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第一章

子どもの頃ある民話が好きだった。

それは、一つの手袋の中に、カエルやウサギ、キツネやオオカミが仲良く入る話だ。

暖かい手袋の中、敵も味方もなく手袋の中にいる動物たち。

そのなんとも言えない温かい情景が好きで、何度も両親にねだってその話を読んでもらった。

その両親は交通事故でこの世にいない。

両親が死んでから、親代わりに育ててくれた祖父母も病でこの世を去った。

天涯孤独の身となった俺だが、幸いにも祖父母が残してくれた貯金で、大学だけは卒業できた。

そして今、地方公務員に採用され、生涯安泰の道を歩もうとしている。


「行ってきます」

仏壇に手を合わせ、四人の位牌を拝んだ後、俺は立ち上がった。

地方大学の社会政治学部を卒業した俺は、何とか県職員の採用試験に受かった。

別に公務員になりたかった訳ではないけど、天国の両親や祖父母を安心させる職業を、と思うと自然と公務員になった。

とはいえ、有名大卒でもなく、コネもない俺が県庁勤めになるはずもなく、県内にある僻地の事務所所属だ。

なんでも配属される部署は「農村計画課」だとか。

「『農村計画課』って・・・」

俺は苦笑する。

農学部卒でもない俺に、一体どんな仕事があるのだろう。

日がな一日、電話番をさせられる予感しかない。

それでも公務員に決めたのは、ただひたすらに『安定職業』だったからだ。

夢も希望もないが、コレが現実。

俺は諦めるように頭を振ると、一歩前へと歩み出した。


その途端だった。


足元がグラリと揺れる。

「地震!?」

慌てて壁につかまろうとして、手が空を切る。

グラリと体は傾き、床が眼前に迫る。

ーー危ない!!

俺は床に手をついた。


・・・はずだった。


その手はまたもや空を切り、転びそうで転ばなかった間抜けな格好のまま、俺は立っていた。


ーーどこだか知らない場所でーー


「え? あれ?」

俺はキョロキョロとあたりを見回した。

そこは六畳一間のボロアパートではない。

なんだか薄暗く妙にだだっ広い部屋だった。

そしてそこには、俺を取り囲むようにフードをかぶった人影があった。

「あれ? 俺、確か」

自分の部屋にいたよな、と顔をつねる。

一応痛みを感じるから夢ではないらしい。


いや、待て待て待て!!


俺は頭を振った。


夢でないとおかしいだろ!


俺は確かに六畳一間のアパートの一室に一人でいた。

なのに、今は薄暗い石造りの広間で、数人の人物に取り囲まれていた。

彼らは口々に何かを言っていたようだが、雑音がひどくて何を話しているのか分からない。

「すみません。なんて言ってるのですか?

ちょっと聞き取りにくいのですが?」

俺は耳をそば立てて彼らの声を聞き取ろうとした。

だが雑音がひどくなるばかりで、余計に彼らの声は聞き取りづらくなった。

「あの」

なおも声を張り上げようとした時だった。


(すみません。あなたはこの世界の言葉が分からないのでしたね)


突然頭に響いた声に俺はびくりとした。


なんだ、コレ。骨伝導か何かか?


今までに感じたことのない感覚に俺は頭を振る。

すると声がまた俺の頭に響いた。


(ちょっと待っていてくださいね)


そして、パチンと耳と目の回りに電流のようなものが走る。

その途端だった。


「まさか、成功するとは?」

「では、あの伝承は本当だったのか?」

「となると、もう一度勇者について調べ直さねばなるまい」

「いや、その前に彼がどのような能力を持っているかだ」


雑音だと思っていたものが全て人の話し声となった。

そして、俺を取り囲んでいる人影の中から一人が歩み出た。

「良かった。これで言葉は通じますね」

彼はフードの奥からにっこりと笑う。

「ええと、あなたは?」

まだ状況がまったくつかめてはいないが、ともかく目の前の人物に聞いてみないことには何も分からなさそうだった。

「失礼しました。私はこの国の宮廷魔導士をしていますレニエと申します。ようこそ、勇者殿。フィアビタンス王国はあなたを歓迎します」

「は? 勇者?」

「はい。あなたは、この世界、つまりあなたの世界でいうところの異世界へと召喚された勇者なのです。そしてこの世界を救う救世主でもあるのです。さあ、私たちと共に魔族を倒しましょう」

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