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第四十四話 vs鮮血『魔女』エリザ②

「うーん。今の戦力では苦戦しますか。チェシャ猫もいるというのにねぇ」



 悟と洗脳されたエリザが交戦を開始した頃。常人であれば発狂しかねない色彩の空間に、その異形はいた。等身大程の大きさがある、殻の部分に人の顔がついた醜い何か――ハンプティ・ダンプティだ。



 子どもが何も考えずにクレヨンで乱雑にかきなぐった絵のような風景。現実味に欠けるそれは、辺りを構成する色の配置をよく見れば、森の中ということが察せられるだろう。

 これまた判別の難しい茶色の塊――形状から椅子らしい物に腰をかけて、短い腕で優雅にお茶を嗜んでいた。



 手に持っていたティーカップを受け皿に静かに置き、先の言葉を呟いた。



「……君も趣味が悪いね。■■様の兄君の危機を愉しみにするなんて」

「人のことが言えた義理かい、君が? わざわざ姿を偽って、兄上殿に接触するなんて越権行為なんじゃない? ■■様もお冠だったよ?」

「それを言われると……強く言えないかな……」



 綺麗な長方形の形を成していない机。ハンプティ・ダンプティの対面に座るのは、黒アリスと瓜二つの容姿をした少女。悟の実の妹である久留美――ではないことが、彼らの会話から伺えた。

 久留美の姿をした少女はバツの悪そうな表情を浮かべて、ハンプティ・ダンプティから顔を背けた。



「……でも、チェシャ猫がいて厳しい相手だと、兄君が負けてしまうけど……何かいい手はないのかい?」

「それはボクらの内の誰かが加勢に行けば、今のエリザ? っていう子も倒せるだろうけど。ボクは絶対に嫌だよ。■■様の命令でもない限り。単純な暴力担当なら、ジャバウォックの奴がいるだろう」



 先ほどまでの嘲笑の表情を引っ込めて、不愉快そうに言葉を吐き捨てた。



「ジャバウォックなら、しばらく出てこないと思うよ?」

「ん? それは何故だい?」

「ああ、そう言えば君は知らなかったね。この前のことなんだけど――」



 少女がハンプティ・ダンプティに語ったのは、ジャバウォックが強制的に呼び出された時のこと――悟と黒兎に、エリザの三人がかりで行われた『調伏の儀式』のことであった。

 無理やりに召喚されて、■■に本気を出せないように制限を受けた状態で、数による暴力を受けたジャバウォック。第三者である『連盟』の介入によって、決着こそつかなかったが、ジャバウォックは完全に機嫌を悪くしまい、この領域の奥に引っ込んでしまっている。



 そのせいで悟はジャバウォックの『腕』が使用不可能になってしまっている。その影響は悪い方向に出ていて、悟の数少ない近接手段が奪われていた。



 ハンプティ・ダンプティと少女が何らかの手段で知覚している、悟とエリザの戦闘で彼は窮地に陥ってしまっていた。

 前衛をチェシャ猫に任せて、悟にできることはエリザの隙を作る為にトランプ兵を仕向けることだけであった。



 強化召喚を行っていないチェシャ猫では、何者かによって洗脳されたエリザの相手は荷が重く、じり貧のようだ。



「……なら、ジャバウォックの奴は無理かぁ。もう一度言うけど、ボクは嫌だよ。■■様の命令がない限りはね」

「なら、私が行くよ。あんまり長引かせると、■■様が怒り狂ちゃうし」



 やれやれといった感じで、久留美に似た少女は不出来な椅子から立ち上がる。彼女は頭だけを上に向けて、水色と青色が混ざった歪な空を見上げた。



「そろそろ、お呼びの時間かな。兄君殿」





「――チェシャ猫、大丈夫?」

「Nyaaaa……」



 戦闘が開始して、八分が経過した。その間チェシャ猫はエリザの攻撃を受け続けてしまっている。片腕はもげてしまい、切断面からは綿に似た何かが飛び出していた。

 再生能力を持たないチェシャ猫では、これ以上の戦闘は不可能だ。トランプ兵を除いて、使い魔が完全に破壊されてしまうと、再召喚には約一日程の時間を要する。



 そのデメリットを差し引いても、悟は愛着があるチェシャ猫が無惨にもやられてしまう姿を見たくはなかった。



「お疲れ様、チェシャ猫」

「Nyaaaa……」



 悟からの労いの言葉に対して、申し訳なさそうに小さな鳴き声を上げて影に沈んでいった。



 エリザはその間追撃をすることなく、悟の方に視線を固定していた。悟は彼女の方に向き直り、自爆覚悟の魔法行使をしようとした。



(ジャバウォックはまだ従えることはできてないけど、『連盟』の魔法少女が来る前に戦闘を終わらせる為にはこの手しか……)



 残りの魔力を瞬間的に注ぎ込み、悟は魔法を発動させた。



「――『■■の■の■■』!」



 ジャバウォックやハンプティ・ダンプティのどちらでもいい。やけくそ気味に、悟はエリザを救いたいという一心のみで影に呼びかけた。

 そして、その声に答えた存在が現れた。



「――うん。お疲れ様、お兄ちゃん」

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