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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
73/127

もう二度と離さないで

(73)


耳をつんざく轟音。

身体を引きちぎられそうな程の強風。

只今、上空ナウ☆



「っち!あんのバカ娘が!!」

時は少し遡り、咲がテイクオフされた直後のことである。

ベニは咲の危機に反応こそ出来たものの、あと一歩叶わなかった。

気づけば咲は遥か上空に連れ去られ、哀れな悲鳴だけが長く響いていた。

慌てて駆け出そうとしたベニだったが、背後に気配を感じ飛び退いた。

「おや、申し訳ありません。驚かせるつもりは、これっぽっちも。

当方、クロノメと申します。お初にお目に掛かります、ベニザクラ様。」

そう声を掛けてきたのは、ベニよりも一回り小柄なカラス。

ベニは途端に眉をひそめ、警戒の色を一層濃くした。

「…お前さん、どこでその名を。」

牙を剥き出し、上体を低く構えたベニは唸り声と共に尋ねた。

「ホホホホ。ご有名であらせられます故。」

口元に翼を添え、上品に笑って見せたクロノメだったが、瞬時にまとう空気を変えた。

「ご挨拶はこの辺りにして…ベニザクラ様、しばしご足労願いまする。」



「あのー!!!!どこまでー!!行くんですかーーー!!!!」

咲は自分を掴んでいるカラスに向かって叫んだ。

最初こそ悲鳴を上げていた咲だが、しばらくすると人間慣れるものだ。

そのうちいくつかの疑問が浮かんできた。

どこまで行くのか。

自分を掴んでいるカラスは何者なのか。

ベニは無事だろうか。

やはり待ち受ける運命は餌なのか。

等々…。

もちろん恐怖は依然として咲の中に居座ったままだ。

「あーーのーーー!!しーつもーー」

「うるさい!静かにせぬか。」

何度も叫ぶ咲に、さすがのカラスも苛立ったらしい。

肩を掴む力が増し、咲は再び叫んだ。

「いだだだだぁぁぁーーーーー!!ゆる、緩めて!折れます、折れますてーーー!!」

先程よりも騒々しくなった咲の様子に、カラスは力を緩めざるを得なかったようだ。

「ああああ、もうーーー勘弁してくださいよーーー!!

つうか、誰ですか!!私、どこまで連れていかれるんですか!!

なーのーれー!!身代金ですかーーー???家には愛車しかありませんよー!!しかもローンがまだ残っていますからねーーー!!!」

カラスが強く掴んだことによって、恐怖心よりも憤りが勝った。

尚も、立て板に水状態でつらつら叫び続ける咲。

わざとカラスを煽っているかのようだった。

「黙らぬか!!」

カラスも頭に血が昇っているらしく、再び力を込めようとした。

しかし、それよりも早く咲は叫んだ。

「いいのか!?ええ??また叫んじゃうぞ!!

お前が嫌がる大声、だしちゃうぞ!!いいのか??やってみろよ!!」

完全にヤカラと化した咲は、両手を打ち鳴らし囃し立てる。

更にわざと身体をくねらせ、カラスの飛行を妨害するという暴挙に出た。

その結果、カラスは蛇行し、一瞬咲の身体は解き放たれた。


あ、これアカンやつ。


一瞬の浮遊感のあと、がしっと力強くカラスは掴み直した。

「ああああーーー!!!もう二度と離さないでーーーー!!!」

咲の涙の訴えは、カラスのため息と共に飲み込まれた。



クロノメの少し後をついて行くベニは、抜け目なく相手の動向を伺っていた。

そんなベニの口元には、薄らと自虐の笑みが広がる。

“ベニザクラ”

ベニの本名にして、忌まわしき名前。

とうの昔に捨て去ったはずの名前を、時を経て再び聞くことになるとは…。

「年は取りたくないね~。」

そうポツリと呟かれた言葉は、時折吹き荒れる風に攫われた。

「ベニザクラ様、もうす…」

「ちょいとお前さん。そのベニザクラって言うのは、よしとくれ。

今のあたしはベニで通してんだ。」

「…失礼いたしました。ベニ様。

もうすぐ到着いたします。…先程の件、何卒宜しくお願い申し上げます。」

クロノメは丁寧に頭を下げ、切羽詰まった様子を滲ませた。

ベニはフンと鼻を鳴らしただけで、特段返答を寄越すことはなかった。


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