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第三十六話 悪竜退治③

「――ごめん。ようやく終わったよ」

「Nyaaaa!」



 強化召喚が終わり、顕現したチェシャ猫の背中に乗った状態で、悟は前線にやってきた。強化召喚のデメリットで、半日以上の魔法が使用できない制約を負うことになっているが、それを差し引いても現在のチェシャ猫は強化されていた。

 それこそ魔力量だけでも、ジャバウォックに劣らない程だ。



「■■■■……!」



 トランプ兵を全滅させたジャバウォックは、エリザによって負傷した箇所が癒えた眼球で、新たな乱入者を捉えた。その時に発した唸り声は今までの余裕に満ちたものではなく、警戒色が強いものであった。

 本能的にチェシャ猫が自分に匹敵する敵であると悟ったようだ。



「後は僕達が引き受けるから、二人とも下がってて。行くよ、チェシャ猫」

「Nyaaaa!」

「■■■■――!」



 悟の指示に従い、チェシャ猫が駆ける。ジャバウォックは両足を持ち上げて、迎え撃とうと体勢を整えた。どすんと、鈍い音が響き地面が陥没する。大量の砂埃が巻き上げられて、離れた場所にいたエリザと黒兎は反射的に目を閉じてしまう。



 慌てて視界を確保しようと衣装の袖でガードしながら、目を恐る恐る開けたエリザ。そして彼女が見た光景は、想像以上のものであった。



「Nyaaaa!」

「■■■■――!」



 巨大な怪猫と異形の竜。それぞれが鼓膜が破れそうな程の鳴き声を上げながら、体をぶつけ合っていた。それまでエリザ達が小細工を弄しながら、時間を稼いでいたのが冗談に思えるような光景だった。



 チェシャ猫の鉤爪がジャバウォックの堅牢な鱗の上から、激しい切り傷を与える。



「■■■■――!?」



 絶叫を上げながらも、痛みを堪えて反撃を試みるジャバウォック。突進を繰り出そうとするも、チェシャ猫の前足で体を掴まれた上で、勢いよく投げ飛ばされた。



「■■■■――!?」



 戦闘の余波で既に半壊していた森林の一角の木々をなぎ倒しながら、ジャバウォックは転がる。そのまま追い打ちをかけるように、チェシャ猫は接近して馬乗りになり、前足による殴打――猫パンチを繰り出した。

 殴る、殴る。ただそれだけの原始的な攻撃手段が、強化されたチェシャ猫の肉体によるものであれば、ジャバウォックの再生能力を以てしても致命的なものであった。



 凄まじい衝撃で、硬いジャバウォックの鱗がへこみ、剥がれ落ちていく。再生しようとしているが、追いついていないようだ。



「■■■■……」



 ジャバウォックの鳴き声も弱々しいものになっていく。それを見た悟はチェシャ猫に合図を送り、攻撃を中止させた。



「もういいよ、チェシャ猫。ねえ、そろそろ降参してくれないかな?」

「■■■■……」



 ジャバウォックに降参を促す悟。チェシャ猫に跨がられた体勢のまま、ジャバウォックは不満げな唸り声を上げる。未だにその目には諦めの色はない。

 悟がジャバウォックからの反応を待っていると、顎がゆっくりと開けられる。ブレスによる攻撃の前兆であった。



「チェシャ猫――!」



 異変に気づいた悟が指示を下す前に、チェシャ猫は大きく跳躍をしてジャバウォックから離れた。それと同じタイミングで、ブレスが放たれる。

 上空に向かって発射されたブレスは、ギリギリのバランスで持ち堪えていた結界魔法を完全に破壊する。硝子が割れるような音が響き渡り、この場にいた全員が察した。ジャバウォックの使役化に失敗したと。

 すぐにも異常な魔力反応を検知した『連盟』から魔法少女が派遣されるはずだ。しかも先日ダイヤモンド・ダストを打倒したせいで『魔女』としての危険度を上げらてしまった悟。より上位の魔法少女か、複数の魔法少女がこの場にやって来てしまう。



「■■■■……!」



 ジャバウォックの負傷も、持ち前の再生能力で癒えつつある。負けを認めさせるには、更に時間がかかるだろう。それに加えて――。



「Nyaaaa……」

「チェシャ猫!?」



 チェシャ猫が纏っていた膨大な魔力が霧散していく。強化召喚の持続時間が過ぎってしまったらしい。脱力して、四肢を投げ出すチェシャ猫。

 その様子を見て、ジャバウォックは怒りを引っ込めて、嘲りの表情を浮かべる。



「チェシャ猫。ありがとうね、戻ってて」

「Nyaaaa……」



 申し訳なさそうな鳴き声を上げて、チェシャ猫は悟の影に飲み込まれていった。それを見送ると、悟は視線をジャバウォックにやり、目を細めて睨みつけながら宣言をした。



「――今回は僕が負けを認めるけど、次は絶対に容赦しないから」

「■■■■」



 悟の強気な発言を負け犬の遠吠えだと言わんばかりに、愉快そうな鳴き声を上げて自ら影に戻るジャバウォック。いくら反抗的な態度をとろうと、使い魔である為、その行動範囲は術者である悟に縛られている。

 ジャバウォックの姿が見えなくなるまで、自身の影を注視していた悟は、エリザや黒兎に告げる。



「二人ともごめん。僕がもう少し手際良くできてたら――」

「過ぎたことだし、別に構わないわよ。そんなことより早くしないと、『連盟』からの魔法少女が来るんでしょ?」

「そうだね……黒兎、転移魔法を」

「了解したんだな!」



 こうして悟達は、黒兎の転移魔法によって離脱した。ジャバウォックの調伏の儀に失敗した悟は、また別の機会に挑むことを決心したのであった。

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