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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
96/127

大男

(96)


「…ヤチノさん…。」

「なんだ。」

「あ、あのー…その…。」

フイノ達と別れた2体は、指示のあった場所へと急いでいた。

カヤノは空中を飛行し、ヤチノは…陸路だ。

彼らカラス族といえば、空中のエキスパート。

その飛行技術があってこその戦闘族、と言っても過言ではない。

その反面、陸路は…。

「すんません!俺、はっきり言います!

ヤチノさん遅いっす!!」

しびれを切らしたカヤノは、とうとうその事実を告げた。

「…そうか。それは悪い。しかし、私は飛べぬ。」

ヤチノとて言われなくても分かっている。

しかし、飛べぬ以上どうすることも出来ない。

2体の間には、しばしの沈黙が降りた。


「あっ!いや…うーん、これだったらいけなくも…でも…」

何事か閃いたらしいカヤノは、一瞬その瞳を輝かせた。

しかし途端に渋い顔となり、ヤチノを見ては悩んでいる様子だった。

ヤチノはというと、黙々と歩みを進めてはいるが、遅々として進まない歯がゆさに苛立ちを募らせていた。

「…もう、判断つかねぇから聞いちまった方が早いか?」

ブツブツと独り言を呟いていたカヤノは、すっとヤチノを見下ろし覚悟を決めた。

「ヤチノさん!もしかしたら嫌がるかもなんすけど、提案があります!」


「なんだ。」

ムスッとした声で聞き返したヤチノは、意図せずカヤノを睨み上げた。

カヤノはビクっと体を震わせ、途端に後悔の波が押し寄せる。

やっぱり…言わない方がいいかな。

自分の浅はかな考えで、ヤチノを不機嫌にさせたらどうしよう。

それに…。

カヤノは別れ際に聞いたフイノの懇願を思い出した。

…やっぱり、なし!

「あ、ぁ…すみません。やっぱりな…」

“しっかりしな!兄ちゃんだろ?”

その時、カヤノの胸に響いたのはあの生意気な人間の言葉だった。

…そうだ、こんな時シメノだったらどうするのだろうか。

『はぁ?そんなのやってみないとわかんないでしょ。』

カヤノの脳内に浮かんだ弟は、いつかの姿。

そうだよ、言ってみないと何も始まらないじゃないか!


「ヤ、ヤチノさん!あの、あの…人型になってみませんか!」

怖くて下を向いて叫んだ。

どうしよう、怒鳴られたら…。

早鐘を打つ心臓、カラカラに乾いた口。

む、無理だ…!やっぱり俺にはシメノのようには…

「す、すみま…」

「わかった、どうすればいい?」

「へ?」

あまりにもあっさりと返ってきた承諾は、カヤノを呆けさせた。

「時間がない、カヤノ。」

カヤノを真っ直ぐ見上げるヤチノの目は、ただ真剣で澄んでいた。



「くっそ!なんだってんだい。…ここに来てからこっち、イライラしっぱなしだよ、まったく!」

ポツンと残されたベニは、牙を剥き出し、苛立ちを発散させるがごとく唸っていた。

「好きにしたらいいじゃないのさ!あたしは元々、なんの関係もないんだし。

たまたま、そう!たまたま、あいつ等が近くに現れただけじゃないか。

…そうだよ!何をノコノコとこんなとこまで来てんだか。

ほんと、あたしもついに焼きが回っちまったもんだ。

とんだいい子ちゃんになっちまって、情けないねぇまったく!」

散々吠えたベニは、ため息を1つつくと、ふと真顔になった。

「そうさ…あのボーヤが望んだことじゃないか。

よそモノのあたしが口出すことじゃない。

良かったじゃないのさ、これで望んだ通りになる。」

そう呟いたベニは、登っていた階段に背を向けた。

「…もうあたしは必要ないんだ。

帰ろう。ここは…あたしのいるべき場所じゃない。」

一歩、また一歩と階段を降りる。

「そうだよ、あたしがいるべき場所はここじゃない。

あの子の元に帰らないと…。」

ベニの脳内に浮かぶのは、温かくも穏やかな我が家。

帰ろう、咲を連れて戻ろう。

そして一切を忘れてしまおう。

簡単なことさ、これまでもそうやってきたじゃないか…。

「お前が、紛れ込んだ狐か!」

「!」

あと少しで降りきるという時、突然背後から大声が聞こえた。


ぱっと振り返ったベニは、最上段から見下ろす大男に眉を寄せた。

「…そうだと言ったら、なんだってんだい!」

誰だ…人間?

ベニは訝し気に見つつも、すぐ攻撃に入れるように上体を低くした。

「お前の対応をするよう指示を受けた。こちらに来てもらおう。」

大男は仁王立ちでそう告げると、ぎこちなく左右に揺れながら前へと進み出た。


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