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幽霊は科学になりました

作者: 水木葵

 20xx年、遠野恐山に未知の鉱石が発見された。【恐石おそれいし】となづけられたそれは、幽霊に干渉する力を持つパワーストーンだった。その力の判明を期に、あらゆる霊能力者、研究者が幽霊の存在を科学的に証明し、噴火や地震が神の怒りからただの自然現象になったように、幽霊もオカルトから科学になった。


 安部心霊探偵事務所

 prrrrrrrr……

 電話の音が鳴り響く。探偵事務支所に届いた依頼の電話だ。二十代ほどの男性が電話をとる。

 この男の名は安部清あべきよし。探偵事務所を構え、心霊関係の依頼を解決する霊能力者だ。幽霊の目視も除霊も可能で、霊能力者としてはかなり優れている。

「はいこちら、心霊関係の問題なら何でもお任せ!安部探偵事務所です!」

 やや高めのテンションで電話に出た清は相手の身分を知った瞬間その態度を大きく変える。

「警察!?いやだぞお前らの仕事手伝うなんて!殺人事件に登場する霊は悪霊が多いからな!」

 安倍探偵事務所には偶に警察からの依頼もやってくる。その場合大抵悪霊が絡んでおり、難易度の高い場合が多い。ちなみにその分報酬は高い。

「この間事件解決してやったばかりだろ?どれだけ霊能力者の厄介になるつもりだ?」

 相手をするのが面倒になったのか、新聞を読みながら電話に対応する清。その新聞の一面には、凶悪犯罪者逮捕の記事がある。


 連続殺人犯、〇〇逮捕。享年35歳。死後5年間、霊能力者以外から姿が見えないことを利用し、殺害をくり返し……。


 この事件を解決したのは、今電話でグチグチと文句を言っている清だ。逮捕された幽霊の犯人は、裁判で判決が決まったあと、刑務所に送られるか、強制的に成仏させて地獄に送られる。

「え?悪霊は関係ない?パトロール中に発見した一人の幽霊を成仏させてほしい?それを先に言ってくださいよ~。もちろんお引き受けします」

 悪霊がからんでいないとなると手のひらを返したように上機嫌になる清。

「仕事が入ったぞ羽衣狐ういこ。警察署にレッツゴーだ」

 清が電話で会話している間、黙々とPCを扱っていた女性、安倍羽衣狐あべういこは、画面に向けていた面を上げた。

「はい。では準備が整い次第すぐに警察署に……ってなるわけないでしょ!依頼主に向かってなにあの態度!少しは礼節をわきまえなさい!」

「すみません!」

 清の実の姉、安部羽衣狐。弟の清のように霊能力は持っていないが、事務所設立時の不動産との契約や資金の管理など、事務作業は全て羽衣狐が担っており、弟の清は頭が上がらない。

 そんなやり取りをしながらも外出の準備を終え、二人は仲良く警察署に向かう。




 警察署には、依頼の対象である女の子の幽霊が宙に浮かびながら寝ていた。

 それに対し、清はあからさまに不機嫌になる。

「おい警察、俺は何か月か前に子供の霊は悪霊になりやすいから依頼するときは事前に伝えてくれって言ったよな?」

 清のガラの悪い態度に対し、その目の前に座る警察官は淡々と答えた。

「そのことを伝えると機嫌が悪くなって対応がめんどうくさくなるので、黙秘していました」

「正直に答えればいいってもんじゃねえぞこら!」

 ますます機嫌が悪くなる清。

「難易度の分、報酬は弾みます」

「その言葉、忘れるなよ」

 最終的に金で手を打った。


「今回の依頼は子供の幽霊を成仏させることなんですね。清、性別は?」

 羽衣狐は、事務所にいたときには付けていなかったメガネに触れながら、霊感のある清に幽霊の性別を訪ねる。

「このお姉さん、視線は私の方に向いてるのに、なんで性別がわからないの?そのメガネ、かけると幽霊が見えるようになる適なあれでしょ?」

 いつの間にか目を覚ましていた女の子の幽霊が、答えを知っていそうな清に疑問を尋ねる。

「そのメガネはそんなに便利なものじゃない。羽衣狐いわく、幽霊の体に反応して視界に青い光が映るらしい。幽霊を視界に入れたときサーモグラフィーの赤い部分が青くなったって感じっていえばわかりやすいか?」

