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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
80/127

同胞は言った

(80)


咲は考え込んでいた。

先程から感じるこの胸の痛み。

これはなんだ…?

最初は、病魔の足音ではないかと疑った。

しかしそれは数秒で除外された。

なぜなら、つい先程までオジイノの元にいたからだ。

彼はモグリだと言っていたが、ヤチノの信頼度合から見て、本物であることに間違いないだろう。

そんな彼が見落とすだろうか?

答えはノーだ。

では他に何が考えられるだろうか…。

咲の脳内では、思いつく限りの可能性を探った。

そして…ついに彼女は辿り着いたのだった。


「浅野、もうすぐ着く。高度を下げるぞ。」

“高度を下げるとき、上げるときは一言ください!”

度重なるヤチノ乱高下に、とうとう耐えられなく咲は事前申告制を訴えた。

ヤチノは渋々といった感じで受け入れ、思い出した時には言うようになった。

…これでも進歩した方なのだ。

「浅野?」

返事を寄越さない咲を不思議に思い、ヤチノは軽く振り返った。

そこには、目をつぶって黙り込む咲の姿があった。

その姿を見たヤチノは、瞬時にある言葉を思い出した。

それはまたしても同胞に聞いた、どこで仕入れて来たのか不明な人間情報。

“人間が目をつぶっていて、なおかつ返答がない時…それは彼らの最後を表す。”

「あああ浅野ぉおーー!!」



しばし考えに没頭していたベニは、おもむろに動き始めた。

トントンと軽く跳ねたかと思うと、途端に景色が後方へと猛スピードで移動を始める。

ベニはただ歩いているようにしか見えないが、景色が凄まじい勢いで吹っ飛ぶ。

「まさか…とは、思うんだけどねぇ~え?」

そうポツリとこぼすベニの横顔は、不思議と楽しげにも見えた。

「もしかしたら…あたしはとんでもない時に立ちあっちまうんじゃないかい?」

とうとう笑い出したベニは、しばらく笑い続けるのだった。



「落ち着けバカヤチノ!!私がいつ?最後を迎えたよ??言ってみろ!」

慌てふためき、咲を振り落としかねないほど暴れたヤチノは、只今反省タイムである。

目的地まで目と鼻の先だったが、ヤチノの暴走により急遽、手前の山に着地したのであった。

「…すまない、私の早とちりであった。」

大きな体をシュンとさせるヤチノは大変庇護欲をそそる。

しかし、危うく本当に最後を迎えかけた咲は、庇護欲どころではない。

「はぁー…本当に勘弁してください。その同胞さん?の情報もいいですけど、貴方の背に乗っていたのですから、わかるでしょう?」

やれやれと肩をすくめた咲は、諭すように言葉を重ねる。

咲の言葉にはっとしたヤチノは、更に体を縮こまらせて謝罪した。

「面目ない…私が言うのもなんだが、その…怪我はないか?」

「ないですよ。…バカですね、ほんと。」

脱力気味に咲が答えると、ヤチノは情けない顔を少し和らげた。

「よかった。浅野に何かあったら、私はどう責任を取ったら良いのか…。」

「そういえば、私をあの場所に運ぶのがヤチノさんの仕事って言ってましたけど。

まだ他にもあるんですか?」

「ああ、私もつい失念していたのだが。

浅野をあの場所に運ぶ、というのが私の仕事だった。

しかし、それには続きがあってだな。

それは…」

「ヤチノ!!お主何をしておるか?!」



トン。軽い音一つ鳴らし、ベニはカラス族の住処に辿り着いた。

「おや…?あたしが先かい?どこで油売ってんだい、あの子らは。」

どうやらベニの方が先に着いたらしく、待ち合わせの場所には誰もいなかった。

「どうすんだい…あたしだけ先に入るわけにもいかないだろう。」

カラス族は誇り高き戦闘族であるがゆえに、縄張り意識も強い。

前回訪れた時は、クロノメというカラス族が一緒だった上に、彼らの依頼を元に訪れていたのだから、牙を剥かれる謂れはなかった。

しかし今回は少々複雑だ。

第一に、クロノメの依頼を遂行したとは言えない状況であるということ。

第二に、咲という人間を連れていくということ。

第三に、おそらく何か隠し事をしているであろう彼らに、事情を吐かせるつもりであること。

以上の三点を腹に据えていくのだ。

彼らとて馬鹿ではない、何かしら相応の対応をしてくるだろう。

だからこそ、ヤチノが必要だったのだが…どこで油を売っているのか。

「まったく、次から次へと…面倒だねぇ。」

ベニはごろりと寝転び、彼らを待つしかなかった。


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