しています。だが、それでも……! もう我慢ならないのです……!」



 それまでは終始、悟だけではなく黒兎やメフィストを含む全てを見下すような態度からは想像できない程の激情を滲ませながら、ビルは言葉を続けた。



「あれだけ身を粉にして尽くしてきた『彼女』が報われない……! 挙げ句の果てには、己の利益しか考えていない妖精共に『エネルギー』の供給源の一つとしか見なされない。この救いようのない『彼女』を解放する為であれば、この身が悪魔になることも安いものでしたよっ!」



 最後までそう言い切ったビルは深く息を吐き、改めて悟に問いを投げる。



「――これが私の願い。その根底にある理由になります。その事実を踏まえて、もう一度黒アリスさんに聞きます。黒兎ではなく、私の手を取ってくれませんか?」



 ビルから出された提案は、文字通り悪魔の手を取るということだ。悟にとっては契約相手が異なるだけで、魔法の行使には支障はないだろう。

 それだけではなく、今まで散々地球を『エネルギー』の採掘場としてきた妖精達に一泡吹かせられるかもしれない。複数の使い魔を使役できる魔法を上手く利用できれば、他の魔法少女が戦う必要性がなくなり、悟にとっての当初の願いがいち早く実現するかもしれない。



 これまで悟と契約してくれていた黒兎も、終わらない苦しみから解放される。良い事尽くめではないか。そう錯覚してしまうぐらいには、メフィストとの戦闘で疲弊していった悟には魅力的な提案には映っていた。

 それこそ、神の楽園を追放される原因となった禁断の果実を食べるように蛇に唆された、原初の人間であるアダムとイブのように。



 ビルは何も言わずに、悟の返答を待っていた。己にとって都合のいい判断をしてくれると確信して。

 そんなビルに対して、悟は――。



「――僕は君と契約するつもりはないよ。君の都合のいい操り人形になるつもりもない。他をあたってくれないかな」



 ――当然その提案にのることはなかった。黒兎の命を握られて不利な状況でも、悟は屈することはなく強く言い返す。



「――そうですか。断られる可能性も想定はしていましたが、お忘れですか? 私が黒兎の生殺与奪の権を握っているのを。月並みの言葉ですが、黒兎の命が惜しければ――と言いたいですけれど、私は貴女程の逸材はいないと思っています。自分の意思で協力をしてほしいと考えているのですよ。何か良い考えは――」



 うんうんと唸るビルから視線を外すことなく、悟は急いで思考を巡らしていた。いっちょ前に言い返したが、依然として魔法は使えず悟の手足は封じられているも同然。

 取れる選択肢は、異変に気がついた『連盟』から魔法少女が派遣されるのを信じるしかない。



 悟は少しだけでもつけ入る隙がないか、油断なく警戒の視線を向けていた。そんな悟は問題ないという様子で、ビルは妙案を思いついたと言わんばかりに喜色に満ちた声を上げる。



「――そうです! 黒アリスさんにも『彼女』の素晴らしさを直接見てもらえばいいのですよ!」

「――は?」



 突然のビルの発言内容を処理できずに、思考が止まる悟。ビルは悟の一切の権利、意思を無視して、一つの魔法を行使した。



「――実際に『彼女』を見て触れあえば、きっと頑固な貴女でも協力を申し出てくれるでしょう。良い返事を期待してますよ、黒アリスさん」



 その言葉を最後に、悟の意識は強制的に断然された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