表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
97/127

人型と恐怖体験

(97)


「へぇー!あたしに指図するったぁ、いい度胸じゃないのさ!」

ベニは相手を挑発するように言うと、向こうの出方を待った。

すると、大男の脇に控えていた小柄な男がすぐさま噛みついた。

「偉そうな口きいてんじゃねぇー!早く上がってこいっつぅーの!」

声のトーンや口の利き方など、若さゆえの無鉄砲さが感じられる。

ベニはじろりと睨みつけたが、距離があるせいか、または大男が横にいるせいか、若者は負けじと睨み返してきた。

「我々に敵意はない。ただ、対応するよう言われてきただけだ。」

一見、不愛想な物言いの男だが、その言い方にベニは既視感を覚えた。

まさか、そんなはずは…。

「お前さん等に敵意がないなんて、どうして分かるってんだい!

そもそも、お前さんはカラス族なのかい?!」

ベニの問いかけは至極まっとうなものだった。

それはそうだ、彼らは人型をしているのだから。


「何を当たり前のこ…」

大男は、はっとしたように固まった。

そして、おもむろに自らの身体を見下ろし、愕然とした顔になった。

見かねた若者は、フォローするように叫ぶ。

「こ、これには深い訳があんだよ!だけど、俺らはカラス族で間違いねぇーよ!」

ベニは再び眉を寄せ、訝し気に見つめる。

「その訳ってぇーのはなんだい?」

若者は男をチラチラ見ては困ったように口を閉ざし、男は未だ呆然としたままだ。

「…言う気がないのなら、あたしはもう行くよ。

クロノメの旦那には宜しく伝えとくんな。

まぁ、お前さん等がカラス族であるのなら、の話だけどねぇ。」

ふいっと背を向けたベニは、ゆっくりと歩き始めた。


「ま、まって!待ってください!お願い行かないでー!」

数歩と進まぬ内に、若者の情けない声が響いた。

ベニは面倒くさそうに振り返ると、視線だけくれた。

若者は明らかに青ざめており、男とベニを交互に見てはアワアワとするばかりだった。

「もういいねぇ?」

そう言い終わる前には既に背を向け歩き出すベニ。

「ああああの、待って!違うんです!ああヤチノさん、どうしたら…俺!」

パニック寸前の若者が叫んだ名前。

ベニは勢いよく振り返った。

「ヤチノ?ヤチノって言ったのかい?!」



「今頃、上手くやってますかね?」

時を遡り、ヤチノとカヤノを見送った一行は、また歩みを進めていた。

「さぁね。あのバカが足引っ張てなきゃいいけど。」

そう憎まれ口を叩くシメノだが、その表情は明るい。

「というか、あんた。何くつろいだ顔してんの。

分かってるわけ?自分が置かれた状況を。」

「…あ、はい。ワカッテオリマス。」

鋭い突っ込みに苦笑いを浮かべた咲だったが、なぜか不安は感じていなかった。

「シメノ、人間と会話するんじゃない。

人間、お前も舐めた態度を取っていると…分かってるな?」

数メートル先を飛行していたフイノは、咲の前に降り立つと脅すように睨みつけた。

…咲はどうも、このフイノというカラスが好きになれないらしい。

途端に無言となった咲は、フイノを冷たく見下ろした。

「へぇー…どうなるんですかぁー?教えてくださいよ。」

しばしの沈黙のあと喧嘩腰で食って掛かった咲に、フイノも睨み返していたが、唐突に薄ら笑いを浮かべた。

「…ふっ。やはり伝聞というのは当てにならんもんだ。

すまんな、人間。わしは少々買い被り過ぎていたらしい。」

そう憐みとも取れる表情をしたフイノは、再び飛び上がろうとした。

その瞬間、勢いよく振り下ろされた手がフイノの体を拘束した。

「…確かに。あんたらに伝わる話は夢物語だわ。

人間、そんなにハイスペックに出来てねぇんだわ。

でもね…自分で言うならまだしも、他人に否定されんのはクッソ腹立つ!

カラスの丸焼きにしてやろうか!あぁん?!」

そう叫ぶや否や、咲は思いっきりフイノを振り回した。

「や、やめ!やめろぉー!」

「ああ!?聞こえませんが、カラス様ぁ?!」

その後、シメノの笑いを含んだ制止がかかるまでの数分間。

フイノは生涯に渡る恐怖体験となったのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