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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
89/127

守られる側から守る側へと世話係

(89)


「え?」

「な、ば馬鹿!何を言い出すんだお前は!!」

すぐさま噛みついたカヤノは、シメノの胸倉を掴み上げる。

「お前!自分が何言ってんのか分かってんのかっ!?」

暗い地下牢に反響した怒声は、ビリビリと空気を震わせる。

「…放しな。二度は言わないよ。」

「なっ!」

シメノは決して声を荒げることなく、カヤノを見つめる。

その瞳は至って冷静そのものであった。

「シ、シメノ…?」

カヤノの目は大きく見開かれ、体は小刻みに震えている。

彼の動揺が手に取るように分かった。


トンと、軽くシメノは彼を押した。

それは本当に軽い衝撃だった。

しかし、カヤノは2、3歩後ずさると尻もちをつき、只々驚いた顔でシメノを見上げた。

「…どう、し、て?」

「あんたの世話係はもううんざりなんだよ。」



「ようこそお出で下さいました!」

クロノメを中心に扇状に広がった夥しい数のカラス達。

彼らは口々に歓迎の言葉を述べ、顔にはにこやかな笑みが広がっている。

なんとも不気味な光景だった。

「おお、やっと着いたのだな!」

アカキノは両手を広げ、手負いの配下を振り返った。

「ヨギノ喜べ、これでゆっくり出来ようぞ!」

「…ええ、有難いですな。」

言葉とは裏腹に神妙な面持ちのヨギノに、アカキノは首を傾げる。

「ボーヤ。お前さんがこれからどんな立場になろうと、あたしの知ったことじゃない。

でもいいかい、1つだけ理解しときな。

…お前さんは、守られる側から守る側にならないといけないんだ。いいね?」

ベニもまた真剣な面持ちであった。

「?お主は何を言っておるのか?」

キョトンとしたアカキノは、答えを求めてヨギノに視線を向ける。

「若、ご覚悟をお決め下され。…ここから先は、何があるか分かりませぬ。」

アカキノは驚いたように目を見開いたが、途端に吹き出した。

「何を言うかと思えば!ヨギノ、お前は誤解しておるぞ。

クロノメ殿も言っておられたではないか、これはフィナーレであると。

確かに危険な目には遭った。しかし、それは我らの力を見定めるが為。

そして見よ!あの歓迎を!我ら天狗族の力を示せたのだ!」



咲は、目の前で繰り広げられる展開の早さに目を白黒させていた。

「ちょ、ちょっと待ってください。展開が早すぎて、何がなんだか…」

「え?うそでしょ。人間は相手の心まで読み解けるんじゃないの?」

不意に振り向いたシメノは心底驚いたという顔で、咲を見た。

これには咲も驚き、はー?!という奇声を発した。

「そんな超人的な技!あ、いや…私が知らないだけで使える人もいるの、か?

いや、今関係ねぇーし!!

待って、ただでさえ混乱してるのに余計な情報を与えないで!」

咲は頭を掻きむしり、鬼気迫る表情でシメノを睨みつけた。

シメノは本能的な危険を察知してか、すぐさま頷く。

「一回、一回落ち着かせて!」

咲は何度か見本通りの深呼吸を繰り返すと、目を閉じた。


まず。私には利用価値があり、その為に捕えられていた。

そしてこれから、利用されようとしている。

ここまではOK…想定内。

問題はここからだ。

シメノは何と言った?

“人間に興味がある。その興味を満たしてくれるのなら、逃がしてあげてもいい”

…待て待て待て!

どういうこと?!それはカヤノも怒るわ!

仲間だと思っていたのに、突然敵方についた!ってなるでしょう。

折角2体で来たのに、なんで仲間割れしてんの。

…そもそも、どうして2体で来た?

私とヤチノさんの移送だけなら、どちらかだけで十分だ。

ヤチノさんが暴れた時のことを想定して…?

そうだろうか?

ヤチノさんは飛ぶ力を奪われている。

きっとそれ以外の力も制御されているとみて間違いないだろう。

だったら、なぜ…?

“あんたの世話係はもううんざりなんだよ”

ああ、そうか。

きっと、今までもカヤノとシメノはセットで考えられてきたのだろう。

だから1体でいい所を2体で来た、ということか。

…なるほど。そして今、唐突にカヤノはシメノ離れを迫られていると。

これは、考えようによっては千載一遇のチャンスなのかもしれない。


咲はぱっと目を開き、ビクっとしたシメノに親指を見せた。

「その望み叶えましょう!」


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