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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
95/127

最終判断

(95)


胸が苦しい。

こんなに力いっぱい走ったのは、いつ以来だろうか。

息が上がる。

もう立ち止まってしまいたい。

足に力が入らない。

なんで…涙が止まらないのだろうか。

「おや…どうされました、アカキノ殿?」

顔を上げたその先には、全てを包み込むようなクロノメの微笑みがあった。

そうだ、そうだった。

わしの仲間は…彼らだ。

「いえ、どうもしておりませぬ!」

この瞬間、アカキノの中にあった疑惑は跡形もなく消し飛んだ。

「それは、ようございました。」

クロノメはニッコリと微笑んだ。


重い足取りで一歩、また一歩と階段を登る。

「言い過ぎたよ…ごめん。これじゃ、素直すぎるかねぇ?

お前さんの視界をクリアにしてやったのさ!…高飛車すぎるねぇ。

許しとくれよ、お前さんの為を…

なぁあもぉぉ!

なんだってあたしがこんな事で悩む必要があるってんだい!」

ベニはふーっと鼻から息を吐き出し、頭を軽く振った。

「…まったく、あたしもぬるくなっちまったもんだ。」

そうポツリと呟いたベニは、ふと階上を見上げた。

その途端、見計らったかのようにカラス達は一斉に飛び立った。


「ベニ様、私どもは先に会場へと向かっております。

しかし、ご安心くださいませ。

ベニ様のご案内に抜かりはございません。

ごゆるりとお越しください。」

クロノメの声は、数多のカラス達が巻き起こす羽ばたきの中、不思議とよく響いた。

「そして、アカキノ殿たってのご希望により。

私どもと親交を深めるべく、ご一緒することとなりました。

お優しいベニ様、ご心配には及びません。

どうぞ、ごゆるりとお越しくださいませ。」

その言葉を最後に、カラス達は次々に屋敷の中へと姿を消していく。

「ちょ、ちょっと待ちな!何を勝手なこ…」

“アカキノ殿たってのご希望により”

「ちっ…。」

気が付くと、あれほどいたカラス達は姿を消し、ベニだけが取り残されていた。



地下牢を出発して数分、突如フイノが立ち止まった。

「待て。」

彼は短く指示を出すと、どこか一点を見つめたまま動かなくなった。

「…?」

不思議に思った咲は、シメノを振り返り尋ねた。

「シメノさん、あれはいったい…?」

「ああ、交信してる。なんかあったのかもね。」

シメノはフイノを一瞥すると、事も無げに言った。

「え!交信?!…すごいですね。そんなことも出来るんですか。」

「え?何言ってんの。人間も…なんだっけ?何かを使って交信してるんでしょ?」

シメノの返答は、咲をうんざり顔にした。

またか。

また、なんちゃって人間情報か。

ケッと顔をしかめた咲だったが、いや待てよと、考えを改めた。

確かに、言われてみれば何かしらの媒体を使って交信はしているか。

なんだ。あながち間違った情報ばかりではないのか。

「シメノ君、失礼した。」

「は?」

やれやれと肩をすくめる咲に、シメノは冷たかった。


「カヤノ!」

またしても唐突にフイノが叫んだ。

「は、はい!」

突然の名指しに、カヤノの肩が飛び跳ねる。

「予定が変わった。お前とヤチノ…は、別行動だ。急げ!」

焦った様子のフイノは短く指示を飛ばすと、2体を急かす。

「え、そ、ま…?」

え?そんな!まじすか?!

頭文字しか発せなくなったカヤノは、明らかに動揺していた。

その目はさっとシメノに動く。

その途端、フイノの顔は一瞬で険しくなった。

「カヤ…」

「どこだ?」

今まさにフイノの雷が落ちようとした瞬間、ヤチノは静かに遮った。

フイノは一瞬呆けたような顔をしたが、はっと我に返る。

「はい、クロノメさんから指示が飛びました。

入口付近に直行せよ。狐が1体待っている。対応せよ、とのことです。」


咲は少し混乱していた。

彼らのやり取りから、思わぬ事態となったらしいことは察せられた。

しかし、あまりにも突然のフイノの変化に戸惑っていたのだ。

「わかった。…カヤノ、行けるか?」

「はい!喜んで!」

カヤノは食い気味に返事をした。

憧れの相手に直接尋ねられたからだろうか。

彼の目はキラキラと、それはもう喜んでいる。

「では行くぞ。」

「はい!」

2体は動き出そうとした、その瞬間。

「ヤチノさん!」

フイノが思いつめたような顔でヤチノを呼び止めた。


「…ヤチノさん。これを貴方に言ってもいいものか、私には判断がつきません。

なので、私の独り言と考えてください。

貴方は今、首の皮一枚で繋がっている状態です。

そして今回の指示は最終判断です。

貴方がどう動くのか、カラス族にとって必要なのか…見られていると思ってください。

…私は、まだ貴方から学びたいことが沢山ある。

貴方の部下でありたいのです。

どうか、どうかそのこと…忘れないでください。」

フイノの独り言という名の懇願は、ヤチノに届いたのか。

彼は小さく頷くと、カヤノを連れ足早に去って行った。


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