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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
77/127

あの子を頼む

(77)


イブキが語った内容は、大方ベニの予想通りといった感じであった。

「ふーん…なるほどね。つまり何かい?

お前さんは咲の夢の話をこれ幸いと利用し、意図的にケルベロスの力を奪った。

そうすれば持ち掛けた取引を優位に進めることができ、晴れて野望に一歩近づける。

そういうことかね?…なかなか見上げた根性じゃないか。」

口元に侮蔑の笑みを乗せ、べニはイブキを睨む。

「で、お前さんはこれからどうしよってんだい?

ソイツはもはや虫の息さね。…まさか、消しちまおうって魂胆かい?」

忙しなく繰り返されていた呼吸音は、いつの間にか聞こえなくなっていた。



再び空高く飛び上がったヤチノは、初めて感じる背中のぬくもりに戸惑った。

人間とはなんと温かいのか。

「ヤチノさん、オジイノさんに会わせてくれてありがとうございました。

また会いたくなる天狗さんですね。」

前回のような、まるで荷物のごとき扱いから一転、咲はヤチノの背中に乗せてもらっていた。

…正確に言うと、命令した、のだが。

「ああ、あのじいさんは悪い奴ではない。」

ぶっきらぼうな言い方だが、その声色は優しく、2人の関係性を伺わせた。

「…もうすぐ着く。」

そう言ったヤチノの声はなんだか寂し気で、咲の胸を突いた。



イブキはすっと目線を落とし、もはや四肢に力の感じられない彼を見た。

「…消しはしないさ。」

ただそれだけ呟いたイブキは、ふっと空を仰ぎ見る。

そこには、一体の大きなカラスがいた。

カラスは翼を羽ばたかせ、徐々に着陸態勢へと入る。

「次から次へと…今度は一体なんだい?」

同じく上空を見上げたベニは、苛立ちを含んだ目を細めた。


瞬く間に高度は下げたカラスは、大きく翼を動かし風を起こす。

巻き上げられた砂は、煙幕となって彼らを包み込み、数センチ先さえ見えぬほどであった。

「勘弁しとくれよ…。」

そう毒づいたベニだったが、ふっと近づいてきた気配に飛び退いた。

何モノか。

彼女は全神経を前方に集中させる。

「…咲ちゃんを、あの子を頼む。」

そう影は言い置き、またふっと気配が遠のいた。

「なに…?」

その途端、先程の比ではない猛烈な風が吹き荒れ、煙幕は一瞬にして霧散した。

そして、何か大きなモノが天空へと駆け上がっていく姿が微かに見えた。



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