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「すみません。仰っていることが理解できなかったのですが、もう一度お願いしてもいいですか?」

「ええ、ですから。我々はあなたを元の世界に戻す方法は知りません」

「・・・・・・」


 ニコニコと悪びれもしないで微笑むレニエ。

 そのレニエを無表情で見つめる俺。


「ふざけんなぁ!! 元の世界に返す方法も知らないで、召喚なんてするなよな!!」

「その点は大変申し訳なく」

「いや、謝って済むことじゃないから! 何? 元の世界に帰れないってどういうこと? 俺、一生ここで暮らすの?」


 さようなら、俺の安定職業


「いえ、方法を知らないだけで帰れないわけではないと思うのですが」

「思うって何だよ! 確実なことを言ってくれよ! で? 帰れるの? 帰れないの?」

「現時点ではいささか難しいかと」

「帰れないなら帰れないとはっきり言えよ!」

「現時点では難しいとのみしか」

 それからレニエは人の悪い笑みを浮かべた。

「ですので、勇者殿にいたしましても、我々に協力するのは決して悪いことでは無いかと」


 この野郎!


 俺は怒りで拳を握りしめた。

 レニエの言う通り、魔法も使えない俺はこの世界では役立たずだ。

『勇者』という肩書きで生きていくしか方法が無い。


「で、何をすればいいんだ?」


 どかっと椅子に座るとレニエは嬉しそうに立ち上がった。


「ありがとうございます。早速ですが陛下、我が国の窮状を勇者殿にお伝えしても?」

「ああ、そうだな。それがいい」

 国王も立ち上がりながらコクコクと頷いた。


 先ほどのテーブルの周りに皆で腰をかけると、レニエがおもむろに口を開いた。

「先ほど少しお伝えした通り、この世界は今魔族の侵攻を受けています」

「で、勇者の活躍で追い返したんだろ?」

「はい。今から1000年前、オポジール山脈のさらに奥、グラキエース峡谷まで彼らを追い詰め、そしてその峡谷に二重の魔力防壁を張り、大陸の大部分から彼らを追い出すことに成功しました」

「だったら、何で勇者が必要なんだよ」

「魔力防壁は堅牢で、さらには最前線で魔族と戦っていたカスターニャ帝国の精鋭がその防壁の守備にあたっていたのですが、ここ4、50年でその防壁に綻びが出てきたようなのです。防壁の内側でしばしば魔族の姿が確認されるようになり、ついには要塞の一つが魔族に占拠される事態となったのです」

「え! それはマズイんじゃ!?」

「はい。ことココに至ってカスターニャ帝国は諸国に援軍の要請を出しました。各国がその要請に応えている中、フィアビタンス王国は諸侯の反対にあい、援軍を出すことができなかったのです」

「何でまた? 魔族が攻めてきたらマズイんじゃないの?」

 レニエは深いため息をついた。

「フィアビタンス王国はそもそも魔族との戦いから逃れて来た者たちで作った王国なので、魔族と戦う戦士がいない。というのが表向きの理由です」

「表向きというからには裏の事情があるのか?」

「フィアビタンス王国は一応人間の国王によって建国されていますが、その実はエルフたちによって建国されたも同然なのです。ですから、この国ではエルフ、そしてエルフの血を引くハーフエルフが実権を握っています。彼らは自分たちが暮らす森から離れて戦うのを嫌うのです」

「でも、魔族が攻めてくると困るのはエルフも同じじゃ?」

「それが、そうでもないのです。フィアビタンス王国はグラキエース峡谷に張られている魔力防壁と同じ防壁で守られています。さらにエルフたちは、森から出なければこの世界最強の魔法使いでもあるのです。彼らが自分たちの森だけを守る分には、多少魔族が攻めて来ても問題はないのです」

「あー、保身に走ったのか」

「それでもしばらくは金銭とか穀物とか、いわゆる後方支援で誤魔化して来ていたのですが、ここ最近私たちの懐事情もかなり苦しいものになってしまって」

 レニエはチラリと国王を見た。

 国王は「?」という顔で首を傾げる。

 レニエは小さく首を振って続けた。

「もうこれ以上支援は無理。援軍を出すにしても諸侯は依然反対しているし、義勇軍を募っても誰も集まらない。国王軍も財政難のため最小限に切り詰めているから他国に送る余裕は無い。何とか外交交渉で引き延ばしをはかっていた時に、帝国の側から思いもかけない条件が提示されたのです」

