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第六話 新たな魔法少女達①

「ん……有栖川君?」



 校舎裏から一目散に恵梨香の方に向けて駆けていく悟。

 突然現れた幼馴染の姿に驚きつつも、手を貸してくれた女性教員に断りを入れて、彼に向き直った。



「佐々木さん……大丈夫だった!?」

「私は怪我がなかったけど……有栖川君の方こそ何もなかったの?」

「僕は全然問題ないよ……。佐々木さんが無事でよかったぁ……」



 悟は心の底から安堵の息を吐く。そんな悟の様子を、恵梨香は不思議そうに見つめた。

 少し大袈裟ではないかと。魔獣に襲われる直前ではあったものの、こうしてかすり傷一つなかったのだ。



 恵梨香の中では魔獣への恐怖よりも、自分を救ってくれた魔法少女に対する興奮が勝っていた。

 その感情を共有したいという思いで、恵梨香は話し始めてしまった。



「私ね……さっき魔法少女に助けてもらったの」

「あっ! ……その魔法少女ってどんな見た目だったの?」

「えーとね……」



 声を震わせながら、尋ねる悟。その違和感に気づくことなく、嬉々として件の魔法少女の活躍ぶりについて、恵梨香の話は続いた。

 それから悟は数分間、女装した自分――正確には変身だが――について、散々可愛いだとか、格好良かっただとか。

 耳に蛸ができるレベルで聞かされることになってしまった。



 内容の半分以上は羞恥のあまり、記憶には残っていないが、どうやら悟が変身した瞬間を目撃した人間はいなかったようだ。

 魔獣という明確な脅威がすぐ傍にいた為、悟と黒兎の存在を気にしている程、彼らにも余裕がなかったようだ。




 楽しそうに語る恵梨香を見て、ふとした拍子で彼女の先ほどの視線を思い出す。

 自分に向けられた、理解できないものを見るような視線。

 しかし恵梨香との会話で、それが杞憂であったことを悟った。



 不快な物を見たといった風ではなく、間近で憧れのヒーローを見たかのような反応だ。

 一切気にした様子がなく、件の魔法少女についての話題が止みそうにない。



「あの魔法少女、私見たことないんだよね。日課でまとめサイトとか巡回してるんだけど……新人さんかな? 小さかったし――あ、ごめんね……。魔法少女の話、有栖川君が苦手なのに、長々と話しちゃって……」

