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「何だと! リジエール伯爵が!!」

国王は真っ青な顔で立ち上がった。

「レニエ、早く勇者殿をリジエール伯爵に紹介しよう。そうすれば彼も落ち着いてくれるはずだ」

壁の箱に取り付いてその指示を飛ばそうとした国王をレニエは止めた。

「お待ち下さい、陛下!」

「どうしたのだ? お前もそのつもりだったのではないか?」

「いえ、このタイミングでリジエール伯爵が反乱を起こしたことが問題です。あまりにも事が性急すぎます。おそらく彼は随分前から準備を進めていたのでしょう」

「何だと!?」

「勇者召喚が失敗すると彼は見越していたのでしょう。その際に帝国に対して弱腰の外交をする陛下に自身の軍をもって退位を迫るつもりだったに違いありません」

「退位を迫ると言っても、私の子供は王女一人のみだぞ。しかも」

「ええ、仰る通りです。ですが、王女様が王位に就かれる際には、建国以来の不文律を持ち出して自身の息子を王女の夫にすることができます。そして息子を通じて国政をほしいままにできるようになります」

レニエの言葉に国王は難しい顔をして考え込んだ。

代わりに王妃が口を開く。

「でもレニエ。だったらなおさら、勇者が召喚されたことをリジエール伯爵に伝えれば」

「いえ、王妃様。リジエール伯爵がこのタイミングで反乱を起こしたことが、むしろ問題なのです。向こうは勇者が召喚されたことをすでに知っているでしょう。その上で反乱を起こしているのです」

「そうか! その人は魔族討伐とか帝国への援軍とかどうでも良くて、自分が国のトップに立ちたいんだな。で、その絶好のチャンスを俺が潰したから、既成事実になる前に強硬手段に出たのか」

レニエは目を丸くして俺を見つめた。

「驚きました。頭の回転は悪くないみたいですね」

「お前、俺を何だと思っているんだ?」

ジトリとレニエを睨んだが、彼は俺を無視して話を進める。

「ともかく、勇者を喧伝するのは悪手です。おそらく勇者が魔法も何も使えないことも知っているはず。『ニセ勇者』とか『失敗勇者』とか言って、国民を謀ろうとしていると陛下を非難してくるはずです」

「ではどうするのだ!」

焦る国王の言葉にレニエは即答した。

「逃げます」

「!?」

ギョッとして俺はレニエと国王の顔を交互に見たが、国王は意外にも落ち着いていた。

「そうか。レニエがそう言うならそれで間違いなかろう」

「はい」

レニエはローブの袖から童話の世界の魔法使いが持つような細い棒を取り出した。

「その窓から飛び降りて下さい。自由落下の魔法をかけます」

「分かった。そういうことだ、エレナ。しばしの別れになるが達者でな」

国王は王妃の手を握って別れを告げたが、王妃はその手を強く握りしめた。

「いえ、陛下。私も共に参ります」

「バカなことを!? そなたに危害を加えることは、伯は絶対にしないはずだ。ここにいた方がそなたは安全なんだぞ!」

「それでもです、陛下。いえ、ジョセフ。貴方と出会った時から私は一生貴方のそばを離れないと誓ったのです。私も連れて行って下さい」

「エレナ」


おーい、お二人さん。

感動的なシーンだけど、のんびりしている時間は無いのでは?


俺の心の声が聞こえたのか(いや、コイツの場合本当に聞こえているから油断ならないんだけど)、レニエが窓を開けて2人を急かした。


「お二人ともお早く! 王妃様もご一緒されるのでしたら、陛下のことはお願いします」

「はい! 行きましょう、ジョセフ!」

「エレナ、頼む!」

二人は手を取り合って窓から飛び降りる。

「勇者殿も早く!」

レニエが俺を手招きする。

「やっぱり俺も逃げなくちゃダメ?」

「ニセ勇者として処刑されたいのですか?」

「だよねー」

窓枠から下を見ると思いの外高くて、頭がくらりとする。

「何をぐずぐずしているのですか? さっさと飛び降りて下さい」

「いや、コレ、結構高さあるよ?」

「それがどうしたのですか? このまま塔にいても袋の鼠になるだけなのですから、早く飛び降りて下さい」

レニエは事もなげにそう言う。


コレだから魔法使いは!


覚悟を決めて俺は飛び降りた。


とはいえ、窓から飛び降りたこともないからどうしても頭から飛び込むような形になってしまう。

自由落下の魔法がかかっているとレニエは言ったが、なかなかのスピードで地面が俺の眼前に迫ってきた。


やばいやばいやばい!

コレ、絶対に頭からぶつかる!


思わず両手で頭を抱えて目をつぶった。


「貴方はバカですか? 頭から突っ込む人がいますか?」


呆れた声が耳元でしたかと思うと、クルリと体が反転し、トンと足が固いものに当たった。

目を開けるとレニエに腰の部分を抱かれたまま、地面に立っている。


「すみませんね。慣れていませんで」

「走るのは得意ですか?」

レニエは俺を無視して聞いてくる。

「人並み程度は」

「では、行きましょう!」

走り出したレニエの後を俺は慌ててついて行った。


窓から飛び降りて塔の外に出たのに、レニエはまたもや塔の入り口へと戻った。

そして塔の中に入ると、扉を閉め、何かを唱えて棒を扉に向けて振る。

「早く! こちらです!」

レニエの後に従いながら塔の地下へと行くと、見覚えのある広間に行き着いた。

「レニエ! こっちだ!」

広間の奥で国王が手招きしている。

行ってみると、壁の一角に人一人が通れるぐらいの穴があった。

「抜け穴!」

「そうだ! 王都の郊外までつながっている。勇者殿も早く!」

国王の手招きに従って抜け穴に入ると、穴の扉をレニエがまた棒を振って閉める。

一瞬穴は真っ暗になるが、すぐにポゥッと明かりが灯った。

よく見ると列の先頭にいる王妃もレニエと同じような棒を持っていて、その棒の先が明るくなっている。

すぐに背後にも明かりが灯り、周囲を見渡せるようになった。

石造りの抜け穴に王妃を先頭として、国王、俺、レニエの順に並んでいた。

「道案内をお願いできますか? 王妃様」

レニエの言葉に王妃は頷くと歩き出した。

「塔の中に抜け穴があるなら、窓から飛び降りなくても」

「そちらの方が早かったですので」

恨みがましく愚痴る俺にレニエはシレッと答える。

「私が突然いなくなったら、城内の者は驚くだろうなぁ」

国王がしょんぼりとつぶやくとレニエは冷静に返した。

「それは大丈夫です。弟君の騎士団長が城内の騎士をまとめてくださるそうですから。陛下が逃げるまでの時間を稼いだら、騎士たちと共に陛下の元に参りますと、そう申していました」

「おお! アランがそう言っていたのか! なら、大丈夫だな」

国王はニコニコと笑った。


本当に、大丈夫なんですか?


俺はそっとレニエを見る。

俺の視線に気づき、レニエが目配せをする。

「詳しいことは後で」と言っているその表情に、俺は国王の背中を見つめた。


もしかして、そもそもの元凶って、この国王なんじゃ!?

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