「条件?」

「フィアビタンス王国の一地方に伝わる魔法儀式についてです」

 そう言ってレニエはジッと俺を見た。

「まさか! 勇者召喚!?」

「ご名答です」

 レニエはコクリと頷いた。

「『勇者召喚に成功すれば、その者は一軍に匹敵する』。正式な要請ではありませんでしたが、外交すじからの内々の打診に我々も飛びつかざるを得なかったのです」

「それで俺か」

「成功するとは正直思っていませんでした。でも試してみる必要はあると儀式を行なってみたんです」

「あー、まぁ、期待に応えられず、すみませんでした。でも、それだったら俺が『勇者』として帝国に行けば、問題解決となるのかな?」

「行ってくれるのか!?」

 国王が嬉しそうに目を輝かす。

「まぁ、行くだけなら」

 それ以外一切役には立ちませんが、と思いながら頷こうしたら、レニエが顔をしかめた。

「私は反対です」

「なぜだ? せっかく勇者殿がその気になってくださったのに」

「陛下、よく考えて下さい。魔族と1000年戦ってきたあの帝国が、『勇者』という不確かな伝承にすがり始めた。これは非常に危険な兆候ですよ。帝国軍だけで魔族を追い返せなくなっているということですから」

「魔族がいきなり強くなったか、帝国軍が弱くなったか」

 レニエは俺の言葉に頷いた。

「どちらであったとしても、由々しき事態です」

「しかしそなた、勇者召喚については反対しなかった。いやむしろ、積極的に動いていたではないか」

「それは、ほぼ失敗すると思っていたからです。ただ、『した』という事実だけを帝国に見せておけば時間かせぎになるかと。とにかく、今勇者殿を帝国へ送れば、魔族との戦いの最前線に送られること必定でしょう。そして命を落とされるだけです」

「それはいかん。勇者殿に申し訳無い」

「ええ、我々も『ニセ勇者を送った』と帝国からあらぬイチャモンをつけられるでしょう」

「おい」

 俺はレニエをジト目で見た。

「もう少し俺に気を使ってくれてもいいんじゃないか?」

「何がですか?」

 キョトンと返すレニエにため息をついた。

「いや、いいです。続けて下さい。お金もない。援軍も出せない。勇者はポンコツで送れない。どうするのですか?」

「そうですね」

 レニエはアゴに手をやり、考え込む。

「こういうのはどうでしょう? とりあえず勇者が召喚されたと国内外に大きく喧伝します。そして勇者軍の義勇兵を募集するのです」

「集まるのか?」

「集まらなくても、勇者の名の下に募集をかければ、諸侯は兵を出さざるを得ないでしょう。彼らにだってプライドはありますからね。その軍団で一応帝国に援軍に向かいます」

「え!? 俺、魔族討伐とか無理だよ!?」

「そこはそれで。できるだけ前線に出なくて済むようにサポートします。こうすると援軍を出した体裁だけは整いますので、適当なところで適当な理由をつけてさっさと帰りましょう」

「大丈夫かな〜。それこそ『ニセ勇者』って疑われない?」

「例え疑われても、援軍を出した事実は変わらないので、帝国も強くは要請できないでしょう。何より、義勇兵募集、援軍組織などなどでだいぶん時間はかせげるかと」

 それからレニエは国王の方を向いた。

「どうでしょうか? 陛下」

「うん。レニエが良いと思うならワシはそれでいいかな。エレナはどう思う?」

 国王は王妃を見る。

「私も陛下と同じ意見です」

 王妃もコクリと頷いた。

「勇者殿はどうですか?」

 俺は顔をしかめた。


 どうですかって言われてもなぁ。

 それ以上の策なんて思い浮かばないし。


「言っておくけど、戦いに一切俺は役に立たないからね!」

「もちろんです。さて、明日から準備が忙しくなりますよ」

 レニエは立ち上がって、パチンと指を鳴らし、先ほどのブラウニーを呼ぼうとした。


「陛下! 大変です!」

 壁から突然声が出てきて、俺は文字通り飛び上がった。

「え? 何? 何で声が突然?」

「勇者様、落ち着いて下さい。遠くの者と話ができる魔法道具です」

 王妃が指し示した先を見ると、壁に箱のようなものが取り付けてあった。


 無線機のようなものかな?


 のんきに箱を眺めている俺とは違い、箱からの声は切迫した声で叫んだ。


「反乱です! リジエール伯爵が反乱を起こしました!」

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