「なるほど。それじゃあ私のことは大体の形しかわからないってことね」

 女の子が言った通り、羽衣狐は幽霊の体はぼんやりシルエットがわかるくらいで、性別がわかるほど認識できない。髪の長い幽霊は別だが、あいにく依頼対象の女の子の幽霊の髪型はショートだった。

「羽衣狐、依頼対象は女だ。さて、報酬も約束されたことだし、早速成仏させますか」

「なに?心霊番組みたいに破ぁー!とかやるの?」

「いや、悪霊や裁判で除霊の刑を言い渡された霊以外を無理矢理成仏させるのは法律で明確に禁じられているからな。破った場合殺人と同じくらいの罰則が科せられる。まあ、幽霊の存在は証明されても見えない奴が大半だから、除霊したところであまりばれはしないが、俺はそういうことはしない」

「じゃあどうするの?」

「定番だが未練を晴らす。おいガキ、なんかやりたいこととか心残りとかあるか?おに―さんがかなえてあげましょう」

「うさんくさ」

 女の子頭をひねり考えを絞り出し……答えを出した。

「とにかく遊び足りない。どっか連れてって。遊園地、遊園地がいい。あと名前呼んで。私霊子れいこっていうの」

「よしわかった。霊子な。羽衣狐、女の子の名前、霊子だって。とにかく遊びたいらしいけど、なんかいいところある?遊園地に行きたいって言ってるけど、幽霊も楽しめるってなると限られてるから……」

「だったら最初は心霊博物館にしましょう」

 心霊博物館とは、古いものから最新のものまでさまざまな心霊道具やその他霊にまつわるものが展示されている博物館である。

 一同はそこに行くことになった。




「うわー!大きいー!!」

 霊子が子供らしい単純な感想を零すが無理もない。心霊博物館は全五階建ての巨大な建築物。一階は様々な土地の幽霊や妖怪について書かれた書物や絵がおいてある。

 二階には霊媒師が使っている道具やあやしい噂のある妖刀などの物騒なもの。ちなみに大半は偽物だ。

 三階には心霊研究者や霊能力者の幽霊に対する論文や調査結果が展示されている。

 四階にはパワーストーン【恐石】を加工することで例に干渉することを可能とした最新の心霊道具がおいてあり、入場者の大半はここを目当てに来ている。

 五階にはゲームセンター。格ゲー、パズルゲー、音ゲー、古いものから新しいものまでたくさんの種類のゲームがそろっている。

「さて、着いたところでさっそく四階に行きましょう。一から三階は行く必要はないですから」

「えー」

 羽衣狐の発言に霊子は不満を零すが、一階と三階の書物は面白みがあるものではなく、二階に展示されている道具も大半は偽物、とてもではないが子供が楽しめないことは真に見えている。

「時間は有意義に使いましょう。貴方はともかく私たちはタダで入れるわけではないので」

 心霊博物館の入場料は、大人は1200円、小学生以下は500円、幽霊は無料である。

「補聴器の調子はどうだ羽衣狐?前使っていたのは不良品だっただろ」

「よく聞こえる。高いだけあって性能がいいわよこれ」

 羽衣狐の使っている補聴器は、普通の補聴器ではない。耳に装着すると霊の声が聞こえるようになる優れもの。お値段300,000円。羽衣狐の財布が少し悲しいことになった。

 そんなやり取りをしながら、一同は四階へ……。

 四階には霊が見えるようになるメガネ、霊の声が聞こえるようになる補聴器、霊に触れるようになる手袋、その他さまざまな便利アイテムが展示されていた。

「うわー、欲しいものばっかりだ」

 これは羽衣狐の感想だ。心霊現象専門の探偵、安部清の仕事を霊感のない身で手伝うにはこういった道具が必要な機会が多々ある。気を抜くと霊子より楽しんでしまいそうだった。

