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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
81/127

トンチンカンと領主様

(81)


「ヤチノ!!お主何をしておるか?!」

ヤチノの言葉を遮ったのは、カラスであった。

驚いた彼はぱっと振り向き、相手を確認すると表情を和らげた。

「おお、ブルノ!」

ブルノと呼ばれたカラスは無言でヤチノの元に降り立つと、鋭く睨み上げた。

「何を呑気にしとるか貴様は!わしは、心配で…心配で、寿命が縮むかと思ったぞい!

なぜこんなにも時間がかかっておる?はっ!もしや…あれが暴れたか?!」

何やら怒っている様子だったブルノは、途端に心配顔に様変わりした。

咲は、見ていて飽きないなと、そんな感想を持った。

「いや、そんなことは…」

ヤチノの視線が咲に注がれ、その視線を追ったブルノは、そこでやっと咲に気が付いたらしい。

「やや!…そこにおったのか。」

咲を視界に入れたブルノは一瞬、その顔を嫌悪感に染めた。



「おっそいねぇ~。ほんと、なーにしてんだい!」

がばっと上体を起こしたベニは、不機嫌そうに鼻から息を吐いた。

「まったく、このあたしに待たせるなんざ100年はや…おや?」

ブーブー文句を垂れつつ再び寝転がったベニは、ふと視線の端に動くモノを捉えた。

それは2体の天狗だった。

体躯の大きな天狗が前を、小柄な天狗はその後ろをゆったりとした動きでついて行く。

「なんだいありゃ…?」

位置が少し離れているからか、彼らはベニの存在に気が付いていないらしい。

そうこうする内に、大柄な天狗が振り返り、小柄な天狗に何事か伝えている様子が見えた。

「はーん、なるほどねぇ~。」

そう呟いたベニは口元に笑みを浮かべ、ふわりと飛び上がった。



「お初にお目にかかる。わしはブルノと申すモノ。お主、名を何と申されるか?」

一瞬浮かんだ嫌悪感は影も形もなく消え去り、ブルノはなんとも温かな笑みを咲に向けた。

「あ…えっと。」

先程みたのは気のせいだったのか。

あまりの変わりように、咲はただ戸惑うばかりであった。

「…?おい、ヤチノ。」

そんな咲の様子にブルノもまた首をひねり、ヤチノに助け舟を求めた。

「なんだ?」

さすがはトンチンカン。

彼らの間に流れる微妙な空気感など、ヤチノに分かろうはずがない。

「いや、なんだではなかろう。あー…、何か緊張されておるのか?

ああ、そうであるか!突然わしが現れたものだから、驚かれているのだな。

これは大変失礼いたした。」

そうブルノは頭を下げたが、はっとしたように再度顔を上げた。

「も、もしや…ヤチノ!貴様、きちんと伝えておるのだろうな?!」

突然慌てだしたブルノは、掴みかからん勢いでヤチノを問いただす。

ヤチノはヤチノで、キョトンとした顔をするばかりである。

そんなヤチノを見るや否や、ブルノは驚愕の表情でワナワナと震え出した。

「ど、どうするのだ!もう先方はこちらに向かっておるのだぞ!

…だから、わしは貴様に任せるべきではないと主張したのだ。

ええい!こうなれば、仕方あるまい。」

そう勢いよく捲し立てたブルノは、キッと咲を睨みつけた。

「人間、お主にはやってもらうことがある。悪いが…拒否権はない。」



「どうも、初めましてかねぇ~?」

にこやかに微笑んだベニは、ふわりと着地した。

「なに奴!」

さっと棒状の何かを構えた天狗は、小柄な天狗を庇うようにベニと対峙した。

「嫌だね~。そんなもの、あたしに向けたところで意味はないよ。

そんなことは、お前さんだって分かっているんだろう?

ねぇーえ?次期領主さまぁ?」

笑みを深めたベニは、そう“大柄な天狗”に話しかけた。


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