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第十一話 vs魔法少女フレイム①

「お姉さん、何か用?」



 今の自分は小学生程度の少女だ。そう自分に言い聞かせながら、乱入者である少女――フレイムに問いを投げかける。



(あの魔獣を倒したら、さっさと引き上げるつもりだったけど……タイミングが悪いな……)



 悟は内心毒つきながら、フレイムの返答を待つ。

 武器も持たず、無表情で見つめてくる悟に対して、フレイムは顎に手を当て、視線を辺りに向ける。



(うわあ……後ろの魔獣、よく見たら一撃じゃん。昼間に生徒達から聞いた『腕』でやったのかな? ……だとすると、この子の魔法は『召喚』系って考えるのが妥当……。魔法少女に成り立てだと前提におけば、術者の直接的戦闘能力は低いはず……)



 悟の魔法について考察を進めるフレイムに、彼女の契約妖精であるサラマンダーが近づき、口を開く。



「フレイム。見た所、彼女は未登録の魔法少女ではあるが、今の段階では魔法の行使は全て魔獣退治の為だ。『魔女』としてではなく、魔法少女の保護として対応するように」

「はいはい、了解しましたー」



 フレイムとサラマンダーの会話の中から、悟は聞き覚えのない単語があることに気づく。

 フレイムの方から視線を外さずに、傍にいる黒兎に質問を投げた。



「……黒兎、『魔女』って、何?」

「『魔女』というのは、『連盟』が未登録の魔法少女――その中でも、私欲で魔法を使う者を指す言葉なんだな。『連盟』に所属する魔法少女には、そういう『魔女』を取り締まる役割もあるんだな」

「つまり、現時点で僕はその『魔女』に当てはまらないということで良いのかな?」

「恐らくは……なんだな」



 若干自信なさげな黒兎の様子を尻目に、悟は意識をフレイム達の方へ戻す。

 両者の間を、何とも言えない静寂が流れる。



 そんな静けさを先に破ったのは、サラマンダーであった。



「その奇妙な語尾。その少女の契約妖精はお前か、黒兎?」

「……サラマンダー。久しぶりなんだな」



 悟が初めて見る妖精同士の会合。しかしそれは子どもが夢見るような、微笑ましい光景ではなく、険悪な雰囲気であった。



(……まあ、黒兎がやろうとしていることは、妖精全体にとってメリットがないからな。自分達種族のエネルギー問題を解決する手段を自ら放棄する選択だし……。でも――その為に一人の女の子を犠牲にするのは間違っている。少なくとも僕はそう思う)



 改めて心の中で、戦う動機を再確認している悟を他所に、サラマンダーはさらに言葉を続ける。



「――君が何を考えているのかは分からないけど、今まで何人も魔法少女を使い潰した事実は変わらない。今回もそんなに小さな子を契約者にして」

「えーと、サラマンダー。その妖精って、そんなにやばい奴なの?」

「ああ、そうだよ。フレイム。あいつは『契約者殺し』と悪名高い妖精の恥さらしさ。現にあいつと契約した魔法少女は何人も命を落としている。随分昔に追放処分を受けていたはずだが、また顔を合わせるなんてね」



 そこで言葉を切ったサラマンダーは、話の矛先を悟へと向けた。



「――黒兎と契約している君。悪いことは言わない。君の傍にいるのは、生来の疫病神だ。そいつとの契約は今すぐに破棄する方がいい。こちらは君を『保護』する任務を受けているからね」

