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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
75/127

安請け合いモノと裏切りモノ

(75)


気が付くとそこは銀世界であった。

「…ゆ、き?」

「雪ではないかの~。」

咲の独り言に答えたのは、1体の天狗であった。



「おおこれは!!ベニザクラ殿!ようこそようこそ、おいで下さいました。」

「ありがとうございまする!」

「ああ、これで我らの悲願がやっと…!」

「皆の者、ベニザクラ様ではなくベニ様とお呼びするように。」

クロノメに促されたベニは、何の変哲もない岩場を潜り抜けた。

そのはずが…カラスの城にワープしていたのであった。


「…なるほどねぇー。お前さん、よもやあたしを騙したわけじゃあるまいね?」

さっと周囲に視線を巡らせたベニは、鼻に皺を寄せた。

ベニが潜った岩場は、特殊な術が施された場所だったようだ。

土地に力が宿っているわけである。

「滅相もございません!この命に誓って、嘘偽りを申しておりませぬ。」

「…フン。」

あたしも落ちぶれたもんだ。

ひと昔前の彼女なら、降り立った瞬間に察しがついていただろう。

「…少し、浸かり過ぎたかねぇ。」

咲やイブキと過ごした温かくも穏やかな日々を脳裏に浮かべ、そう独りごちた。

「は、何かおしゃいましたか。」

「いや、なんでもないさ。

さて…その話とやらを聞かせてもらおうかね。」



「して…いかがであるか?」

「まぁの~、お前さんが言うておった、肩は少し腫れておった。

だが、そこまで深刻になるほどでもあるまい。」

「左様か。…すまない、助かった。」

ふっと目を覚ました咲はぼんやりとした意識の中、少し離れた所で交わされる会話を聞いていた。

あれ…私、何してたんだっけ…?

頭の中に散らばるピースを1つ、また1つと拾いながら記憶を遡る。

確か…居間が異国…ベニの尻尾…カラスが…吐きそう…

カラス…カラス?

ああカラス!!

「ヤチノさん!!!!!」

咲の声は、深い洞窟の中を反響していく。

「どうした!」

少し離れた所にいたヤチノは、咲の叫びに慌てふためき、すっ飛んできた。

「ああヤチノさん!わ、私…あの生きて、生きています!」

「そうだな!」

咲は興奮気味に命を確認し、ヤチノは脊髄反射で同意した。

傍から見ると、何してんだ?状態である。

「これこれ。落ち着かぬか、おぬしら。」

尚も言葉にならない興奮を伝え続ける咲と、少しでも理解しようとするヤチノの奇妙なやり取りは、優しい声によって遮られた。

そこでやっと、ヤチノ以外の存在に意識が向いた咲は、はてと首を傾げる。

「…だれ?」

キョトン顔の咲は、えらく小柄な1体の天狗に尋ねた。

「ふぉっふぉっふぉ~。わしは、こわ~い天狗であるぞぉ~。」

両手を高く振りかざし、わざと低い声を出した天狗だが、顔が柔和なせいで迫力に欠ける。

まるで孫とたわむれるおじいちゃんである。

「おじい…!」

思わず口走った咲は、はっと口を押えた。

天狗は驚いたように目を丸くした後、ニッコリと微笑んだ。

「なんだ、聞いておったのか。いかにも、わしがオジイノである。」



さあさ、こちらに。さぁ!

次から次へと湧いて出るカラス達は一様に浮足立ち、期待に満ちた瞳を向ける。

ベニは今更ながら面倒なことになったと後悔し始めた。

「ベニ様…こちらです。」

クロノメが指し示した扉は、一見重厚な作りの特別室といった感じであった。

しかし、醸し出されるおぞましい気配に、ベニの毛は一気に逆立った。

「…なぁーんで安請け合いなんかしちまったんだか。」

ベニの口からは軽口が出たが、彼女の顔に笑みは見受けられなかった。



ニコニコと微笑む好々爺は、咲の反応を待っているように思えた。

咲はぱっとヤチノに視線を投げ、ぱっと逸らされた。

この裏切者!

内心毒づいた咲だが、頭はフル回転していた。

どうする?!

今更、実はおじいちゃんって言おうとしたんです…なんて言えない。

つうか紛らわしいにも程がある!

なんだオジイノって!

いや、待てよ。そういえば…

この時、咲の頭には天啓とも言える言葉が舞い降りた。

そうあれは、薄れゆく意識の中で聞いたヤチノの言葉。

“腕利きの医者”

これだ!!!

「えーっと、オジイノさん。お会いしたかったです!

貴方ほどの腕利きの医者に処置して頂けたなんて光栄です。」

咲は社会人生活で身に付けた、ザ無難な笑みを貼り付けた。

これでどうだ!!

内心の冷汗を気取られぬよう、微笑みつつオジイノを伺う。

彼は意表を突かれたような驚いた顔をしたが、徐々に顔を綻ばせていく。

「ふぉっふぉ。すまんな、わしはモグリじゃわい。」

その瞬間、鋭い視線がヤチノに突き刺さった。

ヤチノは心のノートにこう追記した。

“人間は怒ると怖い”


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