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第十九話 『魔女』エリザ②

 黒兎の仲裁により、悟の機嫌が直った後。エリザにどういう用件で来たのかを伝えた。



「……それで魔法のアドバイスを私にもらいに来たと……。それ自体は黒兎から事前に聞いてたから構わないけど」

「ありがとうございます。……昨日魔獣相手でしたら、苦戦することはなかったんですけど、『連盟』の魔法少女――フレイムとの戦闘では逃げるだけで精一杯でした。このままじゃ僕……黒兎の願いを叶えることができそうにないと思って……」

「いや……確かフレイムって、アクアの相方的な奴だろう? 話が聞いた感じだと、昨日変身したばっかりでしょう? それで『連盟』の魔法少女相手に逃走できるなら、それだけでも十分だと思うけどな……」



 両手を組んで、どうしたものかと悩むエリザ。正直に言って、彼女からアドバイスできることはほとんどないに等しい。魔法の副作用で暴走してしまうエリザではあるが、彼女自身が戦闘狂という訳ではない。

 魔法少女――『魔女』として活動していた期間も、それ程長い期間でもなく、どういったアドバイスが適切か。エリザはそれを考える。



(――いや、その前にこれだけは聞いておかないと)



「一つ聞きたいんだけど、本当にあんたは黒兎の願いに賛同しているの? ただの正義心なら、止めておいた方がいいと思うけど」

「エリザ――」

「黒兎は黙ってて。私はアリスに聞いてるから」



 魔法や戦いについて助言を与える前に、エリザは悟に確認しなければならないことがあった。悟の覚悟の有無を。

 エリザからの問いに、悟は沈黙を保ちしばらくして口を開いた。



「――もちろんです。魔獣がいない世界。魔法少女が戦う必要のない世界。黒兎が願うそんな世界は、僕が望むものでもあります」



 悟はエリザの目を見て、しっかりと宣言した。その覚悟の籠もった悟の瞳を見たエリザは、大きく息を吐く。



「それなら私から言うことはないよ」





「――それであんたの魔法について教えてくれる?」

「僕の魔法は……影から色々と召喚する感じの奴だよ」

「んー、具体的にはどういった奴を召喚できるのは?」

「そうだね。例えば――」



 悟が現在召喚できるのは、二種類。紫色の『腕』の持ち主とトランプ兵。前者に関しては一部だけの召喚に留まり、後者に関しては数こそ魔力が尽きない限り呼び出せるが、一体当りの保有している力は強い部類ではない。

 それは先のフレイムとの戦闘においても、明らかであった。広範囲を対象とした攻撃手段を有する相手である場合、良い的にしかならない。



 黒兎と相談した結果も、悟自身が影に潜む『何か』に認められることでしか、魔法を強化する方法はないと結論が出ている。



 悟の口から説明された魔法の内容について、エリザは難しそうな顔をして唸る。



「んー、中々の難題ね。アリスの魔法……。『召喚』系の魔法は完全に私の専門外だし……」

「エリザの魔法って、どんなのですか?」

「私の魔法は分類上では『操作』系に入るのかな? 血そのものや、魔力を血に変換させて操ることができるの。……その代わりに魔法を使い過ぎると、正気を失って血や魔力を求めて暴走しちゃうんだよ……」



 自分の魔法について語る時のエリザの雰囲気は暗い。そこで悟は思い至る。初対面であるが常識人の範疇に入るエリザが、何故『魔女』になったのかを。

 彼女の魔法が持つ副作用で、正常な判断を下す為の思考を奪われた状態で凶行に走り、結果的に『魔女』になったのだと。



「……確かに自分の力――魔法について理解することは必要だ。だけど、それは制御する術を知る為であって、力を求める為にやっちゃ駄目だ。私から言えるのはそれだけ」



 エリザの体験に基づいた助言。それを聞いた悟は何とも言い難い感情に襲われる。

 悟が魔法の使い方の向上を目指すのは、ひとえに現状の自分の力に満足していないからだ。



 悟は反射的に逸らしてしまった視線を改めてエリザに向ける。彼女の表情は真剣そのものだ。

 そして無言でエリザは無言で語る。この忠告を聞き入れなければ、悟が辿る未来は悲惨なものになるだろうと。



 無意識の内に破滅に向かっていた悟の思考が、他者に指摘されることで冷静さを取り戻す。



「――ありがとう、エリザ。お陰で大事なものを見失わずにすみそうだよ」

「――! くそっ! さっきは笑顔の方が良いとは言ったけどさ! 反則じゃない!」

「ん? 何のこと?」

「え……自覚なしなの……」



 呆れたように大きくため息を吐くエリザ。黒兎は後方で見守るだけ。悟に至ってはエリザに何故そのような反応をされるのか理解できず、エリザと黒兎の交互に視線を送る。



「黒兎……保護者としてしっかりと目を光らせておくように」

「了解したんだな!」

「ね! 二人だけで納得してないで僕にも説明してよ!」

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