「ど、どうするんだな。アリス……」



 恐る恐る悟の反応を伺う黒兎。そんな黒兎に安心するように、笑みを悟は向ける。



「大丈夫だよ、黒兎。そもそも決意表明はもう済ませてるだろう? 今までの契約者だって、黒兎の願いは折り込み済みでしょう?」

「アリス……ありがとうなんだな!」



 絆がより深まる悟と黒兎の主従。それを見たサラマンダーは残念そうに告げる。



「――そうか。それが君の選択か。後悔しないといいね。フレイム。聞き分けの悪い子には、少々キツいお灸を据えないとね」

「ん? いいのか。いつもは色々と小言が煩いのに」

「――ただし、あくまでも『保護』だからね。あまり手荒にはしないように」

「了解……じゃあ、行くよ!」



 その掛け声と共に、赤き魔法少女は魔力を練り始めた。





「――まずは小手調べから行こうか。『ファイヤー・アロー』」



 フレイムは一つの魔法を発動する。赤色の魔力が辺りに舞った後、彼女の周囲には数本の炎の矢。

 そして、その穂先は悟に向けられていた。



(――確かフレイムの得意魔法は、炎魔法だったけ……)



 昼間の時、恵梨香から聞いたフレイムの情報について思い出す悟。



 フレイム。炎属性の魔法を得意とする魔法少女。

 その広範囲に広がる爆炎は、群体型の魔獣を相手にする際には重宝されるらしい。

 周辺被害の大きさに目を瞑ればだが。



(せっかく召喚できるようになったトランプ兵も、フレイム相手だといい的にしかならなさそうだけど、一応試してみるか)



「――『■■の■の■■・トランプ兵』」



 対する悟も魔法を発動した。先ほどと同じく、彼の影から複数のトランプ兵が出現する。

 目撃情報になかったトランプ兵の登場に、フレイムは驚きの声を上げた。



「へえ……さしずめトランプの兵隊と言った所かな。そんな物も呼べるんだ。でも、私の前じゃ壁ぐらいにしかならないよ。――発射」



 悟の無言の指示で各々の武器を持ったトランプ兵達は四方から、フレイムに襲いかかる。

 けれど彼女の一言で放たれた真紅の弓矢は、的確にトランプ兵達を撃ち抜いていく。



 フレイムの狙いは正確にトランプ兵達の胴体にあたる部分に命中していく。

 トランプ兵達は仰け反るような反応を見せた後、魔力の粒子となり空中に霧散した。



 時折悟に目がけて飛んでくる矢は、射線上にトランプ兵を配置することで防御をしている。



(やっぱり駄目そうかな……。いや、もう少し数を増やしてみるか)



「『■■の■の■■・トランプ兵』」

「無駄だと思うんだけどなー。まあ、いいや。『ファイヤー・アロー』」



 戦いにおいて最も重視されるのは、個の力より数だ。

 悟はその原理に従い、残存魔力の半分以上を注ぎ込み、より大量のトランプ兵を呼び出す。

 その数は実に百体を超えている。狭い路地裏を埋め尽くす程の数だ。



 対するフレイムは数の多さに多少の驚きを見せるが、瞬時に意識を戦場に戻すと、炎の矢を出現させトランプ兵を迎撃した。

 数と数による押し合い。

 トランプ兵達は同胞が――仲間意識があるのか不明だが――倒れるのも厭わずに、敵であるフレイムに目がけて特攻を繰り返す。

 固定砲台と化したフレイムは、闇雲に矢を放つのではなく、一体一体を確実に屠っていった。

 僅かな取りこぼしが、自らの敗北に繋がると言わんばかりに。



 フレイムの額を、一筋の汗が流れる。

 『ファイヤー・アロー』による弾幕の隙間を縫うように、何体かのトランプ兵達は進軍を進める。

 フレイムは焦ることなく、そのトランプ兵も地に沈めていくが、数のぶつけ合いの天秤は悟の方へ傾こうとしていた。




 時間経過による敗北の可能性を嫌ったフレイムは、『ファイヤー・アロー』の発動を解除した。

 炎の矢の弾幕が止む。明確な隙を狙って、トランプ兵が一斉に突撃した。

 それが明らかな罠であっても。



 フレイムは口角を少し上げて、己の信頼する魔法の名を紡ぐ。



「多勢に無勢かなー。なら、こういうのはどうかな? ――『フレイム・テンペスト』!」



 瞬間。日が傾き始めて茜色の光がさし始めた路地裏が、爆炎に包まれた。

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