 対して弟の清は興味がなさそうな反応だ。霊感のある清には、これらの道具は必要のないもの。楽しみなど見いだせなかった。

「退屈そうですねお客様、こちらの商品などはいかがですか?」

 そんな清を見かねてか博物館の従業員が凄そうな機械のところに一同を案内した。ヘルメットにたくさんの電線がつないであるような、そんな機械だ。

「こちらのヘルメットは頭にかぶりスイッチを押すと電流が流れる仕組みになっております。実は近年の研究で霊感のある人間はない人間と比べて脳の一部が発達していることが判明しまして、この機械は脳に電流を流してその部分を活性化させることで、霊感のない人でも一時的に霊感を手に入れることができるんです」

「へー、すごいな。羽衣狐、使ってみろよ」

「ええ。効果が本物だったら便利なんてものじゃないわ」

「あ、お待ちくださいお客様。それは……」

 羽衣狐は従業員の静止を聞かず、頭に取り付け、スイッチを押す。すると頭に少し強めの電気刺激が……。

「いたたたた!?」

 強い痛みに思わず声を上げるが、それでも機械は電流を流すのを止めない。そして十数秒後、ようやく止まった。

「おねーさん、補聴器なしで私の声聞こえる?ちゃんと見える?」

「もしかして霊子ちゃん。うそ、かわいい」

 羽衣狐は今、確かに霊感を得た。

「うわ、すごいわこの道具本物だわ」

 感心しながらヘルメットを外す。

「「うわ!?」」

 するとなぜか驚く清と霊子。

「お客様、そちらの機械は頭に電流を流すため、頭部に少し強い痛みが発生し、ヘルメットの中にたまった電流が髪の毛を引っ張り上げてしまうので、その……」

 従業員は鏡を取り出し、羽衣狐に見せる。

「きゃああああ!私のストレートロングヘアが、見るも無残なぼさぼさ頭に!」

「このようなことがあるので、本来は痛みに弱かったり、脳に異常があったり、髪型を気にするような方が使わないよう事前に説明してから体験していただくのですが……」

「話を聞く前に使っちゃってすみませんでした!」

「ぶははははは!似合っているぞ羽衣狐!今日一日はその髪型にしたらどうだ?」

「笑っちゃだめよおに―さん……ぷぷっ」

 霊感があるため、羽衣狐にも霊子のこらえきれない笑い声が聞こえた。

 この後洗面所で必死に髪形を整えた。


「さて、ではお待ちかね。五階のゲーセンに行きますか」

 頭にたんこぶを作った清が宣言した。

「笑いすぎたねおにーさん」

 霊子がそっとたんこぶを撫でようとするが、透けるので意味がない。

「ところで、なんで博物館にゲーセンがあるの?」

 霊子が疑問を零す。

「ようやく突っ込んでくれたか。それはな……なんでだ?」

 清も知らなかった。

「幽霊でも遊べる特別なゲーセンだからよ。五階は幽霊専用の娯楽施設。入れるのは幽霊とその保護者や友人などの関係者。普通の人は利用できないわ。ちなみにクレーンゲーム含め全部無料よ」