「ううん、気にしてないよ」



 どうやら恵梨香に余計な気を遣わせてしまったようだ。

 昔から付き合いのある恵梨香は、当然ながら悟の家の事情は知っていた。妹である久瑠実のことについても。



 先ほどまでとは違って、テンションが下がる恵梨香。

 過去のことを乗り越えた。とは口が避けても言えないが、今回のことを機に向き合っていこうと、悟は改めて決心した。



 今後悟が魔法少女として活動していく上で、立ちはだかる問題について、じっくりと腰を据えて考える必要があるだろう。

 けれどその前に。今は恵梨香の無事である事実を喜んでいいだろうか。



 そんな悟の心中の問いかけは、誰にも伝わることなく、周囲の喧騒に紛れて消えていった。





「――運がいいわね。真っ昼間の学校に魔獣が出現したのに、怪我人も生徒一人だけとはね」

「――言葉には気をつけた方がいいですよ。一歩間違えれば、大惨事確定でしたでしょうから」

「はいはい。優等生さんは言うことが違いますねー」



 悟達が通う中学校に魔獣が出現して一時間が経過した後。

 その報せを受けた近隣の『魔法少女連盟』の支部から、二人の魔法少女が派遣された。



 少しでも人的被害を抑える為に駆けつけた彼女達が見た光景は、魔獣による地獄絵図――ではなく、多少の混乱に陥りながらも、ほぼ大半の生徒が無傷であった。




 到着した当初二人の魔法少女――赤いドレスに身を包む少女、魔法少女フレイムと、青色のドレスを着た少女、魔法少女アクア――は困惑した。



 手続き等の関係で到着が遅れてしまい、最悪の可能性を考慮していた。

 けれど蓋を開けてみれば、怪我人も魔獣に直接刺された生徒が一人のみ。

 その一人も、『世界魔法少女連盟』の支部の系列である病院で手当を受けており、完治に一週間もかからないそうだ。



 実質被害はほぼ無いに等しいと言えるだろう。

 それ自体は彼女達も望ましい結果であるのだが、問題はこの場所で魔獣を倒した正体不明の相手だ。



「ねえ、私達より先に指示を受けてここに来た魔法少女はいるの?」



 赤色のドレス姿の魔法少女――フレイムは、自分が契約した妖精に問いを投げかける。

 フレイムの肩には掌サイズの炎が人型を象った『何か』――妖精のサラマンダーがいた。

 腕白な少年のような声で、サラマンダーはフレイムからの問いに答えた。



「いや、いないよ。要請を受けてここに派遣されたのは、君達だけだ」

「と、いうことらしいけど」

「……そうなると、未登録の魔法少女でしょうか」

「なら、情報収集でもする? これだけ人がいるんなら、見た目と魔法ぐらいは分かると思うけど? ――そこの君ー!」

「――待ちなさい! フレイム!」



 アクアの静止の言葉を聞かずに、フレイムは近くにいた生徒から、手当たり次第に話を聞いていく。



 フレイムがこれ以上の問題行動を起こさないようにする為、アクアは小走りで駆けていった。





「『アリス』っぽい見た目ねえ……」

「……」



 何人かの生徒に話を聞いた結果、謎に包まれていた人物像の一部が判明した。



 脱色したかのような白髪に、黒色のエプロンドレス。

 同色である、頭を飾る大きなリボン。

 契約妖精と思われる、黒い兎。



 色合いが原典と異なることだけに目を瞑れば、題名に『不思議』や『鏡』とつく童話の主人公のような格好であった。

 伝え聞く容姿からは、年頃は恐らく小学生程度だろう。

 そのぐらいの年齢で、魔法少女であること自体はさほど珍しくはない。



 しかし、その魔法少女が未登録であることが問題になってくる。

 一個人が持つには大きすぎる力である魔法。しかもそれを使うのが幼い少女であるならば、ほんの些細なことで、力を暴走させてしまう可能性もある。

 そうなれば魔法少女本人だけではなく、周囲の人間にも悲劇に見舞われてしまう。



 そのような事態を避ける為に、各国の政府は魔法少女の所属を促し、保護に力を入れている。



「でも凄いよねー、どのくらいの強さの魔獣か分かんないけど、死体だけ見たら一撃っぽいね」

「……術者の影から飛び出してきた触手のような『腕』。目撃情報から推測するに、限定的な物質創造か使い魔の召喚でしょうか……。何れにせよ、強力な魔法のようですね」



 生徒達からの情報の中には、件の魔法少女の魔法と思われる不可思議な現象のものもあった。



 フレイムとアクアの視線は、一部が盛大に抉られている校庭の地面に横たわる魔獣の死体に注がれていた。

 残っている部位は、魚のような鱗がびっしりと生え揃っている下半身のみ。

 それより上の部分は、目撃情報にもあった紫色の『腕』に吹っ飛ばされた拍子に、潰れてしまったようだ。



 『腕』を使役する魔法少女。今回のケースだけを見れば、一般人を魔獣から助けているが、今後どのような動向をとるのかは不明。



(『黒い兎』の妖精……。まさかね……)



 それに加えて、彼女の契約妖精と思われる『黒い兎』。他人――妖精のそら似でないのなら、少々を通り越して厄介事に発展する可能性がある。



 アクアは『世界魔法少女連盟』の支部に念話の魔法で、情報を送る。

 常人には決して聞こえない魔法による連絡手段。それを用いて、支部の方から二人に次の命令が下された。



 ――今回新たに確認された魔法少女、その勧誘及び保護であった。最悪の場合は実力行使が許可をされた上で。



(……けど『アリス』のような魔法少女……どこかで会ったような気が……)



 ――アクアの中に拭い切れない違和感を残して、事態は進行していく。

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