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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
78/127

敢えて泳がす

(78)


「ちっ。」

険しい顔で睨み上げていたベニだったが、しばらくすると諦めたように首を振った。

「あんのくそったれがっ!」

腹立たし気に爪を立てたベニは、地面に深い溝を作った。

「あれー!?ベニー???」

突然、なんとも素っ頓狂な声が響き渡り、その声は間延びしながらベニの耳へと届いた。

「なんでここにいるのー??」

大きなカラスの背からひょっこり顔を出した咲は、心底驚いたという顔をした。


「…それはこっちの台詞さね。それより、お前さん無事だったようだね。」

「そうなのー!ベニは?大丈夫??

あ、ヤチノさん降ります。頭をこう…違う!それじゃあ、私が落ち…ああああ!!」

ベニの問いかけに答えつつ、咲はヤチノから降りようとして…落下した。

顔からいった。

「~~~~!!!」

声にならない叫び声を上げ、のたうち回る咲。

ヤチノはおろおろと反復移動を繰り返し、ただ砂を巻き上げるだけだ。

その砂がまた咲の目を直撃する。

「目がぁ!目がぁ!!」

「おお落ち着け!」

「お前さんがね~。」

先程までの緊迫した空気から一転、なんとも賑やかな空気が流れる。

「…なんだか馬鹿らしくなるねぇ~。」

ドタバタ劇を繰り広げる2人を眺め、そう呟いたベニは空へと目をやった。

重く垂れこめた雲は端に追いやられ、さんさんと輝く太陽が眩しかった。


「では私はこれで。」

「えー!もうちょっとだけ居てくださいよ。」

ドタバタ劇も落ち着き、用の済んだヤチノは早々に立ち去ろうとしていた。

どうやら、咲をここまで運ぶことがヤチノの仕事だったらしい。

「…なぜだ?」

キョトンとした顔で聞くヤチノは、情緒がない。

「なぜって…えー、聞いちゃいます?」

ヘラヘラと笑う咲は、余程ヤチノが気に入ったとみえる。

そんな内容のない会話さえ嬉しそうだった。

まるで付き合いたてのカップルのようである。

「…あーその、カラスの。もう少し羽を休めておゆきよ。

長く飛んできたんだろ?」

苦い顔をしたベニが助け舟を出す。

いや、ベニが見るに堪えなかっただけだろう。

「そう!そうですよー!ヤチノさん、ゆっくりして行ってください。」

ぱっと顔を輝かせた咲はヤチノの翼に抱き着き、ヤチノは釈然としない顔をしつつも、それを咎めることはなかった。

「おや~?」

ベニの知るカラス族は誇り高き戦士である。

その為、体に触られることを特に嫌ったはずだ。

「なんだい、面白いことになってるんじゃないか。」

ニヤニヤするベニだったが、今後の展開のため、敢えて触れずに泳がすこととした。


見渡す限りの砂、山、空。

そして…照り付ける太陽。

日陰はおろか、椅子さえない広大な大地にいる彼ら。

「どっか…移動しない?」

物珍しさが勝ったのは最初の5分だけ。

咲はフリース生地の裾を捲りながら、うんざりした顔を向ける。

「いいんじゃないかい?」

呑気に寝そべるベニは、大きな欠伸をしつつ適当な返事を寄越した。

「行きたい所があるのか?」

ヤチノは律儀に返答したが、咲の顔には“そうじゃない”と書かれていた。

「具体的に行きたい場所はない、けど…。ここじゃない何処かに行きたいんです!

だって暑いし!!つーか、暑くないの?毛皮族たちよ!」

ただでさえ暑い中、咲は大声を出したことで自分の体力を削った。

「おやめよ~。うるさい小娘は嫌われるよー?

ねぇ、お前さんもそう思うだろう?」

完全にリラックスモードに入ったベニは、ニンマリと笑った。

「?そこまでの声量は感じられなかったが…私はまだ許容範囲内だ。」

相変わらずトンチンカンな返答をするヤチノを見やり、次いで咲を見やるベニは心底楽しそうである。

「…?なに、どういうことなの?」

ベニの意味ありげな視線の意図がつかめず、咲は首をひねる。

「まだまだ、これからさね~。お楽しみは先に取っておこうかね。

さぁてと、カラスの。お前さん、住処は近いのかい?」


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