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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
98/127

取引と甲高い音

(98)


「ヤチノ?ヤチノって言ったのかい?!」

慌てて振り返ったベニは、思わず何段か階段を駆け上がった。

若者は、何かまずい事をしてしまったと思ったのか、口に手を当てたまま一層青ざめた。

「お前さん!ヤチノなのかい?!」

ベニは尚も急かすように尋ね、また数段駆け上がる。

「あの子は…咲はどうしたんだい!」

“咲”その単語で、大男の肩がピクリと反応した。

「答えな!どうしてお前さんと一緒じゃないんだ。咲はどうしたんだ!」

焦れたベニは勢いよく飛び上がると、男と若者の前に降り立った。

若者はヒィーと情けない叫び声を上げ、大男の影に隠れる。

「まさか…その人型、あの子が関係してるんじゃないだろうね?」

鋭い目線に、重く響く唸り声。

事の次第によっては容赦しない、そうベニの体全体が言っていた。

「ち、違います!ヤチノさ…」

「黙りな!お前さんに聞いてんじゃないよ!」

もはや泣き声の若者は、反論虚しく一蹴された。

「…どうして黙ってんだい。なんとか言ったらどうなんだ!」

口元に火をちらつかせ、ベニは叫んだ。

男は、どこか目線の定まらない目でポツリと呟いた。

「浅野は…捕らわれた。捕らえたのは、私だ。」

その瞬間、ベニの口から火の球が放たれた。

「ヤチノさん!!」

若者の叫び声。

そして、黒い塊が火の球へと突っ込んだ。


「申し訳ない、何か失礼な振る舞いをしたようであるな。」

軌道を変えられた火の球は階段を直撃し、巻き上がった砂煙越しに見知らぬ声が響いた。

「ど、うして…貴方が…?」

徐々に開けていく視界に映った見知らぬカラス。

ベニは目を細め、突然の乱入者の動きに警戒した。

「…お前さん、なんだい。あたしはコイツとはなしてんだ。邪魔してんじゃないよ。」

ベニはカラスから目線を逸らすことなく、顎先で男を指した。

「それは失礼した。しかし、今はそんな事をしている場合ではなかろう?

聞けば、お主。何やらあの人間に用があるのではないか?」

途端にベニの目は大きくなり、ギリリと奥歯を噛みしめる音がした。

「お前さん、何か知ってるね?咲は、あの子はどこだい。」

カラスはじっくりとベニの顔を堪能すると、不意に後ろを振り返った。

「カヤノ、人間は予定通りか?」

唐突に振られた若者、カヤノはビクっと身体を震わせたが、大きく頷いた。

「は、はい!ブルノさん!人間は、シメノとフイノさんが移送中です。」

ブルノは満足げに頷くと、ベニに向き直った。

「さて、狐殿。…わしと取引をしまいか?」



「だぁーーかぁーらぁ、ごめんて。

ちょーっと強く回し過ぎちゃっただけじゃん。

もぉー…シメノさんからもなんとか言ってくださいよ。」

「…誠意の欠片も感じられないね、あんた。」

あの恐怖体験から数分。

不覚にも気を失っていたフイノは、目を覚ましたと同時に咲から遠く距離を取った。

はっきり言おう、咲がトラウマを植え付けたのだ。

「話しかけるな。貴様の謝罪など受ける気はない。」

当然、烈火のごとく怒り狂ったフイノだが、咲に近づくことが出来ず…結果、この距離の抗議である。

「確かに、やり過ぎたのは認めます。…さぁーせん。

でも、そっちも悪いんですからね!きっかけはフイノさんですから!」

腰に手を当て、びしっと指を突き出した咲はそう高らかに言っておける。

「な、何をぬかすか!小娘がぁ!!只でさえ神聖な戦士の体を、あろうことか…貴様分かっているのか?!これは重罪なるぞ、戦士の誇りを汚しおって!!」

5~6mあまり離れた距離からそう叫ぶフイノ。

残念ながら、場所は洞窟という悪条件である。

声は何重にも反響し…何を言ってるのか分からなかった。

「はぁー?何を言ってるのか分かりませんけど?!

馬鹿なんですかー?」

よせばいいのに、そう突っかかる咲はフイノの血圧を尚も上げていく。

「き、貴様ぁー!そこにいろ、今すぐその生意気な口を使えなくしてくれる!」

フイノもフイノで、何も律儀に反応しなくていいのに。

シメノは既にこの状況に飽き始め、早く終わらないかなと白けた顔で見ていた。

「やれるもんなら、やってみんかい!」

もはや引き際迷子の咲は、ご丁寧に挑発する。

「よーっし!いざぁ!」


その瞬間、咲の耳に甲高い音が響いた。

耳をつんざく程ではないが、不快なその音に一瞬目をつぶる。

しまった…!

慌てて目をこじ開けた咲はそこで、地面に伏して苦しむ2体を見た。


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