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第二十六話 vsフレイム&アクア②

「――『フレイム・テンペスト』!」



 フレイムの十八番である大規模な炎属性の魔法が行使される。周囲が森林である為、木々に引火しないように対象をチェシャ猫単体に絞る。

 巨大なチェシャ猫の体躯が炎の渦に包まれた。



「や、やったのか……?」



 フレイムがポツリと呟く。普段であれば広範囲を焼き払う為の魔法が、ただ単一の相手を対象に振るわれた。その威力は通常の比ではない。



 若干の不安を覚えながらも、手応えを感じるフレイム。アクアも動こうとしない炎の塊を見守る。



「Nyaaaa!」



 激しく炎が燃え盛る音だけが響く中で、不快なノイズ混じりの鳴き声が上げられた。それと同時に、纏わりつく炎の渦を切り裂いてチェシャ猫は姿を現した。

 その体には多少の焦げ跡が確認できるが、それ以上のダメージが入ったようには見えなかった。



「嘘でしょ……!」

「この強さ……A級並じゃありませんか!」



 無傷のチェシャ猫に絶望を感じるフレイムとアクア。魔獣の個体ごとの強さを示す『討伐難易度』。これはA〜Fの六段階で表記される。

 彼女達のコンビであれば、B級の魔獣程度は倒すことは可能である。現に過去に数回討伐経験がある。



 そんな二人をして突破を困難と感じさせたチェシャ猫。このままでは負けてしまう。そうアクアが考えていた時、契約妖精のウンディーネの声が届く。



「――アクア! 逃げるつもりよ、あいつ等!」



 慌ててアクアは視線をチェシャ猫の後方に向ける。ウンディーネの言葉通り、アクア達がチェシャ猫と戦闘に集中していた間に、逃走の猶予を与えてしまっていた。



「――転移魔法! 早く皆通るんだな!」



 アクアとフレイムがチェシャ猫に気を取られている間に、黒兎は転移魔法の発動を完了していた。空中に黒い渦状の『門』が発生する。

 エリザが一番初めに入り、その次に黒兎が続く。悟はチェシャ猫に告げた。



「――盛大に吹っ飛ばしてやれ、チェシャ猫!」

「Nyaaaa!」



 再びチェシャ猫は後ろ足に力を込めて、大きく跳び体当たりを繰り出した。チェシャ猫の質量を生かした、最も合理的な攻撃方法だ。



 集中を乱したアクアに、大技を放った後の硬直が解けないフレイムに、チェシャ猫の巨大な体が迫り激突した。



「きゃあ!」

「――!?」



 その勢いに堪らず二人の体は簡単に吹き飛び、数度のバウンドを繰り返して地面に叩きつけられた。痛みで点滅する視界で、アクアは悟を見た。



「……お願い、貴女はいったい誰なんでしょうか?」



 震える右手を伸ばす。しかしその言葉が聞こえていない悟は、チェシャ猫に影に戻るように命じると、『門』の中に姿を消していった。





「はあ…はあ……大丈夫だったの? アリス、黒兎」

「吾輩は全く問題ないんだな」

「右に同じく」

「そう……とりあえずは互いの無事でも喜んでいようかな……」



 エリザの安否確認に、悟と黒兎の二人は是と返答する。力が抜けたように、全員は硬い地面に横たわった。

 咄嗟に指定された転移先は、どこかの廃工場のようだ。柱に貼り付けられた変色したポスター。それに印刷されている日付から、放棄されて十年以上が経過したことが分かる。



 全員の荒い息づかいと、鳥の鳴き声だけがしばらく響くのみであった。呼吸をいの一番に整えて調子をある程度取り戻したエリザは、他の二人に話をふる。



「これで完全に私達、『連盟』からのお尋ね者だよ……」

「エリザさんと黒兎は元からじゃないか。僕も今日の出来事で正式に『魔女』扱いか……」

「アリスだって似たようなものでしょ。昨日の段階でフレイムっていう奴と戦ってたんだし」

「それもそうか……」



 がっくりと肩を落とす悟。元々彼が魔法少女になったこと自体がイレギュラーであり、その原因も不明。

 更に契約妖精である黒兎は『契約者殺し』の二つ名つき。その上で目的は魔獣の根絶。

 魔獣を倒した際に得られる『エネルギー』の回収を生業としている妖精という種族そのものに喧嘩を売っているようなものだ。



 悟達のことを『連盟』は絶対に捕らえようとするだろう。その為の『魔女』認定だ。大義名分を得た彼らはこぞって悟達の確保に動くと予測できる。

 二重の意味で捕まる訳にはいかない。正体がバレないという意味と、魔獣をこの世から一体残らず絶滅させるという意味で。



「せっかくの魔法の練習を兼ねた模擬戦だったのに……」

「でも一応の目的は達成できたんだな! チェシャ猫。アリスは新しい使い魔を召喚できるようになったんだな。あれだけの力があれば、今後の活動でもきっと役に立つんだな」

「でも僕の魔法について、また分からないことが増えちゃたよ……」



 決して従順な態度とは言えないハンプティ・ダンプティ。未だに全貌が見えない『腕』の持ち主。悟の精神世界のような場所にいた久留美の存在。



 依然として詳細が一切不明な魔法。自分はどうやって向き合っていくべきだろうか。悟がそんな思考の迷路に迷い込みそうになりかけた時、エリザが悟の肩にそっと手を置く。



「一人で悩まないように。私や黒兎がいるんだから。何でも相談してよ。ね?」

「う、うん。それでこれからどうしようか?」



 彼らの話し合いは続いていく。

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