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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
90/127

納得の現実と趣味

(90)


「その望み叶えましょう!」

そう、人間は言った。

それが何を意味するのか、ちゃんと分かっているのだろうか…。

シメノはそっとため息をつき、自信有り気に笑う咲を見た。

「そう。それじゃあ、よろしくね。」

シメノは少しだけ笑ってみせた。

この雁字搦めの世界から抜け出す為に、よろしくね。



「若!そのような…」

「さぁ皆のモノ、いざ参ろう!」

ヨギノの言葉はもはやアカキノには届いていなかった。

くるりと向きを変え、颯爽と歩み出した彼の視線は、ただ前方にのみ注がれている。

「ベニ殿!若は…ああ、若は…!」

悲痛な叫びを上げるヨギノは、無意識に見切りを付けているのかもしれない。


アカキノを無理にでも引き止めようと思えば出来たはずだ。

しかし、結局はベニに助けを求める。

アカキノもヨギノも、本質はよく似ている。

天狗族が存続の危機に瀕しているのも、駒の1つとして利用されようとしているのも、残念ながら納得の事実だ。

ここでベニが助言すれば、少しは改善されるのかもしれない。

しかし、その後はどうなる?

また困ったら誰かに頼るのか?

もはや彼らに残された道は…痛みを伴うものでしかない。

「見れば分かることさね。…お前さん等の選んだ道さ。」

ベニは努めて冷静に言い放った。

瞬く間にヨギノの顔は歪み、ベニの良心はチクリと痛んだ。



なんて人間らしい表情をするのだろう。

咲はシメノの笑みを見てそう思った。

それはヤチノも同じだったらしく、長らく口を閉ざしていた彼はポツリと呟いた。

「まるで人間の娘のようだな。」

その呟きは思いのほか響き、カヤノとシメノ両者にもしっかりと伝わった。

露骨に顔をしかめるカヤノと、ほんのり頬を染めるシメノ。

両者の反応は相反するものとなった。


「えっと…私はまず何を?」

咲は慎重に口を開いた。

彼女にとって千載一遇のチャンスかもしれないのだ。

下手な事を言って、相手の機嫌を損ねるわけにはいかない。

シメノは軽く宙を見上げたかと思うと、不意にカヤノへと視線を転じた。

まるで今思い出したかのような反応である。

「カヤノ、そういうことだから。私は…死んだとでも思っておいて。」

じゃあ、と本当に軽い足取りで咲の元へと歩き出したシメノだったが、カヤノが黙っているはずがない。

「おい、待てよ。そんなことで、俺が納得するわけないだろう!」

当然のごとく激高したカヤノは、シメノに厳しく当たる。

「…君の納得がいるの?」

対するシメノは冷ややかな反応である。

カヤノは一瞬ぐっと言葉に詰まったが、再びシメノに向き合った。

「当り前だろ。いいか?お前と俺はペアで仕事を任されてんの。

つまり一心同体なわけ。その片割れが納得してねぇーって言ってんだ。

お前には説明義務があるんだよ。」

咲はこの時、少々カヤノを見直した。

よもや彼の口から説明義務なる言葉が出てくるとは…彼を見くびっていたらしい。

ヤチノの口からも『ほーう。』と漏れていた所をみると、彼もまた見直した1体らしい。

「…確かに、あんたが言うのも一理あるね。

説明義務、ねぇ…どこで覚えてきたのか知らないけど、偉そうに。

この際だから言うけど、あんたのそういうとこ、本当に大っ嫌い!

私が何をどこでしようと勝手でしょう?

それを、いつもいつも…一心同体?勝手にくっついて来てんのはあんただから。

私が望んだことは一度もなかった!」

とうとうシメノの限界を迎えたらしい。

薄らと涙を浮かべた瞳で睨みつけ、今まで我慢してきたであろう言葉の数々をぶつける。

始めは呆気に取られていたカヤノも、その内言い返し、激しい罵り合いに発展した。

「あーヤチノさん…これは一体どうしたら?」

激しい口喧嘩を繰り広げるカヤノとシメノを見ながら、咲は苦笑交じりに尋ねた。

「待つしかあるまい。…昔から、この2体は喧嘩ばかりであった。

早く兄らしくなって、弟に胸を張れるぐらいになるべきなのだがな。」

ヤチノもまた苦い顔をして答えたが、咲は看過できない単語に目が点となった。

「え、待ってくださいヤチノさん。彼らは兄弟なんですか?!」

「?ああ、カヤノが兄でシメノが弟だ。」

「う、そでしょ…だって、あんなにも可憐な…。」

「シメノの言う趣味、なのだろう。」

「うっそぉーーん。」


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