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第十八話 『魔女』エリザ①

 転移魔法による『渦』を抜けた先で、悟と黒兎の二人は森のど真ん中――正確な位置は分からない――にいた。辺りに生えている木々の葉から、最近転移の中継地点として利用している、街外れの森林だろう。

 早くも日常の一部と化し始めた自然の匂いが鼻腔をくすぐる中、黒兎は悟に声をかける。



「悟、もう少ししたら来ると――」

「――あんたが黒兎の言ってた奴か。本当に『黒いアリス』って、感じだな」



 聞き覚えのない少女の声が、悟の鼓膜を振動させる。バサバサと無数の蝙蝠の羽ばたく音がしたと思うと、いつの間にか一人の少女がいた。

 年頃は悟と同じぐらいだろうか。

 赤色のドレス――フレイムの燃えるような赤ではなく、血を連想させる紅――を着た少女は、値踏みするような視線を悟に向けてくる。



 謎の少女の登場に黒兎は驚いた様子を見せない。この反応から、彼女が悟に会わせたかった人物であると予想がつく。

 悟は反射的に身構えていた体勢を気づかれないように解き、自然体を装う。



「来てたんだな。アリス、彼女はエリザ。吾輩の協力者なんだな」

「……どうも、アリスです」

「ふーん、本当にアリスっていうのか。――ん? もしかして昨日ネットニュースに出てた子?」

「……はい、不本意ながら」



 黒兎が赤色のドレスを着た少女――エリザのことを悟に紹介する。彼女に対して、魔法少女としての偽名である『アリス』と告げた。

 その単語に違和感を覚えたエリザは、指を顎にあて考える仕草をした。んー、んー、と。何かを思い出すように唸る。そして悟の正体が『魔女』認定されたばかりの『黒アリス』と、エリザは思い至ったようだ。



「えーと、エリザさんって……」

「呼び捨てで構わないよ。別にさんづけされるような人間じゃないし。それでどうかしたの?」

「エリザって、もしかして『魔女』のエリザ?」



 対する悟も、エリザという名をつい最近見たきた気がした。記憶を思い返すと、昨日のネットニュースの記事が脳裏に過る。その記事に載っていた『魔女』は悟だけではなく、もう一人いた。確かエリザという名前だったような。それを確認する為に、悟は質問をした。



「うん、そうだけど? 何だよ黒兎、私のこと説明していないの?」

「いや、吾輩はエリザのことを話したんだな。吾輩の唯一無二の協力者であるとだな」

「それじゃ、説明が足りないだろ! 『魔女』ってだけで、危ない奴認定してくる人間もいるんだからな!」



 こほん、と。咳払いをして、佇まいを直すエリザ。彼女の言い分は正しい。多くの人間は『魔女』という肩書を持つ者に対しての認識は厳しいものだ。

 ましてや魔法少女姿の悟の身長は百五十センチにも届かない程度しかなく、エリザから見れば悟は年下に見えているだろう。

 できるだけ怖がらせないように気を遣っているのか、柔らかい声色でエリザは話を続けた。



「世間では『魔女』っていうことになってるけど、至って普通のお姉さんのエリザさんだよー」

「……」

「その微秒に可哀想なものを見るような目は止めてくれない!」



 悟からの冷たい視線に耐え切れなかったのか、大きい声で懇願してくるエリザ。そんな彼女の反応に、警戒心が完全に消え失せた悟は少しだけ可笑しそうに笑い声が口から溢れた。



「あ、ようやく笑ってくれたね」

「ん?」

「アリスったら、さっきからずっと硬い顔してたからさ。せっかく可愛い顔してるんだから、もっと笑顔でいた方がいいよ。普段からそんな表情ばっかりでしょう?」

「か、可愛い……? 僕が……?」



 悟にとって、可愛いと面と言われた経験など幼少期の頃の数回しかない。思いがけないエリザの発言に、思考が停止する悟。両手で顔を覆い、「あう、あう」と言うばかり。よほど恥ずかしかったのだろうか。その様は壊れたラジカセのようだ。



 そんな悟の様子を微笑ましいものを見守るエリザと黒兎。その光景はとても『魔女』の烙印を押された二人の少女と、『契約者殺し』の異名を持つ妖精が作り出したものとは、『連盟』の人間は信じなかっただろう。





「もう……いい加減に機嫌を直してよ……謝るから」

「ふん……」



 からかわれた悟は腕を組んで、その柔らかそうな頬を膨らませていた。そんな彼に対して、エリザは両手を合わせて謝罪をしていた。

 黒兎は思う。肉体が少女のものである現在、悟の精神はそれに引っ張られているのではないかと。

 その可能性は十分にあるだろうが、確証はもちろんない。何故ならば、悟のような例は『ある目的』の為に何度も契約を繰り返してきた黒兎でも初めてた。

 あらゆる影響を考慮しておくべきだろう。

 悟本人も、その状態に違和感を抱いていない。もしも魔法少女に変身している期間が長引けば、どうなるか黒兎ですら予想はつかない。



(……悟の為にも、『彼女』の為にも、早くこの不毛な争いに終止符を打たないといけないんだな!)



 しかしその前に。目の前で繰り広げられている諍いを止めなければ。そう思い立った黒兎は二人の仲裁に向かった。

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