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第三十八話 妖精達の内緒話

「今回も無駄足だったか……」

「お前の契約者が前回しくじらなかったら、余計な仕事はしなくてよかったんだよ。スノーマン」

「それはもう謝って終わった話だろう。いちいち蒸し返すのが好きだな。サラマンダー」

「二人とも争ってばかりで、もう少し建設的な話でもしたら」

「そういう君は楽観的じゃあないか、ウンディーネ」



 三人の魔法少女がそ各々黒アリスにどのような感情を抱いているのかを再確認している中、それぞれの妖精が集い話し合っていた。

 いずれの妖精も掌サイズで、その会話の内容は和やかな雰囲気――なものではなく、剣呑なものだ。彼らの話題は、『魔女』黒アリスとその契約妖精である黒兎についてだった。契約者の方に関してはおまけに近く、本命は黒兎の方であった。



 妖精という種族の特性上、同族意識はほぼ存在しない。地球とは全く別の次元――いわゆる異世界からの来訪者。その世界の名前を『夢幻の国』。様々な妖精が好き勝手に生活するその世界には、おおよそ人間社会における法と呼べるものはない。

 趣味や娯楽に生きる彼らが、唯一協力する事柄は自分達の世界を存続させることだ。



 妖精達が生きる世界、『夢幻の国』はその維持にとある『エネルギー』を必要とする。それは地球で『魔獣』と呼ばれる生き物を倒した際に回収できるものだ。

 元々いなかった魔獣を地球に『夢幻の国』とも異なる異世界から持ち込んだ『漂流者』――黒兎が言う『聖女』であった少女のことである。

 妖精達にとっては、不定期ではあるが魔獣を野に放つ『漂流者』の存在はありがたく、『漂流者』を排除してはならないという共通認識もあった。その為妖精達が『漂流者』に直接干渉することはなかった。



 けれど魔獣から『エネルギー』は回収しなくてはならない。そして単身では碌に戦う術を持たない妖精達が選んだ方法は、適性のある地球人に力を与えて魔獣を倒させる、といったものだ。――『魔法少女』。それが妖精の代理人達の名称であった。

 人類に協力するような姿勢を見せつつ、魔獣から『エネルギー』を奪取する。『連盟』という組織の設立に手を貸したのも、自分達に都合が良かったからだ。それがここ数十年間人類を欺き続けている妖精の真実であった。



 中には本気で魔獣を倒そうと考えて、『連盟』の人間にこの事実を伝えようとした妖精もいた。最もそんな種族の存続を脅かす危険分子はすぐに始末されてしまっているが。

 『連盟』に属さずに、魔獣退治に専念している黒兎。彼の思惑が、妖精という種族全体に不利益なる可能性がある。その為早急の黒兎の確保、ないし殺害が急務であった。



「黒兎は早く始末しなければ、人間側に僕達の事情をバラされるかもしれない」



 サラマンダーが懸念を他の二体の妖精に伝える。



「いや、それこそ無駄な杞憂だろう。黒兎がその気であれば、とっくの昔にその情報をばら撒き、我々の信頼はなくなっているだろうからな」

「だけど、黒兎を放置って訳にはいかないでしょう? もしも『漂流者』が倒させれたら、私達のいる『夢幻の国』が消滅しちゃうんだから」



 ウンディーネの言葉は、全ての妖精が危惧していることであった。黒兎の行動心理が判明していない為、今まではそこまで彼の『処理』に本腰を入れておらず、その対応も『連盟』の人間達に委ねていたのだが――。



「――本当に黒兎が『漂流者』の排除を狙っているのであれば、悠長にしている暇はないな。それに今回の奴の契約者は危険だ。早目に対処しなければ」

「でも、どうするの? 『連盟』の人間達は黒アリスには不干渉の方針で行くのでしょう?」

「だが、黒アリスの『魔女』認定は解除されていない。何か理由をこじつけられれば、より大人数での対応が可能になるはずだ。それに――」



 スノーマンの視線が、契約者であるダイヤモンド・ダストの方へ向く。マスコットキャラクターのような見た目かには似合わない、狡猾で打算に満ちた目であった。



「――ちょうど我らの主人は、それぞれ黒アリスの方に因縁がある。その意思と彼女達の実力があれば、現在の黒アリスの対処も問題ないはずだ。信じてみるとしようじゃないか。他の妖精に支援を頼むのに労力を費やすのは、後で構わないだろう」

「おーい、サラマンダー。そろそろ戻るぞー」



 遠くからサラマンダーを呼ぶフレイムの声が聞こえてくる。肝心の黒アリスがいないせいで、この場に出向いた目的も中途半端に終わってしまった。それで支部に帰還することに決めたのだろう。



「分かったよ。今行くよ」



 そう返事をして、各妖精は自分達の契約者の所に行き、スノーマンの転移魔法でその場を離れた。



 ――悪意ある妖精達の内談を知らずに、魔法少女達は今日も世界の平和の為に動く。一日でも早く魔獣のいない世界という、妖精がいる限り叶うことのない絵空事を信じて。

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