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第二十二話 魔法少女アクアの憂鬱

「どうかしたの、アクア? うかない顔をして」

「ああ、フレイムですか……」



 ここは『連盟』の支部の一つ。アクアは上司に『魔女』エリザによる襲撃事件の報告をした後、帰り道となる職員専用の廊下で一人大きく黄昏れていた。

 そんな彼女を見兼ねてか、声をかける少女が一人。先ほどまで一緒に報告に参加していたフレイムだ。

 普段の真面目で、冷徹とも取られかねない態度なアクアから想像できない程の落ち込み具合だ。



 そしてアクアがこうなる原因に、彼女の相棒と言える程組まされているフレイムには心当たりがあった。



「――そんなに、あの黒アリスについて気になるの?」



 そう、アクアがここまで気分を落ち込ませる理由の大きな要因となっているのは、つい先日新しく確認された未登録の魔法少女――『魔女』黒アリスであった。



 その姿が最初に確認されたのは、近隣の中学校であった。そこに出現した魚人型の魔獣。その魔獣を『連盟』から派遣されたフレイムとアクアが到着する為に、討伐した魔法少女。

 次に彼女が現れたのは、街中の路地裏。そこにあった魔獣の反応を追ってやって来たフレイムと接触。『連盟』の保護を拒絶。そのままフレイムと戦闘後、逃走。



 ほぼ同時刻に『連盟』の支部の襲撃を行った『魔女』エリザとの関連を考慮した上層部によって、『魔女』認定を受ける。



 それが新たな『魔女』――仮称、黒アリスの活動記録であった。契約妖精が『契約者殺し』の悪名を持つ黒兎ということもあり、『連盟』側は黒アリスの早急の保護を目標としている。



「ねえ……アクアが黒アリスに会ったことがあるって本当?」

「いや覚えてないんです……。そんな気がするだけで。『連盟』のデータベースを漁っても、過去に黒アリスらしき魔法少女がいた記録はどこにもありませんでした。でも逆にそれが大きな違和感で……」



 黒アリスの保護を命じられたフレイムとアクアなのだが、黒アリスが『魔女』認定を受けてから、この落胆ぶりなのだ。このアクアの感情に名前をつけるとしたら――。



「――困惑でしょうか? 憧れていたヒーローが不当な誹りを受けているという」



 当然アクアには黒アリスと会った記憶は全くなく、顔を見たのは、フレイムの契約妖精サラマンダーが保持していた戦闘記録の映像のみ。

 アクアの中で、違和感だけが肥大化していく。



「――私は彼女に直接会って話がしたいんです」



 それがアクアの今の目標であった。

 気負うアクアの肩を、軽く叩くフレイム。



「私が手助けぐらいはしてやるよ。私達相棒でしょ?」

「フレイム……」



 フレイムからの言葉に、アクアは感銘を受ける。今度から雑な対応を少しだけ改めてようと、アクアは決心した。



 ――ウー! ウー!



 そんな二人のやり取りを邪魔するように、緊急サイレンが施設内に鳴り響く。『連盟』関係の施設でアラートが鳴る場合は二つ。

 魔獣が出現した場合と、『魔女』が現れた場合。

 今回は――。



『――緊急連絡! 緊急連絡! 施設内にいる魔法少女アクア、フレイムに通達する! 近隣の森林にて、強大な魔力反応を複数検出! その内の二つがデータベースに類似パターンあり! 『魔女』エリザ、『魔女』黒アリス! 繰り返す! ――』



 ――後者のようであった。



 緊急サイレンの内容を聞いた二人はそれぞれの反応を示す。アクアは微秒な表情を。フレイムは好戦的な笑みを。



「――噂をすれば何とやら。丁度いいんじゃない? アクア」

「――そうですね。私の中の違和感を解消できるには、黒アリスに直接尋ねるしかないですから」





「……ここは?」



 悟は意識を取り戻す。混乱した状態で辺りを見回す。意識を失うまでは、悟はエリザと魔法の練習の題目で模擬戦をしていたはずだ。

 魔法の副作用で暴走しかけていたエリザを止める為に、短期決戦を試みた所。エリザの『ブラッド・パルペー』による鎌で首を刎ねられようとした瞬間を最後に、悟の記憶は途切れていた。



「……辺りは真っ黒。また夢……もしかして走馬灯って奴?」



 目的を果たせない段階で心半ばで死ぬ。到底悟には容認できる状況ではない。

 どうにかして現実に戻ろうと、何かしら行動を起こそうとした時。少女の声が響く。



「――お兄ちゃん。久しぶりだね」

「――はっ?」



 悟は声がした方向に視線を向ける。そこにいたのは、黒のドレスに白いエプロン姿の――悟が魔法少女に変身した際と全く同じ姿をした少女であった。



 夢――悪夢の類――で、妹である久留美が出てくることは度々あった。何なら昨晩の夢にも、出てきたような気がするが、悟の勘が告げていた。

 目の前の少女が、悟の記憶や罪悪感が作り出した虚像ではなく、本物の久留美であると。

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