「「マジか!?」」

 この後テンションが上がった二人は大急ぎで五階に向かおうとして、館内では走るなと従業員に怒られ、羽衣狐は大恥をかいた。

「すっげー!何でもそろってる。格ゲーやろうぜ霊子」

「いや、私シューティングゲームしたい!」

「時間はたっぷりあるわ!全制覇する勢いで行きましょう!」

 全部無料なのだ。三人の遊び心に遠慮はなかった。


「おい霊子、そっちゾンビ来てる!やられるぞ!」

「うそ!早く言ってよ!うわ!」

 シューティングゲームで協力プレイをしたり……。


「もうちょい右だよおにーさん」

「まかしとけ!きたきたきた……とったどー!」

「54回、下手だねおに―さん」

「へただねおにーさん」

「うっせえ」

 クレーンゲームをしたり……。


「おねーさんは何してるの?楽しんでる?」

「テトリスをやってるわ。いまLevelMax」

「うそ、もう何が起こってるかわからない位画面がおかしい」

 羽衣狐がとにかくすごかったり。


「私この曲知らない!」

「死んだ後につくられたんだろ?この勝負もらったぜ霊子!」

「ずるい!もう一回」

 音ゲーをしたり。


「おい、格ゲーで長蛇の列ができてるぞ。幽霊がこんなに並んでるなんて、すごい光景だな」

「なんでもものすごく強い人がいて、挑戦するために並んでるんだって。おにーさん、挑戦する?」

「いや、やめとく。その物凄く強い人って羽衣狐のことだ」

「え?」

「百人斬りしたら切り上げるだろうから、それまで挑戦者の奮闘を見届けようぜ」

「おねーさんって何者?」

 羽衣狐がとにかくすごかったり。


 三人はとにかく楽しんだ。


「さて、もうすぐ閉館時間よ」

 外が暗くなりだしたころ、羽衣狐は楽しい時間の終わりを告げた。

「もう、未練はない?」

 羽衣狐はヘルメットの効果が切れたのか、補聴器とメガネをつけていた。

「……お父さんとお母さんに会いたい」

 霊子は、最後の未練を伝えた。本当は、遊びたいより会いたいが強かった。

「私は交通事故で死んだ。お父さんとお母さんと一緒に。気づいたら幽霊になってた。お父さんとお母さんはいなかった。ねえ、探偵さんなら、見つけられる?」

「「……」」

 二人の探偵の反応は、あまりいいものではなかった。

「幽霊は空を飛べるし、パスポートも金も必要ない。行動範囲が広い分、特定の幽霊の居場所を特定するのは困難だ」

「それだけじゃないわ。悪霊に食べられた可能性も、すでに成仏している可能性もある。警察も、生きている人間の行方不明者捜索で手いっぱいで、だからこそ私たちみたいな探偵に警察から直接依頼されたりするの」

「そっか……無理なんだね?」

「「……」」

 二人は、何も言えなかった。

「……会いたい。会いたいよ、お父さん、お母さん」

 泣き出した霊子の頭を撫でたのは、清だった。霊能力者ではない羽衣狐には、慰めるために霊子の体に触れることもできなかった。

「霊子、確かに今は特定の幽霊の居場所を知るのは難しい。けど、いつかは見つかる。だって、幽霊の存在自体怪しい時代からゲームができるまで進んだんだ。もしかしたら、案外すぐ幽霊の戸籍が登録される時代が来るかもしれない。幽霊同士で結婚したり、透ける身体を生かして災害救助を手伝ったり、特定の幽霊を発見する装置が開発されたり……だからさ、お前のお父さんとお母さんは、いつか必ず見つかる。そしたら、俺がお前の両親に娘は成仏しましたって伝えるから、お前はあの世で待っててくれないか?」

「おにーさん。それ、本当?」

「ああ」

「嘘だったら、あの世から呪うからね!」

「勘弁してくれ」

「約束、だからね」

「まかせろ。絶対守る」

「そっか。じゃあ心残りはないや。じゃあね。おにーさん、おねーさん。ありがとう」

「メガネから、青い光が消えた。……成仏したの?」

「ああ」

「……帰りましょう」

「……ああ」


 二人は帰宅後、警察に電話をかけた。

「そうですか。成仏しましたか。ご苦労様です。報酬は後日口座に振り込んでおきます」

「ああ、それと頼みがあるんだけど、あの子の両親の顔写真とかあったら、こっちに送ってくれない?」

「……悪用しないのなら構いませんが、幽霊の捜索難易度はご存じですよね?」

「それでも、約束したからな」

「……では、後日そちらに伺います。その時にお渡ししますね」

「ありがとな」

 電話を切る。


「さて、羽衣狐。……なにしてんの?」

 羽衣狐は必死にPCとにらめっこしていた。

「近年の交通事故の記事を調べてる。あの子の事件を今やっと見つけたの。事故の詳細が分かったら、両親の霊の居場所の手掛かりになるかもでしょ?」

「手伝ってくれるの?」

 あの時約束したのは、霊との対話がスムーズにできる清だけだ。羽衣狐は見ているだけだった。仕事でもない清の私情に手伝う義務も何もない。

「手伝うわよ。霊感がなくても、できることがあるならしてあげたい」

「……そっか。じゃあ、頑張りますか」

「ええ」


 両親の霊がいつ見つかるかはわからない。もしかしたらすぐ見つかるかもしれないし、何十年もかかるかもしれない。しかし、いつか行方が分かる時が来る。それだけは、確実だった。


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